un capodoglio d'avorio
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2003年01月19日(日) 青年団「海よりも長い夜」

早くも、2003年極私的芝居ランキング第1位候補なの、ひえ。

昨日、1月18日土曜日、シアタートラムにてソワレで。ちょうど上京していたぶぅも一緒に観る。練習のあとさんちゃに二人で出る。なんかねー、青年団見に行くのは、もはや、娯楽という感じがしない。でも・・・修行、でもないよな。娯楽と呼ぶには、刺激が深すぎるし、修行と呼ぶには、純粋に面白すぎる。

青年団の舞台では、開演前にすでに舞台に役者がいるのが普通。席について、すでに舞台にいる役者さんを観て、深呼吸。気持ちのバランスを整えて、心の「アンテナ」の感度を最大限に上げていく、気づいたら暗くなってた客電、いつの間にか幕は開いている・・・

「集団」と「個人」の関係。オリザがパンフに書いたこの戯曲のテーマ。奇しくも16日木曜日に観た「ピルグリム」と重なる感じ。しかし、舞台にのせたときのテーマの立ち上がり方において、全く勝負にならない感じ。どれだけケレンを見せたところで、最後に客を巻き込んでいくのは生身の役者だということを、皮肉にもオリザに示されるという鴻上氏には辛い展開だろうか。

ストーリーは、市民運動の団体が瓦解していく瞬間を淡々と綴っていく会話劇。高邁な理想と、生身の肉体の、乖離。共同体とは、こんなにももろく、はかない。ああ、人間てば全然、賢くならないのね、あんな悲惨な歴史があるのにね。という哀切。

この戯曲は再演である。初演はちょうどオウム真理教がテレビのワイドショーを独占していた時期。そぉ「集団」と「個人」の関係がとやかく口やかましく口さがなく取りざたされてたころ。あの事件は、私たちの共同体というものに抱く心理にどう影響したのだろうか。もしくはもっと昔、浅間山荘事件があったとき、テレビ越しに私たちは組織というものに、どんな心象を持ったのだろうか。そして、この日シアタートラムにいた人間は、この舞台を観て、どんな感情を抱いて席を立ったのだろうか。

オリザはでも、決して「集団」や「共同体」が不可能である。というメッセージを表現しているのではない。決して「理想」と「肉体」は相容れないというメッセージを表現しているのではない。ただ、いま現在の日本では、この顛末こそが最もありうる可能性だと、述べているだけだ。そこにないのは「対話」。異なるバックグラウンドの人間が、価値観をすりあわせていく技術、忍耐、寛容。終盤、一気に盛り上がる暗いテンション、普通の人が寄り合っているだけなのに、わき上がる黒い雰囲気。固唾をのむ、客席(ひきつる顔の、どかの隣のぶぅ)。

でも、悲惨すぎて、イタリアで最も濃いエスプレッソの色並みの絶望の闇を観客に浴びせておいて、でも最後の最後に、僅かに提示されるほのかな明かり。光じゃない、明かり。あまりにも暗く切ない展開の果てに見せられるそのろうそくの炎のような明かりが、水晶体に刺さって、痛い。涙が、出る。あの、女子寮の先輩と後輩が、寮歌を一緒に口ずさむシーン。そのあとの台詞。「後輩とこんなの、やだな」「すみません」・・・オリザの最も神より祝福されている才能とは、彼の独自の卓越した演劇理論でも、戯曲作成術でもなく、彼のシャイなロマンティシズムにこそあるとどかは思うの、あんまし評論家は誰もこれを指摘しないけど。

もちろん、青年団独自のスタイルは健在。客席に背を向けた上での、同時多発会話。そして青年団といえば「静かな演劇」とレッテルを貼られるけれど、全然、そんなの嘘さ。不必要に捩れたシャウトや芝居的なBGMが無いだけで、そのシーンにおいて、感情の流れによっては役者は怒鳴るし、泣くし、歌うし、跳ねるし、ノイズ満載。これのどこが「静か」なのか?これって、でもきっと、最近の青年団の変化なんだと思うな、どか的にこの変化は歓迎。昔は本当に「静か」だったのかもしれない。

そしてまさしく達人という称号こそふさわしい役者のみなさん。運動のリーダー役の太田宏さん、前からどか、好きだったけど、やっぱり上手いな。誠実で愛嬌のある風貌のうらににじませる卑怯。んー、すごい。あと、リーダーに恋人をとられそうな役の松井さん。すごい、この人。静かにゆっくり狂気を練り上げていく様は、鳥肌。青年団では特異な位置にいる人、いいなー、主宰にかわいがられてそう。今回は志賀さんや山内さんといったベテランも出てて、もちろん彼らも出色の出来。

・・・舞台がハネたあと、ぶぅに感想を聞く。「どかは、どこが面白いの、あれの」って。おっとぉ、びっくし。でも、話をさらに聞いていくと納得。ぶぅは終盤にかけての暗いよどんだ流れのテンションに巻き込まれて溺れちゃったらしい。

  ぶぅ お金わざわざ払ってさあ、なんでこんな暗い気持ちになる必要があるの?

  どか え、オレ別に、暗くなんかならへんよ。

  ぶぅ いやあ、オレは前に見に行った新感線とかのが、いいな。

  どか えええ、あんな予定調和で、シャンシャンシャン♪。な舞台のがいいの?
     そんなの、時代劇の金さんとか黄門様で充分やんか?

  ぶぅ うん、おれ、時代劇結構好きだもん。

って。これ聞いたらなつなつ、喜ぶだろうな、味方が一人増えた♪って。でもぶぅも青年団の戯曲のテーマはともかくとしても青年団の作劇法の有効度はかなり認めていた「巻き込み力はハンパないね」って。だからこそ、彼はあんなに反発したんだろうな。オリザの芝居は万能ではない。二極分化するのかもね、すごい支持する人と、嫌悪感さえ持つ人と。そしてそれはオリザの芸術家としての資質の限界を示すのではもちろんなく、むしろかれの芸術のコンセプトの確かさを証明する一つの事例に過ぎない。

と、思うのどかはー。とにかく。どかは、もう、すごいすごい、この舞台、評価するー。


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