not ready

2004年06月28日(月) 左利きの彼女

スケッチブックには色んな絵が描かれている。
雪の降り積もった公園の木々達が重そうにしている絵、
子供達が赤い顔をしながら、雪合戦している絵、
ポツンと置かれて淋しそうにしている雪だるまの絵、
急に積もった雪に立ち往生した車の困った顔の絵、
駅のホームで恋人の帰りを待つ白い息を吐く女の絵、
そこには色んな顔が描かれている。

希望だったり、愛だったり、混乱だったり、苦しみだったり、淋しさだったり…。
―どんな事が起こるだろう―

僕はただスケッチが書かれていく過程を見ているだけ、隣で、君の。
暖かなスープを待つ少年のような心持ちで僕はそのスケッチを見る。
しかめっ面して被写体を見る君の顔はどこか美しい。
するどった気持ちが丸くなってそっと手を差し伸ばしてみたくなる。
赤い手をしながら必死にスケッチする彼女の左手を暖めてあげたい気分でいつもじっと彼女の左手を見ている。尖った気持ちが丸くなっていく時間…。

「少し歩いてみようか?」
新雪の上をゆっくり2人並んで歩いた。
「これからどうなるのかな?」
ミシッと音がする雪の上を撫でる言葉が彼女の耳に届くと
「振りかえったらきっと交互に2本の足が並んでるのよ、右足は右足同志並んで左は左で並んで」
「キレイにそろってるかな?」
「振り返ってみてみようか?」

キレイな直線がこっちを向いていた。4本の足が上手に2本づつ並んでいる、歩かには何もない。
―2人は一緒に―

胸は震える、希望を胸に。いつも歩いている道が白い色をつけて違う事を教えてくれた。雪だるまは寄り添って僕達に微笑んでくれている。
明日は溶けてしまうかもしれない。そこにあった形跡も、跡形も無く。
けれど僕は忘れない、今日と言う日を。
明日に繋がる今日を。
白い息を吐いて歩いた新雪の上で描かれたきれいな直線を、
―忘れない―

「さ、行こう!」
白銀の世界に響いた。


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