また何か言ってる。 「ねえー、今度バーキンの新色でるんだって!!!」
―で?― 僕には興味も無ければ関心も無い、どーでもいい話で。何故か嬉しそうにこっちを見ながらコーヒーを飲んでいる彼女のタバコの吸い方が汚くて見たくない。煙を吐き出す時の口をだらしなく開けて吐く表情はどうにかならないものかと。最悪だ。灰皿にタバコをり置き放しにしてトイレへ行く神経も分からない。自分の事より他人の事考えてくれよ。そんな心の中で一人で言う僕に対し、何も知らない彼女は続けた。
「バーキンってどうしてあんなに高いか知ってる?」
―知る訳ねーし、知りたくもねーよ― だから興味ないんだって、つまんない話は。得意話も自慢話も君の話は聞きたくないんだよ。
「バーキン作れる職人さんって世界中にほんの少ししかいないんだって。しかもその職人さんの工房のマークが付けられるから貴重で高いんだよ!」 タバコを消してすぐにヴィトンのシガレットケースから一本マルボロメンソールを取り出した。タバコに火をつける時、思いきり吸うため頬がこけて見えるのもみっともない。
―君はいつもそのシガレットケースしか持って来ないじゃん、いらねーだろ!そもそもそのコーヒー代は誰が払うんだよ!ろくに財布も持ってないのに、バーキン、バーキン五月蝿いんだよ!そんなもんより財布あげるよ、がま口の。そいつに少しの小銭くらい入れといて、自分のコーヒー代くらい払う奴に育てたいね―
「人気の色は茶色と黒と赤なんだよー!この間店に入ったらダイヤが散りばめられてるバーキンがあってね、ちょー欲しかった!値段書いてなかったけど、車一台買えちゃうくらいの値段じゃないかな?」
―だから?朝から何回言ってるんだろ?興味ないって言ってるでしょ!―
「ねえー聞いてるの?さっきから私ばっか話してるけど。」 不意を付かれるとはまさにこの事で「興味ないから、知らない」と言えたら楽なんだろうけど、気が弱いを売りにこれまで生きてきた僕は 「そんなに欲しいんだね」 だってさ、自分でも呆れるほど嫌になる。と思っていたら目を輝かせてこっちを見ている女性を発見。 ―誰?何勘違いしてんだ、コイツ。俺が買うわけ無いだろ!がま口買ってやるって―
でも、僕は 「茶色と黒と赤、どれが欲しい?」 言った後に気が付いた。 ―完全にあっちペースじゃん!何言ってんだろ、自分。もしかしてバカがうつったか?―
相変わらずバーキンを買ってもらえると思っている少女漫画のような目をさせた彼女はこう言う。 「全部欲しい!全部手に入れるまで結婚しないし、子供もいらない。だって金かかるでしょ!」 ―ふぅーん、それはそれは。―
「買ってもらえばいいじゃん!」 「買ってくれるの?」 ―な、訳ないじゃん!興味無いって言ってるだろ!見てみろよ俺の灰皿を。さっき買った煙草がもう半分もねーよ、この吸殻の数を見てみろよ、つまんないからタバコばっかり吸ってるんだよ!―
ブランド物で愛が計れるなら僕は一生愛なんか出来ないや。誰も愛せないや。
「バーキン貯金でも作ろうかなって思ってるんだ!」 ―死ぬまでやってて下さい。―
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