うちの三人の子供たち。
長女はのんびりしてて、優しい、お世話好きな子。
次女は元気で、頭の回転が早くて、話好きな子。
長男は素直で、よく笑って、我慢強い子。
あたしの。
大事な子供たち。
仕事が終わってから、会いに行った。
居てもたってもいられなくなって。
だんな様の実家に、乗り込んだ。
だんな様のお母さんは、知らない。
あたしが付き合っている人がいる事。
だんな様は言えなかったと言ってた。
離婚の理由は、「あたしが構ってくれないだんな様に愛想を付かした」事になっている。
けど。
だんな様が言ったのか、お姑さんが気づいたのか分からないけど。
言われた。
「好きな人が出来たんでしょ?」
一瞬、ためらった。
ここで、そうだといったら、呆れられて、ますます子供を渡してもらえないんじゃないかって。
けど、嘘をつくのは嫌だと思った。
「そうです」
今まで、お姑さんが怖かった。
いつも冷静で。
いつも見下されて。
だから、あたしはお姑さんの目を真っ直ぐ見て話したり出来なかった。
今までは。
でも、今回は真っ直ぐ前を見て、話した。
「そうですが、だからと言って、子供の事と関係ないです」
いつも冷静だったお姑さんは、冷静じゃなくなって来てた。
そして、言われた。
「関係ないわけないじゃないの。そんな他人にどうやって孫の面倒見させられるのよ?それに、りりかさんのご実家は、片親でしょ。経済的にも苦しくなったりりかさんを援助してくれるわけではないでしょ?」
「あたしが、働いて頑張りますから」
「あのね、生活の質を落とすって、どんだけ苦しいか分かってるわよね?りりかさんも、片親になって体験してきたわよね?そういうの、あの子たちにもさせるの?」
「なるべく、負担にならないように、頑張ります」
「でも、お仕事そしたら頑張らなきゃいけないわよね。りりかさんのお仕事は時間も不規則だし。夜とか深夜の仕事のとき、誰が子供を見るの?一番上のお姉ちゃんは小学校5年だとしても、5歳のライラの面倒を見させるのは、かわいそうじゃない?」
「妹とか、母とかに頼るつもりです。だから、深夜勤務とかは週末の学校の休みの日とかにして、泊まりとかさせるつもりです」
「そんなの、かわいそうじゃない」
「子供たちは、あたしと一緒にいたいと思います」
一緒にいたいと思ってて欲しい。
あたしが、お姑さんと話している間、子供たちはお舅さんと出かけてた。
「何で、いきなり子供たちを引き取りたいって言ったんですか?」
跡継ぎが欲しいからでしょ?
「いきなりじゃないわよ」
は?
「いきなりじゃないですか。最初は何も言わなかったのに」
「いきなりじゃない。○○(だんな様)が離婚話を持ってきた時から言ってるわよ」
あたしは、聞いてなかった。
そんな事、聞いてなかった。
でも、聞いていたとしても、あたしはやっぱり嫌だって言ったに違いないし。
黙ってあたしたちの話を聞いているだんな様を見た。
だんな様はタバコを吸いながら、新聞に目をやった。
あたしと目をあわせようとしなかった。
憎い。
と思った。
親任せで、子供を取ろうとするだんな様を、汚いと思った。
あたしはこうして、一人で来ているのに。
この人は何も言わないで、親に言わせるだけで、傍観して。
あたしは、離婚した後もだんな様と嫌な、憎しみあった関係でいたくないのに。
ああ。そか。
なんかで聞いたなぁ。
『綺麗な離婚なんかない』
結局は、傷つき、憎しみ、汚い場面を見せ合い、離婚するもんだ。
綺麗に仲のいいまま、ドラマかなんかのように笑顔で離婚するなんて事はないんだ。
当たり前だ。
あたしは、何都合のいい事、考えていたんだろう。
そんな風に笑顔でうまく離婚するなら、最初から離婚なんかしないだろうに。
あたしたちには、子供までいるんだから。
「うちにはね、退職して家にいるお父さん(お舅さん)もいるし、私もいるし、子供たちも寂しい思いはしないと思う。だから、安心していいから。りりかさんは、りりかさんで新しい人生を一からやり直せばいいじゃない」
そんな、簡単なものじゃない。
あたしが産んだんだから。
あたしが、苦しんで産んだんだから。
そんな簡単に割り切れるはずもなく。
ただ。
考える。
子供たちはどっちが幸せなんだろうと。
今までは、あたしといたほうが絶対に幸せだって言う気持ちがあった。
なのに、その気持ちが揺らいで来ている。
考えてしまう。
もしかしたら、この家で。
何不自由なくて。
暮らしていったほうが、幸せなんじゃないの?
あたしと一緒なら、不自由もなくて幸せ。
なんていうのは、あたしのおごりであって。
本当は、あたしと一緒じゃないほうが、幸せになれるんじゃないの?
お舅さんは、とてもいい人で。
お姑さんにきつい事を言われているあたしに、いつも気遣ってくれてた。
それに、お舅さんは子供たちを可愛がってくれる。
お姑さんの目が怖くて、なかなか自ら接触できないとしても、あたしたちが来れば、いつも率先して子供たちの相手をしてくれる。
甘やかしてばかりではなく、ちゃんと叱るときは叱ってくれる。
でも、だからといって、お祖父ちゃんにお母さんの変わりは出来ない。
そう思うから。
「子供たちは、母親が必要だと思います」
あたしの、精一杯の抵抗だった。
お金の面とか。
寂しい思いをさせないとか。
そう言うのには、かなわないから。
あたしが子供たちの母親であると言うことしか、今は抵抗理由がないから。
「好き勝手やっているやっている母親が、必要かしら?あなたみたいなのはね、猫かわいがりって言うのよ。自分の都合で可愛がったり、寂しい思いさせたり、そんなのはね、母親って言う名前だけで、最低な事なんじゃないの?母親って言う資格があるかなぁ?」
資格?
産んだのはあたしなんだよ?
資格も何も、産んだ時点で、母親はあたしなんじゃないの?
お姑さんは話し続ける。
あたしの気持ちを読んでいるみたいに、話し続ける。
「戸籍上ではいくら母親でもね。要らない母親っているだろうし。いたらいけない母親って言うのも、いると思うの」
あたしは、要らない母親なの?
子供たちと一緒にいたらいけない、母親なの?
「子供たちは、今はあなたと一緒にいたいって言うだろうけど。でも、子供たちの幸せを考えたら、あなたから引くべきじゃないの?あなたの自己満足で、子供たちを辛い目に合わせてもいいの?」
自己満足なの?
あたしが子供と一緒にいたいって思うのとか。
子供たちには母親が必要だって思うこととか。
そう言うの全部、自己満足なの?
「まったく、りりかさんにあわせないとか言わないし。子供たちが会いたいときには、会いに行かせてもいいし。だから、うちで引き取らせてください。お願いします」
お姑さんは、冷静で。
あたしをいつも見下してて。
そんな人が。
泣きながらあたしに頭を下げている。
跡継ぎが欲しいんだ。
そう思っていたけど。
違うのかもしれない。
ただ、純粋に子供たちと一緒に暮らしたいだけなのかもしれない。
子供たちの幸せのために、考えてくれているのかもしれない。
頭の中が、からっぽになった。
子供たちとは会わないで帰って、と言われて、子供たちが帰宅する前に家を出た。
すごく、悲しかった。
でも、泣けなかった。
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