東から射す明るい日差しがカーテンを通り抜け、顔を覆った。 いつも隣にいるはずのミノリがそこにはおらず、寝返りするには余りに広いベッドの上で過ごしてきた日々にもそろそろ慣れてきた。 二人分の重さを背負っていたベッドのスプリングが鳴らす「ギシッ」という音も今では弱く力なく静かに役目を果たしている。時折悲しそうに鳴く音は誰かを思わせ、その度に胸に落ちてくる淋しさは部屋の無機質さとは裏腹に激しく確実に心へ染み渡る。慣れてしまった今もこの時折感じる淋しさには慣れることは出来ないみたいだ。
ゆっくりと上体を起こし、目をこすった。 まだぼんやりとしている頭と視界はおとぎ話の世界にいるような、ここは現実なのかどうなのか分からなかった。 テーブルにある1枚の写真が目に映った。裏返しのままにして置いてある写真…だけど表には誰が写っているのか、どんな顔をして誰と何をしているのかは分かっていた。徐々にはっきりとしてくる意識の中でそれだけは鮮明に頭の中で処理されていた。
ミノリとの楽しかった日々を彷彿とさせる1枚の写真、2人とも楽しそうに何の不安もなくレンズの前で屈託のない笑顔、出来上がった写真に日付と落書きの様な飾りつけをペンで書いていたミノリは 「これ、お気に入りの1枚!」 と誇らしげに見せて写真と同じように屈託のない笑顔を見せた。あの時は2人とも永遠が存在すると信じていた…いや、まだ信じているかもしれないが、それは2人の間には存在しないと言う事を知ってしまったのはそれからそう遠い話ではなかった。
写真を表にした、屈託のない笑顔が二つ並んで眩しすぎる2人の過去は、もうココにはないとこの写真が示してくれた。
ベッドから抜け出した。 「ミシッ」という音が鳴った。少し乱暴に、でも優しく。 テーブルに置いてある写真を裏返しにしてペンで 「good-bye」 それだけ書いた。
カーテンを開け、窓を開け放った。 優しい風と青い空が体を目覚めさせ、無機質な部屋の中を少し明るく彩った。 「さよなら」 窓の外、空の下、どこかにいるはずのミノリへ向け1つ届くと思って言ってみた。
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