眠れるはずもなく。
あたしは、ほとんど寝ないまま。
夜が明けるのを待った。
きっと、あいつも同じ気持ちだったと思う。
朝が来るのを待つ。
早朝、だんな様は子供たちと一緒に実家に向かった。
だんな様も、感づいていると思う。
あたしが、あいつに会う事。
あたしが、眠れないで、何度も寝返りばかりうってた事。
きっと、気づいてた。その理由も。
あたしは、あいつにいつメールしようか悩んで。
朝8時に。
メールした。
「おはよう。あたしは、いつでも平気です」
返事はすぐに来た。
「おはよう。じゃ、15分くらいでつくから。ついたらメールします」
支度もして、待っててくれたんだな、と思った。
あたしから、いつメールが来てもいいように。
しばらくして、「つきました」と言うメールが来た。
ドキドキした。
たった、10日振りなのに。
何年も会ってなかったような。
10日前、もう一生会えないって、会わないって決めたからかな?
とにかく。
ドキドキしっぱなしだった。
下におりると、あいつの車。
あいつは車から降りて来て。
久しぶりの、あいつの笑顔で。
立ち止まっている、あたしに近づいて来た。
「おはよう」
あたしは、笑えなかったし。
返事も出来なかった。
ただ、足が進まないだけで。
歩かなきゃ。
あいつが、開けてくれた助手席に座らなきゃ。
頭では分かっているのに。
足が出ない。
声も出ない。
あいつが、あたしの手を握る、いつもみたいに。
軽く、引っ張ってくれる。
やっと、あたしの足が動き出す。
あたしは、やっと。
「おはよう」
って言えた。
言えたと同時に。
足が一歩出たと同時に。
涙も出たけど。
「泣かないの」
あいつが笑いながら言う。
あたしが車に乗り込んだ事確認すると、あいつも乗り込んで。
「どこいこっか?」
って、言った。
どこでもいい。
本当に、どこでもいい。
ここに、ずっといてもいい。
一緒にいられるなら、何でもいい。
あたしが黙ってたら。
あいつは、「じゃー、朝飯行こう!ね!」と明るく言った。
朝飯。の場所は。
あたしたちがいっしょに働いているとき、よく通った。
マックだった。
あいつが辞めてから。
あたしはここに来た事がほとんどなかった。
「りりかさんは、いっつも朝はホットケーキ!とか言ってたよねー」
駐車場で車を停めて、すぐに助手席に回って来て、ドア開けてくれて。
手を引いてくれて。
そのまま、手をつないでくれる。
安心した。
すごく、安心した。
あたしはやっぱり、お茶しか飲めなかったけど。
あいつは、小さく小さくカットしたホットケーキを、あたしの前においてくれて。
あたしが「食べられない」と首を振ると。
ちょっと、悲しそうな顔をした。
でも、自分の分と、あたしの分と両方全部食べて。
「りりかさんが食べなきゃ、俺が太っちゃうなぁ」と言って笑った。
それから、「どこ行こうかなぁ」って地図見てたあいつにあたしは。
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