緩めのカーブを曲がると女はタバコに目を移した。 口先にセブンスターを加えて100円ライターで火を点ける。 一口目は吸わずに口の中で転がしてから吐き出す。いつもより白い煙が車内を取り巻く。女のタバコを吸うときの癖だ。一口目は吸わない、ふかす。三口目を吸った瞬間に赤信号で止められた。 ―いつもの山手通り― 朝の、山手通り。徐々にビルの隙間から太陽が顔を出し、朝が始まる。流れる景色は太陽の光を逃げるようにして加速する。タバコの灰が落ちる寸前に灰皿へ落とす。これも女の癖。 カーラジオを付けると知らない音楽が流れる。朝にはふさわしい曲、静かな曲。これから起きる人をゆっくり目覚めさせてくれるような優しい曲。メロディーラインをなぞれば夜まで揺れていることができる曲。
次の赤信号までブレーキをかけない。女はそう決めた。タバコを消して、窓を開けた。風に揺られて走る景色は5秒後には太陽の光と交錯し、朝を迎える。 車は夜と朝をくぐって。
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