水溜りが映した電信柱の上に鴉が1羽止まって鳴いている。 雨上がりの空は、乾いて消えて行く水溜りが描く背景をキレイに青で塗っていた。 僅かな命の事を思ったのだろうか。
鴉は姿を消し、電灯が反射する明かりに水溜りは夜空を映し出した。 今度は静かにさらさらと流れているかの様な水面を思わす幾千ものを星達をを背景に、消えかかる水溜りのスケッチを鮮やかに彩った。 これから夢物語が始まるのかと思わす幻想的な空間、ほんの小さな、世界で最も小さい美術館…。
そこに月が訪ねてきた。 スケッチブックを埋め尽くしてしまうほどの大きな満月が。
星達は輝きを止めずに月を主人公として受け入れ背景を演じた。 月もそれを快く思い、雲をかき分け1枚の絵を完成させようと水溜りに映る自分と星達の今夜限りの美術館に集まった。
誰の記憶にも残らない1枚の絵を彼らだけは忘れまいと、この夜を大切に思った。
水溜りは徐々に小さくなって行く。朝の訪れと共に。
月は、さようなら、ありがとうと言い 水溜りも、本当にありがとうと言い
新しい朝を迎えた。 水溜りも月も星もゆっくりと眠りに付いた。
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