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2004年03月02日(火) キレイとは言えない女

太陽が沈みかけている。
月と交差しそうでしない両者は、また明日と約束を交わす友人のように少し遠い距離からお互いを見つめ合っている。

もうすぐ午後6時になるところ、来店を継げるベルが鳴った。
気だるそうに1人の女が入ってきた。
パンツスーツにシックな鞄、化粧はそこまで厚くもなく、どちらかと言えば自然な感じで清潔感溢れている。決して美人とは言えないが、もてるタイプ。仕事もできそうな才色兼備。そういったイメージをさせる女性。

四人席が空いていることを知ると店員の呼びかけも無視して自ら席を決め、隣に鞄を置いて座った。その座り方も気だるそうに、水を持ってきた店員にもそれが分かったのか接客をしづらそうな顔をして丁寧に水と灰皿を置いて聞こえるか聞こえないか位の声で
「ご注文が決まり次第、申しくださいませ」
と言ったが、案の定、女は知らん振り。聞こえていたのかもしれないし、聞こえていないのかもしれないが、どちらにしろ女は知らん振りをしたはずだ。
店員は俯いてその場を去った。きっと後で
「何よ、あの女!ちょっといい女だからって・・・」
同僚に言うもののそれは本当に何の慰めにもならないことを知らされるのだろう。

女は鞄からシガレットケースを取り出した。セーラムでも吸うのかと思ったがセブンスターを口に加え火を点けた。いかにも慣れた手つきで、ライターに火をつけタバコに火を点ける。セブンスターを吸いなれている女は多くは無いはず・・・。
女はゆっくりと煙を吐き出した。吸い方が汚い。思い切り口の中に煙を溜め込み、大きく口を開けるとゆっくり今みたいに吐き出す。吐き出すときの顔が何とも言えず醜い。二口目を吸ったところで女は手をあげ店員を呼ぶ。

「コーヒー」
最も短い単語を適切に伝えたが、店員は引き下がらなかった。
「ブレンドコーヒーとアメリカンコーヒーがありますが」
少し強めに、鼻にかけた言い方をした。もちろん女に対して意地悪心が働いたのだろう。だが女はそんなことを例え感じ、分かっていても気にはしない。常に自分より相手を下に見る女のクセ。生まれ持ってしまった性格・・・。
「ブレンド」
とまた適切に短く、そしてタバコを消すと
「どっちでもいいから早くしてくれますか?」
店員は完膚無きまで打ちのめされてしまった。しかし女は悪気の1つもない。ただ正直にモノを伝えただけで相変わらず気だるそうだが、全く店員には興味もなく、意地悪を言うつもりも無く、ただただ事実を伝えたまでだった。
「少々お待ちください」
店員が言える言葉はこれだけだった。

コーヒーが運ばれると女は一口飲んでまたタバコに火を点ける。
今度は鼻から煙を吐きだす。この汚い吸い方、女の欠点だった。女はそのことを分かっていない。全て完璧と思って疑わない。

女はそれほど男に困らない人生を送ってきた。それでもいつも喫茶店に行くと、どうも上手く行かないこと薄々気付いてはいたが、それは男の話が詰まらなかったとか、男の気配りが足りなかったとか全て男のせいにしていた。
タバコの吸い方さえ気をつければそれなりの男を自分の下に置いておけていたのに、それに気付いていない女は確実に不幸だった。

「ね、どこかでお茶飲もうよ!歩くの疲れちゃった」
可愛く言うのは構わないが、その吸い方を直さない限り幸せなど訪れない。
喫茶店から出てきた男の顔を一度でいいから見てみたい。
きっとイイ顔をしているのだろう、悪い意味での。

決してキレイとは言えないがタバコの吸い方がキレイな女
決してキレイとは言えないし、タバコの吸い方も汚い女

さあ、どちらを選びますかね。
明日はこの場所に男と来る事を祈って・・・。
そうすれば店員は少しくらい救われるでしょうから。
すっかり外は暗くなって月の明かりと街のネオンが交差してキレイな夜を演出している。
明日も明後日も。


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