「やばっっっ!!!」
って、あいつの声であたしも目覚める。
意味が分からない。何がやばいの?
時計見て、気付く。
午前9時近く。
「・・・。卒業式って何時から?」
「9時・・・から」
「嘘・・・どうしよう・・・」
昨日は・・・て言うか、今朝、友達の家から帰ってきて、すぐ寝たけど。
寝たのが5時半だった。
目覚ましを一応7時半に掛けたのに、止めた形跡もないって事は、鳴り続けてたんだね・・・。
「送っていく?」
「電車の方が早い」
慌てて着替えて出て行く。
こんな日なのに、遅刻なんて・・・。
けど。
10時半近くに電話が来て。
「遅刻して入れない人がいっぱいー。式が終わるまでは卒業証書を貰えないらしいから、待ってるとこ」
「あ、一応貰えるんだ?」
「そりゃそうだろ(笑)」
友達と昼ごはん食べてから、戻ってくると言うので。
あたしは部屋の片付けして、パソコンいじって。
午後2時半、あいつが戻ってきた。
卒業証書を手に。
あたしに、広げて見せて。
そして、大きい袋を持って。
「おめでとう。よかったねー、本当によかったね」
「うん!で、これ。ホワイトデー!」
「え?手紙じゃなかったの?」
「いやいや。帰りに買って来た。今(笑)」
「よかったのにー」
中身は、キティちゃんのクッション。
「かわいいー」
「車において。どうでもいいけど、俺、サンリオのポイント凄い貯まってるんだけど(笑)」
「もう、最初の頃の恥ずかしさとかないでしょ?」
「ないない。すんなり入って、これください、とか言ってる(笑)」
出かけようかって事になって。
夜景が綺麗な公園に。
ま、昼間だし、夜景はないけど。
バトミントンを、ここで何度かやった。
久しぶりに、バトミントンをやりたくて。
前前から、「卒業式の後はバトミントンしようよ」ってあたしが言ってた。
最初は寒い、って言ってたあたしたちも。
「暑いねー」
って上着も脱いで。
風もなくて、バトミントンには最適。
疲れて、コンビニに行こうか?って話しになり。
車を出した。
けど、あたしが道に迷ってしまって。
「どこだ?ナビで探すか」
って言ったら。
「俺が案内するよ。この辺は、5年間遊んでいた場所だし」
って言うから。
あいつの言われた通りに、「ここ右、次左。正面を右」って走った。
・・・ら。
行き止まり。
に。
ラブホ・・・って。
「さすが、この辺で五年間遊んでいただけあるね!これがコンビニかぁ。へぇ・・・あたしが知っているコンビニとは、ちょっと違うみたい。さぁ、戻らなきゃ」
あたしは車をバックさせて、戻る。
「マジで入りたいんだけど」
「何でよ?」
そのとき、あたしの頭の中は、また卒業の約束で、いっぱい。
確かに、卒業証書を貰って来たらね!とは言った。
けど、貰ってきたその日じゃなくても・・・よくない?
「いちゃいちゃしようよー」
「何で?何でよ?やだよ!!!」
「昨日も、いちゃいちゃ出来なかったのに?」
あたしは無言で、走り出す。
コンビニをナビで見つけて、そこで止まって、お茶を買った。
あいつは、しきりに「行きたかったなぁ」と言う。
あたしは、ちょっとムッとして。
「あのさ。卒業の約束の事なんだけど。別に、今日卒業式だったからって、慌ててやらないでもよくない?」
「は?あぁ、あの約束ね。てか、踏み倒すつもりでしょ?」
「やるって言ってるじゃん!!!今日は嫌なだけ!!!」
「・・・。もう何でもいいよ。ひなちゃん(妹)の所に行くんでしょ?」
今日は、夜ご飯はあたしの妹の働いている店に行って食べる事になってた。
だけど、時間はまだ5時前。
お腹は・・・空いてない。
けど、行くところもないし。
妹の店に向かう。
運転してるあたしに、あいつが言う。
「りりかさー。俺ははっきり言って、あんな約束どうでもいいんだよ。やるよーって恥ずかしがっているりりかを、見て楽しみたいって感じで、言ってたけど。別に、本気で嫌がってるんだなって事くらい分かってたよ。本気で嫌がる事、りりかにすると思うの?」
あたしは、無言。
「昨日はYさんの家に泊まっちゃったしさ。みんなもいたし。ゆっくり、一緒にお風呂に入って、いちゃいちゃしたかったの。それもだめなの?」
「じゃぁ、行く?」
かなり、投げやりな言い方になっちゃって。
あいつもカチンと来たらしい。
「じゃー行く?はい、行ってくれますか?何て言うと思うの?ばかじゃん。もう今日はいいよ、行かないよ」
ため息混じりに言われる。
で、あたしの家に。
「ひなちゃんの所に行くんじゃないの?」
「いちゃいちゃしたいなら、うちでも出来るし」
「りりかんちに行っても何もしないよ?今更いいよ。ひなちゃんの所に行かないなら、俺は帰るわ」
って、マジで車に乗ろうとした。
あたしは、あいつの腕を慌てて掴んで家の中に入れた。
あいつは、ボーっと座ってて、明らかに表情は怒ってて。
「俺は普通にりりかとくっついていたかっただけなんだけど」
って、小さい声で言った。
「だって、最近、卒業の約束の話しばっかりだったから・・・。一時期、ノイローゼになるかと思うくらいに、考えちゃって。だから、なんだか・・・そう言う雰囲気になるのを避けたくて・・・」
けど、あいつは怒ってるまま。
「ごめん。あたしも、くっついていたいよ・・・」
って言ったけど。
無言。だった。
「いちゃいちゃしよっか。卒業の約束は今日は出来ないけど」
「いいよ、やらない」
「あたしがしたいって言っても?」
「無理しないでいいよ・・・りりかは、分かってないじゃん。今まで、絶対に嫌だってりりかが言ってる事、俺やった?」
「してない・・・」
「でしょ?でも、信用ないんだよね、俺って」
「そんなことないよ・・・」
「いいよー、マジで今日は。次会うまでには機嫌も直ってるよー。今は凹んでるだけだから、気にしないで」
気にするに決まってるじゃん・・・。
本当に、凹んでいる表情で。
暗いし、どこかボーっとしてるし。
なんだか・・・凄く、悪い事したなぁって。
何で、あたしはこの人の今までを信用しなかったのかなぁ。
嫌だって言ったら、させないって、そう言う人だって、知ってたじゃん。
「ねー。あたしが、本当にしたいの。だから、エッチしようよ」
嘘じゃない。
本当に、そう思った。
凹んでいるままの、この人見てるくらいなら。
あたしは、したいって思ったし。
「今、こんな凹んでいる状態で、気持ち何か入らないよ」
「入らないでもいいよ」
「は?」
「気にしないから。いいよ?」
「・・・。ふーん。分かった、気持ちが入らないままでいいんだ?」
「うん」
「俺の好きなようにやっていいんだ?」
「うん、平気。気持ちが入ってなくても、平気」
気持ちが入ってないセックスなんて。
今まで何度もして来たよ。
だから、平気。
慣れてるから。
気持ち何か入ってなくても。
性欲のためだけに使われる、なんて。
日常茶飯事だったんだから。
日常茶飯事、だったのに。
なのに。
心臓が、キューっとしてきた。
あいつの手が、あたしの胸に来た時。
凄く、怖くなって。
あいつの首に、思わずしがみついちゃって。
日常茶飯事、だったくせに。
慣れって、怖いね。
愛されてるって、自分本位じゃなくあたしのためにって。
そういうセックスしか、してなかったら。
怖くなっちゃった。
あいつは、そのまま。
手を、あたしの背中に回して、抱きしめてきた。
そして、頭を撫でてきて。
「ごめんね・・・。ふてくされて、ごめん」
って言って。
「出来るはずないじゃん。気持ち入れないで、なんて出来るはずないじゃん」
出来るはずないじゃん。
って、何度も何度も繰り返して。
その言葉を繰り返されるたびに。
あたしの恐怖で縮んでいた気持ちが、溶けて行くようで。
あたしは、泣きだした。
「泣かないでよー・・・ごめんねってー・・・」
何度も何度も、謝って、あたしを抱きしめる。
あたしも、頷いて。でも泣いて。
そのまま、腕枕されたまま。
たくさん、話した。
卒業式の後の、友達との会話とか。
昨日の、飲んでいるときの話とか。
話している途中。
あいつのお腹が鳴って。
「ひなちゃんのとこに、いこっか?」
って、あいつが言ってきた。
雨が降っていたから、あいつが傘を持って歩いて行った。
傘を持っている、あいつの腕にあたしがしがみついて。
「重いよー。ぶら下がらない!」
なんて。
笑いながら。
話しながら。
寒かったけど、平気だった。
楽しかったよ。
妹の所について。
妹が「遅かったねー」って。
あたしとあいつに、手紙を書いたんだって。
渡してきた。
あいつへの手紙に。
「りりかちゃんは、まだまだたまに寂しい病に掛かっているようです。 早く、一日でも早く、りりかちゃんを迎えに来てあげてください」
なんて、書いてあった。
あいつは、明日からまた、朝早く仕事。
だから、10時過ぎに出発した。
「ついたら電話するわ」
って、窓越しに手を振って。
あたしは、見えなくなるまで、見送って。
いろいろな事が、会った一日。
余り会えなくなった分。
濃くなったのかなぁ、密度が。
喧嘩っぽくもなったけど。
本当に、楽しかった一日。
そんな一日を思い出して。
また、涙が出てきちゃった。
「無事についたよ」
って電話が来たとき、あたしはまだ泣いてて。
「何で泣いてるの!?無事だってー。どうしたー?」
って。
会えなかったら、それはそれで、寂しいけど。
会った後は、会っていた間の事を思い出して。
もっともっと、寂しくなっちゃうんだよ。
って言ったら。
「悲しまないように、ひなちゃんからの手紙にも書いてあったけど。一日でも早く、おいで。俺のとこに」
泣いてたからかな?
声が、でなかったよ。
「うん」
って、言いたかったのに。
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