夕方、あいつが実家から帰ってきた。
あたしからいきなり会いに行った。
「子供たちは?実家?」
あいつは、あたしの実家に子供たちが行っていると思っている。
あたしは「うん、実家」と答えた。
だんな様の、実家。とは言わなかった。
突っ込まれるのがいやだったから。
なんで、だんな様の実家に行ってるの?って。
ただ単に、遊びに行ったんだよ、って答えれば済む話なのに。
なんとなく、あたしは言わなかった。
あいつの親御さんの話を、いろいろ聞いた。
とにかく、考えを崩さないあいつに、驚いてたと言ってた。
あいつは、やっぱりこっちで就職する、と言った。
あたしは、だめだよ、と言った。
「なんで?」
「縁、切られちゃうよ」
「分かってくれないなら、仕方ないよ、それも」
「嫌。絶対に嫌」
「何で?一緒にいたくないの?」
そんな事あるはずもない。
いつだって一緒にいたい。
でも、あたしも親だから。
一生懸命育ててきた子供が、自分の手から離れて行くの。
やっぱり、辛いと思うから。
しかも、こんな形で。
「納得してもらってなら、いいの?」
「そうだね」
「そっか。説得する。絶対」
こんな風に、話しているときも。
あたしは、実は子供の事がかなり気になっていた。
どうしよう。
子供たちがだんな様のほうに行っちゃったら。
そう考えると、いきなり不安が襲ってきたりする。
あたしを選んでくれる。
そう思い続けてきた自信が、揺らぐ。
「いっぱい、ぎゅーしてほしい」
「不安なの?」
「うん」
不安なのは。
子供たちの事を考えて、なんだけど。
あたしは、やっぱりずるいから。
利用してしまう。
この人の優しさに、甘えて甘えて。
甘え続けてしまう。
一瞬の気休めでもいいから。
あたしの中の不安を消して欲しい。
あたしは、そう思った。
だから、あたしから言ったんだ。
「抱いて欲しい」
それは、抱きしめて欲しい。と言う意味ではなく。
セックスをして欲しいと言う意味であって。
あいつは、さっきよりも強く抱きしめて来て。
まさか、あたしからそんな事を言うはずないと言うのもあるんだろうけど。
だからあたしはもう一度言った。
「違うよ。ぎゅーじゃない。エッチしたいの」
あいつは、驚いてた。
びっくりして、あたしを見た。
あたしは不思議と恥ずかしくなんかなかった。
「出来るか、分からないよ?」
「いいよ、出来なくても」
今は、あたしを感じさせてくれるだけでいいから。
あたしの、一方的な、快楽のためでいいから。
こんなときに。
あたしは、セックスをする。
最低だ。
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