march forward.
りりかの独り言。

2002年08月30日(金) 願い事は。

眠れるはずもなく。

あたしは、ほとんど寝ないまま。

夜が明けるのを待った。

きっと、あいつも同じ気持ちだったと思う。

朝が来るのを待つ。






早朝、だんな様は子供たちと一緒に実家に向かった。

だんな様も、感づいていると思う。

あたしが、あいつに会う事。

あたしが、眠れないで、何度も寝返りばかりうってた事。

きっと、気づいてた。その理由も。



あたしは、あいつにいつメールしようか悩んで。

朝8時に。

メールした。



「おはよう。あたしは、いつでも平気です」



返事はすぐに来た。



「おはよう。じゃ、15分くらいでつくから。ついたらメールします」




支度もして、待っててくれたんだな、と思った。

あたしから、いつメールが来てもいいように。




しばらくして、「つきました」と言うメールが来た。





ドキドキした。

たった、10日振りなのに。

何年も会ってなかったような。



10日前、もう一生会えないって、会わないって決めたからかな?

とにかく。

ドキドキしっぱなしだった。



下におりると、あいつの車。

あいつは車から降りて来て。


久しぶりの、あいつの笑顔で。

立ち止まっている、あたしに近づいて来た。



「おはよう」



あたしは、笑えなかったし。

返事も出来なかった。



ただ、足が進まないだけで。




歩かなきゃ。

あいつが、開けてくれた助手席に座らなきゃ。



頭では分かっているのに。

足が出ない。

声も出ない。




あいつが、あたしの手を握る、いつもみたいに。

軽く、引っ張ってくれる。



やっと、あたしの足が動き出す。

あたしは、やっと。

「おはよう」

って言えた。

言えたと同時に。

足が一歩出たと同時に。


涙も出たけど。




「泣かないの」

あいつが笑いながら言う。

あたしが車に乗り込んだ事確認すると、あいつも乗り込んで。



「どこいこっか?」

って、言った。



どこでもいい。

本当に、どこでもいい。

ここに、ずっといてもいい。

一緒にいられるなら、何でもいい。



あたしが黙ってたら。

あいつは、「じゃー、朝飯行こう!ね!」と明るく言った。




朝飯。の場所は。


あたしたちがいっしょに働いているとき、よく通った。

マックだった。

あいつが辞めてから。

あたしはここに来た事がほとんどなかった。



「りりかさんは、いっつも朝はホットケーキ!とか言ってたよねー」

駐車場で車を停めて、すぐに助手席に回って来て、ドア開けてくれて。

手を引いてくれて。

そのまま、手をつないでくれる。



安心した。

すごく、安心した。



あたしはやっぱり、お茶しか飲めなかったけど。

あいつは、小さく小さくカットしたホットケーキを、あたしの前においてくれて。

あたしが「食べられない」と首を振ると。

ちょっと、悲しそうな顔をした。

でも、自分の分と、あたしの分と両方全部食べて。

「りりかさんが食べなきゃ、俺が太っちゃうなぁ」と言って笑った。




それから、「どこ行こうかなぁ」って地図見てたあいつにあたしは。







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車を走らせる。

いつもの道。

いつもの場所。




いつもの階段で。

いつものドア。

いつもの。


部屋の香りがした。





また、ここに来たんだな。


あたしは、思った。



あたしは、いつもの、あたしの場所に座る。

あいつも、いつもの、あいつの場所に座った。





そのあと。

いっぱい、泣きながら、あたしはあいつに抱きついて。

あいつも、思い切り抱きしめ返してくれて。

頭をなでてくれて。

何度も何度も。



「愛してる」


って、言ってくれた。





あいつが、「りりかさん、目をつぶって」って言った。

あたしは、言われるまま、目を閉じた。



そして、あいつは、あたしの左手の小指に、指輪をはめた。


「本当はね。熱海で渡そうと思ってたんです。で、買ってあったの」



指輪は、ゆるゆるで。

食べてないせいで、指もやせちゃったらしくて。

手を振ると、抜けちゃうくらいで。



あいつは、薬指にして見た。

そしたら、ゆるいけど、何とかおさまった。



「願い事。かけられないよ、小指じゃなきゃ」

あたしが言うと。

あいつは。

「じゃー、また、買うよ。今度は、一緒に買いに行こう。ね」





それで、あたしは、ずっとあいつの肩により掛かって、いろいろ話して。



そして、昼過ぎに。

妹があいつの家の駐車場まで迎えに来てくれた。

「Hちゃん。これからが、大変なんだからね」

って、妹が言った。

あいつは、笑顔で頷いて。

「この人(あたし)に会えないこと以上に辛い事は、ないからね、俺の中では」

いいながら、あたしの頭を軽く叩いた。




車の中で、妹は。

「もう、迷わないでね」

って言った。



あたしは、薬指の指輪を見ながら。

頷いた。



あたしの願い事は。



自分で、自分の力で、叶える。


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