コーヒーメーカーから少しずつ抽出されるコーヒーは一滴一滴、時間をかけて静かに音を立ててカップへと溜まっていく。 僕はそれを見ながら昨夜の事を思い出していた。 今日ではない昨日、少し前の事、今より前の事、1人の女性の事、…愛している人の事を。 キレイな鼻と大きな目をして僕を見つめるその眼差しは全てを吸いこむチカラを持っていた、もうその目を見る事は出来ないのだと思うと悲しく、見るもの全てがモノクロに見えて仕方なく、たまに音がするコーヒーメーカーを見ては現実に戻ったようなそうでないような…ポトッとコーヒーが落ちる音だけが響く部屋の墨にぼんやりと立っているだけの自分…。
恋をするといつも終わりを想像してしまう。始まりもしないのに、永遠を望んでしまう。目を閉じて彼女の事を思い出す…けれどもう何も思い出せない。何でだろうか…あんなに思っていた人の事をもう思い出せないなんて…。 ポトッ…また一滴落ちると、 ―好きだった― いつの間にか過去形に変わっていた。 もう思い出せない、気持ちは何も無くなってしまった。 漂流している気持ちがどこかへ辿り着こうともせずに、ただ流れに、想いに動かされてその度終わったとどこか納得している。 昨夜の事なんか忘れてしまった。
ポトッ…。 暖かいコーヒーにミルクを注いで飲む。マドラーで混ぜると茶と白が混ざり合う。 ―忘れなさい― と諭されるように。
「オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン。 モウイチド、オタシカメニナッテカラ、オカケナオシクダサイ」
「さようなら」 ゆっくりとコーヒーを飲み干した。
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