un capodoglio d'avorio
2002年09月29日(日) |
G1スプリンターズS |
新宿のWINDSへ向かう。 WINDSなんて言うと聞こえが良いけれど、要するにただの、 「場外馬券売り場」のこと。 きょうは新潟競馬場でG1レース「スプリンターズステークス」が開催される。 中央線に乗り、新宿南口を降りる。
予想通り、超混雑しているビル内。 薄暗い建物の中に幾億の欲望が文字通り渦巻いている。 競馬新聞を一応買うが、もう、馬券は決まっている。 すなわち武豊が騎乗する「4番ビリーヴ流し」。 スプリンターズSは新潟11Rだったが、 新潟10Rと阪神11Rも一応ウオーミングアップで買ってみる。
外す。 でも新潟10R、武から流した馬券で、 武のビッグフリートは二馬身半差の一着だったから流れは悪くない。 阪神11RのシリウスSが決着し、いよいよメインレース発走の瞬間が近づく。
きょうだけは外すことは出来ない。 勝手にそう決めた。 WINDSの中で混沌にもまれながら、ずぅっとiPodでカラヤンを流していた。 うまく言えないけれど、絶対、武豊は来る。 才能の煌めきは、美しいものは、絶対揺るがないはずだ。 カラヤンの透明感が、ある人を奥底から駆り立てるほど絶対だったように。 お金じゃなくて、仕事じゃなくて、そんなことじゃなくて。 だからどかはこの馬券だけは外せない。
15:40、発走。 本命の一角、11番ショウナンカンプがコーナー途中で抜け出してくる。 ビリーヴはまだ集団後方真ん中から抜け出せないでいる。 馬群、一斉にコーナーから立ち上がる。 でもまだビリーヴは来ない。 二馬身抜け出たショウナンカンプ、ストレートに入ってまず一頭、迫り始めた。 9番アドマイヤコジーンだ、これも本命の一角。 そうして、ようやく大本命、ビリーヴの末脚が炸裂しだした。 先行する二頭の内側、あんまりスペースのない、 コースギリギリ内側の隙にビリーヴが割り込んでくる。 三頭が肌をすりあわせるくらいギリギリの至近距離でジョッキーはひたすら鞭を入れる。 いや、違う、武は鞭をあまり入れない。 入れるまでも無かったのだ、ビリーヴ、ゴールまであと100m、 圧倒的な瞬発力を見せる。 わずかなわずかな隙間しかないスペースに、地上のルールを覆す瞬発力。 必死に鞭が入る右の二頭を少しずつ、わずかに少しずつ、後ろに置いていく。 もう、どかは訳が分かんなくて涙が溢れそうで競馬新聞をもみくちゃにして。 ユタカーッて心の中でさけんで。 また、少し、ほんの少し、後ろに追いやったところでハナ差がつき、ゴール! この三頭のデッドヒートは、とても美しかった。 全ての情熱と才能が火花を散らして凝集していった、鮮やかな スパーク。 ゴールラインを超えて武がくるりと右手で鞭を回す、 いろんな希望やいろんな絶望を全て背負った競馬界の中心に立つ男が、 そのすさまじい重力の地場の真ん中でかるがると鞭をくるっ。 才能はなんと孤独で、なんと凛々しいのだろう。 欲望に千々乱れたヒトの群れの向こうに小さく見えるディスプレイの中で、 ユタカコールが巻き起こっていた。 ジョッキーは小さくガッツポーズし、 ビリーヴの首をポンポンと二回軽くたたいた。 どかのいる場所からなんと、遠い、でもそこはここから確かに、地続きの場所。
二着にアドマイヤコジーン。 勝ち馬券ゲット。 レースの間、外していたイヤホンをつけるとモーツァルトだった。 <モーツアルト・ホルン協奏曲第4番KV495より2楽章ロマンツア>
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