だんな様の引越し。
業者に頼んだから、掃除もすべてやってくれた。
あたしは一応、顔だけ出した。
でも、だんな様のお兄さんとかいて、ちょっと居辛かったから、すぐに帰った。昼から仕事もあったし。
子供たちが来るかな、と期待してたんだけど。
少しがっかりしながら、職場に向かう。
徒歩でも通える距離になったから、通勤は楽になった。
夜中近くまで働いて、家に帰ると、家の前で待ってた。
だんな様が。
「どうしたの?」
「明日休みだし、飲んじゃったから、運転自信ないし。泊めて」
「はぁぁぁぁ???」
「だめ?」
だんな様は運転がうまい。
飲んでいても、全然うまい。
けど、そんなの理由に来るって言うのは、なんなんだろう・・・
「だめじゃない、けど・・・」
「けど、だめ?」
「うーん・・・まぁ、ここで話すのもなんだし、入る?」
「悪いねー」
だんな様は部屋の中、いろいろ見回してた。
「なによ?物色?」
「いやー、本当に一人で暮らすんだなぁって思って」
「どういう意味よ?あいつと同棲すると思ってたの?」
「いや、そういう意味じゃないけどね」
「泊まらせた事もありませんー」
だんな様は満足げに笑った。
ちょっと、酔っているし、いつもと違う気もした。
あたしは疲れていたし、うとうとしてた。
そしたら、だんな様も横になって来た。
あたしのすぐ横に。
あたしは驚いて飛び起きる。
「なに???」
「眠いんだよ。この部屋狭いし」
「だからって、真横に来なくてもよくない???」
「りりかー」
だんな様があたしの肩に手を乗せる。
あたしは、その手をよける。
でも、肩を強く摑まれる。
そして、いきなり抱きしめられた。
「やめてくれない?」
あたしは、冷静に言った。
怒っているわけではなかった。
ただ、嫌だった。
「そういう感情、ないから」
あたしは、淡々と言った。
だんな様はあたしの肩に手を置いたまま、あたしの目を見る。
あたしもだんな様の目を見た。
だんな様はあたしにキスをした。
あたしは目を開けたまま、今起こっている状況を理解しようと思った。
なんで、あたしはこの人にキスされているんだろう・・・なんで?
だんな様の手が胸に来る。
だんな様はあたしの首にキスをする。
キスマークをつけようとしているのが分かった。
あたしはカッとなって、離れた。
「ねぇ。帰って欲しい」
あたしは、さっきより数倍大きい声で、しかも怒りに満ちた声で言った。
「ごめん・・」
「帰って。もう、来ないで、ここに」
家に入れた事とか、泊めようと思った事とか、全部後悔した。
「さよなら」
あたしは付き離すように言った。
だんな様は何も言わないで、出て行った。
首に、キスマークが付いちゃってた。
あたしはそれを見て、悲しくなった。
だんな様はキスマークとかつける人じゃなかった。
なんで、別れた今、そんな事をするんだろう。
なんでって。
あいつとの仲を終わらせたいからなんだよね。
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