風に揺れるたんぽぽ
たんぽぽ



 ジムカーナ

彼は、所属クラブ(ホンダ車のオーナーズクラブ)主催のジムカーナに参加するために、私の住む街のすぐ側まで来ていた。

でも、私は、その時、実家に帰省していたので会うことは出来なかった。

彼とネットで出会ってから約3ヶ月。

毎日、数通のメールと1時間のチャット。
お互い、心では十分の引かれ合い、チャンスがあれば是非会いたいと常々話し合っていた。

そして、今回の彼の訪問は、そのチャンスだった。
帰省など延期にすれば会えた。
けれど、私は予定通り帰省した。
まだ、会うのが怖かった。

実家にいる間、ずっと彼の事を考えていた。
実家にはパソコンがないので、一週間近く何の連絡も取っていなかった。
でも、今ごろ、私の住む街にいるのかな〜と思ったら、気持ちが止まらなくて、近くの公衆電話で彼に電話してしまっていた。

「もしもし、私です。分かります?」
「あ、うん、え? なんで? すごいや!」
彼は、意味不明な言葉を発した。
思いがけない私の電話に相当驚いている様子だった。
「あのね、今、まさに、君の住んでる街にいるんだよ。道路の案内板に○○町、って書いてあるよ。君んちの近所でしょ?」
「え? あ、うん。そうそう、もうすぐそこが私のうちよ。」
私は、その時、全然遠くにいたのに、今まさにすぐそこに彼がいるような錯覚に捕われ舞い上がってしまった。

彼は運転しながら見える特徴的な建物や看板を説明した。
「うん、うん、そこを右に曲がれば、もうすぐ側よ。」
私は、今にも、彼が自分を尋ねて来るかのようにそわそわしてしまった。

ブー!
公衆電話が切れそうになった。
最後の100円玉を入れた。
「ごめん、もう小銭がないの。」
「あ、うん。君、いつ帰ってくるの?」
「来週中には…」
「うん、待ってるよ、早く帰っておいで。じゃ、待ってるから。」
「うん、じゃ、また。」

ブー!
また、電話が鳴って、お互い「バイバイ!」を言って切れた。

私はもう明日にでも帰りたくなってしまった。

1999年03月27日(土)
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