朝七時に起きて。
自然に目が覚めた時に、あいつが横にいる不思議。
あたしが洗面台で顔を洗ってたら、あいつも起きたらしく。
「おはよ」
って言われる。
最近は、「おはよ」は、メールの中だけだったから。
不思議な感覚に、またなる。
一日たっぷり、時間がある。
それは、ものすごく嬉しい。
ただ。
あいつの学校の用事・・・。
それは。
卒業の合否発表。
あいつは。
「大丈夫」
を連発するけど。
数日前にあいつが言った事が頭から離れない。
「卒業できなかったら・・・慰めてね」
「は?」
「卒業だよー、出来なかったら、慰めてねー」
「いやいや。出来ない恐れがあるの?100%平気、とか言ってきたじゃん!?」
「ううーん。テストの状況次第なんだよねぇ」
「ちょ、ちょっと待って!平気って言ってたよね?ぶっちゃけ、確率はどれくらいなの?」
「うーん。五分五分」
「はぁぁぁぁ???んで、もし出来なかったら六年生??」
「いや、やめるよ」
「ばーーーーーーか!!!!!!」
あたしがあまりにも動揺してたら。
「うそうそ、冗談だよ、大丈夫だって」
って言ってきたけど。
それはあたしの動揺を失くすために言ってるって事が、バレバレ。
確かに、後期のテスト、受け損なったのがあったなぁ。
レポートとして出したんだっけ・・・?
あたしと過ごしてしまった、親御さんから頂いたラストチャンスの一年。
これで出来なかったら、明らかにあたしのせいではないでしょうか?
また、朝からそんな事を考え出して、止まらなくなる、あたし。
モーニングを食べながら、聞く。
「ねぇ。学校、何時くらいに行くの?」
「昼くらいまでには」
「大丈夫かなぁ・・・」
「俺を信じろって」
「出来ないよー・・・」
「とりあえず、これ食べたら行こうか?」
「どこに?」
「学校」
「は?あたしも?・・・やだ!行かない、あたしは待ってる。結果だけ連絡して!!!」
「そんな事言わないでさー」
結局連れて行かれる。
ほぼ、一年ぶりのあいつの大学。
去年来た時は、桜を見に来たんだった。
あいつの元住んでいた家の近くのファミレスに車を停める。
今日は、どんより、曇り空。
ものすごく寒いし。
去年と同じ道を歩いているのに。
足が重い。
これは、決してあたしが一つ年を取ったせいじゃなく、結果を見に行くのが嫌だから。
「歩きたくない・・・」
ここは本当に坂道が多くて・・・。
重い足にはこたえる。
「ねぇ、歩きたくない。疲れちゃったよ。ここで待ちたい」
疲れたのは、本当。
でも、歩きたくないだけじゃなく、行きたくない。
結果をリアルタイムで知りたくない。
あたしの中では、もうほぼだめなんだろう、と思って。
あいつは自信家で。
けど、その自信家が五分五分だと言う時点で、かなり自信がないんだろう、と。
だから、怖くて仕方ない。
どんどん歩くスピードが遅くなる。
止まっちゃうんじゃないか、と思うくらいに、のろのろ歩く。
「ほらー」
あいつがあたしの手を握って、あたしを引っ張る。
あたしはわざと、またゆっくり歩く。
手がどんどん、引っ張られる。
あいつが止まって、今度はあたしの後ろに回って、あたしの背中を押す。
「おぶってやろうか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「疲れたより、見に行くのが怖いんだよ!」
年寄り扱いするな!とふてくされる。
学校に、ついてしまった。
あいつは、あたしの手を握ったまま、どんどん歩く。
あたしは「寒い」を連発する。
寒い、から、どこか暖かいところで、座って待っていたい。
結果だけ、教えてくれればいいから・・・。
こんなところに来ちゃってまで、まだあたしは駄々をこねる。
「寒い」って言ったあたしの手を、普通に自分のポケットに入れる。
若い大学生の子たちが、たくさんいる中で。
あたしは恥ずかしくなって、手を離す。
また手を繋がれないように、慌てて自分のポケットに入れる。
またのろのろ歩くあたしの腕を、強制的に捕まれて、進んで行くあいつ。
「ね・・・大丈夫だよね・・・」
近づいて来る結果に、怖くなって、何度も聞く。
「大丈夫だよ」
すっごく、優しい声で、あいつが言うから。
あたしは、逆にますます不安になる。
もっと強い口調で、「大丈夫だって言ってるじゃん!」とか言ってくれたら、逆に安心できるのに。
もしかしたら、あいつも、あいつ自身に、言ってたのかもしれないね。
「法学部はこちらです」
と言う看板の前で止まる。
何か、紙が張られてて。
え、え、どれが結果なの??
あたしは、あいつを見る。
あいつは黙って、少し笑って。
その笑顔は何?
と、あたしはパニくる。
「ごめんりりか」
なに・・・?
ごめんて、何?
完全に、訳が分からなく、なる。
「もうちょっと歩かなきゃ、だ」
「は?」
「ここじゃなかった」
看板に書いてあったのは、法学部の発表の部屋、らしい。
なんだよ、もーーーー!!!
通り過ぎる学生たちが、みんな手に紙を持っている。
「あれ、卒業出来る人たちがもらえる紙?」
「え?ああ、違うよ、あの紙に合否が書いてあるんだよ」
「そーなの?張り出されるものじゃないんだ?」
「違うよ」
なんだ・・・。
高校とかの、合格発表みたいなの、想像してたよ。
で、ついた先で。
あたしは、廊下の長椅子に座って待った。
座って。
手を握って。
下を向いて。
もしも、神様がいるのなら。
お願いします。
あたしの大好きな人を。
卒業させてください。
神様も怒るかな。
こんなくだらない事、聞いてられない!って。
でも、真剣に祈ってた。
お願いします。
お願いします。
お願いします・・・。
数分待って。
あいつが、紙を持って来た。
あたしは、ゆっくり顔をあげる。
「ど、どう?」
「はい」
あいつがあたしに紙を渡す。
その紙を見たとき、「あ、この紙、去年あいつの部屋で見た事あった」と思い出したりした。
紙の横の方に。
「卒業 合格」
の、文字。
それを見つけたと同時に、あいつの声。
「合格です」
あたしは、本当は立ち上がって抱きつきたかったけど。
もう、力が抜けちゃって。
馬鹿みたいに、手を叩いて。
「おめでとーーーーー。よかったぁぁぁぁ」
涙目で、あいつを見上げた。
「だからー、大丈夫って言ったでしょ?」
「もぉぉ、だめだと思ってたの・・・。よかったぁぁぁぁ」
「信用ねーなー」
あいつが隣に座って、あたしの頭を撫でて。
一緒に紙を覗きこんでくる。
「ほら、こんなにたくさん単位取ったんだよ。こんなに超えてるじゃん?」
よく分からないけど、14単位多く取ったんだって。
ホントにホントに、よかった・・・。
これで、本当に学生、じゃなくなるんだね。
友達に。
「りりかの彼氏って何してる人?」
「学生・・・」
って言わないで済むように、なるんだね。
なんて、そんな事はどうでもいいんだけど。
本当に、安心しました。
よかったね。
おめでとう!
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