あたしは、あいつの事を苗字で呼び捨てで呼ぶ。
あいつの苗字が呼びやすいのもあるんだけど。
なにより、最初からそうだったから。
でも、あいつは気に入らないらしい。
「下の名前で呼んで欲しい。Hくんって♪」
よく言われる。
あたしは「いや。HはHだよ」って言う。
(下の名前も苗字もイニシャルはHなんで、紛らわしいけど)
「俺、りりかって呼んでもいい?」
いきなり。
こんなメール。
「呼びたかったら、どうぞ。返事しないけどね」
「なんでー」
「嘘嘘。いいよ、好きな呼び方で」
「ほんと?」
「うん、別にいいよ?」
平静を装っているようにメールはしてたけど。
実は、ドキドキ。
なんか、恥ずかしい・・・
「なら、呼ぶ。りりか、元気?」
「うん元気・・・って、使いたいだけでしょ」
「ばれた?」
「慣れるまでは、ちょっと違和感あるね」
「俺もそう思う!」
その後も何回か、メールの中で「りりか」って使ってた。
あたしは、そのたびにドキドキした。
夜、電話が来た。
「お疲れさま。疲れた?」
会話の中で、普通に「りりかさん」と言う、あいつ。
「あれ?呼び捨てにするんじゃなかったの?」
「うん・・・メールでは出来るけど、実際呼ぶのは恥ずかしいね」
「うん、聞いてるあたしも恥ずかしいと思う」
「でも、慣らす!」
「なら、「さん」つけたら、なんか罰とか考えようか?」
「ええー、マジで?」
「マジで。何にしようかなー・・・」
「なら、りりかさ・・・りりかも、下の名前で呼ばなかったら罰にしよう!」
「あたしは呼ぶなんて言って無いもん」
「だめー。二人で慣らそうよー」
なんて事になってしまい。
罰は、あいつが「さん」付けしたら、5分間くすぐり続けられる、で、あたしが苗字で呼んだら、反省書という事でラブレターを書く、という事になった。
「でもさ、呼び方なんて、余り関係なくない?」
「だめだよ、俺と結婚して、同じ苗字なのに苗字で呼ぶの?おかしいよ!」
「そしたら夫婦別姓にするから平気」
「そんなの許さないから!」
「なら、結婚しないから平気」
「もっと許さないから!!!」
呼び方って、大事かな・・・
あたしはよく分からないけど。
でも、あたしが名前で呼ぶ事で、あいつが喜んでくれるんだったら。
それはそれでいいかな。
って、ちょっと思ったりした。
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