午前中、退院した。
母が来てくれて、実家に帰った。
食事は、まだ出来ないけど。
でも、また、ヨーグルトとかなら、食べれるようになった。
母は。
あたしに何も言わないし。
あたしに何も聞かない。
「ママ、あたしの事呆れてる?」
洗濯物を干す母の後姿に、聞いて見た。
母の手が止まって。
「私は、自分自身に呆れてる」
と言った。
あたしの事を。
強くて。
頑張り屋で。
負けず嫌いで。
ちょっとやそっとのことじゃ、倒れたりしない人間だと思っていたと。
だから、そんなあたしに気づかなかった自分に呆れていると。
「私は、あんたの親なのにね。昔から、親らしく無かったね、私は。あんたの生理が止まった時、帰ってこさせればよかったなぁって思うよ」
あたしは、17歳で周りの反対を押し切って出来ちゃった結婚して。
そして、いろいろな事があったけど、あの時反対した人たちに、
「やっぱりだめだったね」
と言われるのが怖くて。
自分は幸せだ、自分は間違ってなかったんだ。
って、言い聞かせてきてた。
辛いときも。
悲しいときも。
親にも言えず。
あたしは、走って来て。
意地張って。
だんな様が一時期、あたしを殴っていた事。
だんな様が女遊びしてた事。
「だから、あんな簡単に相手を見極めないで、結婚するからー」
言われたくなくて。
「いいだんな様だよ」
自分に言い聞かせるように。
母は、そう言うこと、全部だんな様から聞いたらしい。
「あんたは。何も言わないから・・・幸せなんだとばかり思ってたよ」
幸せだと思ってたよ・・・
あたしも。
これが、あたしが小さいころから欲しかった、幸せなんだって。家族なんだって。
ずっと思ってたよ。
でも、結局壊したのは、あたしなんだ。
あたしが、もっとちゃんと変われば。
この幸せは続いたのに。
あたしが、あたしから。
壊してしまったんだ。
夜。
仲良しの主婦から、電話が来た。
仕事は、無理言って、来月の3日まで休む事になった。
有休残ってて、よかったね、とか。
結局、辞めないでしょ?とか。
仕事の話ばかりして。
そして。
「ねぇ。りりか、着信拒否してるんだって?」
ドキッとした。
「何が?」
「H君だよ。してるんでしょ?」
「何で知ってるの?」
「聞いたから」
何度も何度も。
電話しようって思った。
メールしようって思った。
何度も何度も。
会いたいって思ってた。
でも。
あたしから、あんな風にだんな様の元に帰る事を取ったのに。
今更・・・そんなの許されないって。
「代わるよ」
「え?」
あたしが、聞き返すと同時に。
あいつが電話に出た。
「・・・りりかさん」
久しぶりの。
久しぶりの、あいつの声だった。
あたしは黙ったまま。
「ちゃんと聞いてて。何も言わなくていいから。切らないで」
あたしは震えてた。
何で?
って言われたら、分からないけど。
ものすごく震えてた。
寒くもないのに。
ずっと、聞きたかった声なのに。
怖かった。
何を言われるか、怖くて怖くて。
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