就活で、面接だとか説明会だとか、いままでだらだらやっていた人間が、いきなり髪を染め、髪を切り、真面目に取り組んでる。
「暑いのに、スーツはホント疲れますー」
なんて、電話が来る。
本当は実家に帰って、適当に家業を継いで、とか思っていたらしい彼には、今の状態、大変なんじゃないかな、と、たまに思う。
あたしと付き合わなかったら、たぶん実家に戻っていただろうし、たとえつきあっていたとしても、別居の話とか出る前だったら、東京で就職、とか考えなかっただろうし。
だいたい、実家の方面に支店とかある会社選んで、実家に住みながら、働いてお金貯めて、経済力つけてから。なんていってたし。
それが、今じゃ、東京で働けて、給料もそこそこよくなきゃ、とか思っている。
あたしが望んだことじゃない。
あたしは、たとえ、別居や離婚しても、頼るつもりはない。
だから、やりたい仕事、してくれていいんだよ?って思う。
あたしのために、なんて責任とかで、将来の事決めて欲しくない。
嬉しい気持ちも、もちろんあるけど、なんだか・・・重い。
無理、してるんじゃないの?そんなの、重いよ。
つい、口から出てしまった。
言っちゃ、いけないって思っていたのに。
こんなに頑張っているあいつに、水をさすような事。
理由はなんであれ、やる気を出しているあいつに。
「無理?何言ってるんですか?」
そりゃ、怒るよね・・・
「重い?そうなんですか?」
ホント、すいません・・・心で止めておくべきでした。
でも、ここまで言っちゃったら、止められないしね・・・
「やりたいこと、やって欲しいじゃん。あたしが別居するとか言い出して、頑張らなきゃって気持ちでいてくれるの、うれしいけど。でも、君の人生をあたしが左右するのは、って思ったり。するんだよね」
あいつは、ため息ついて。
「左右されている、とか全く思ってないんですけどね・・・」
「うん、そうなんだけど。でも、いずれ将来、あの時本当は、違う事したかったんだよなぁとか思われるの、いやなんだ。あたし」
「あのさーーー」
「何?」
「俺が、どんだけ、愛しているかって、分からないもんなの?伝わらないもの?」
「は?」
「俺、なにもかも掛けてでも、捨ててでも、りりかさんのために、りりかさんと一緒にいたい、守りたい、とか思っているわけじゃないんですよ?」
「ああー、うん、そか・・・そんなあたしの事好きじゃないって事なわけ・・?」
「ばっかじゃないの!!?じゃないでしょ。俺のためなんだよね。俺の」
「・・・・」
「俺が傍にいさせてほしいから。そんだけ」
「え?」
「だからね、・・・こんな恥ずかしい事を何度も言わせないでくださいよ・・・俺が、傍にいたいの。俺のために、やってるの。俺がりりかさんといたいから、勝手にやってる事なの」
「うん・・・」
「決して、りりかさんたちを養わなきゃいけないから、とかじゃないの。そんな気持ちはないの。今あるのはね。ただ、俺が離れたくないからって事だけなんですよ」
「そうか」
「そうですよ。それで、りりかさんが辛くなったときとか、頼りたくなったときは、頼ってくれていいし。りりかさんの性格上、一人でやってやるって背負い込むから、傍にいないと・・・ね」
「傍にいないと何?」
「疲れて、崩れそうになって、そのとき他に手伝ってくれる男とか現れたら、流されちゃいそう!」
「ばーか!」
「(笑)冗談ですけどね。りりかさんが愛せるのは、俺しかいないし。いないはずだし。・・・いないよね?そう思いたいんですけど・・・」
だんだん、言葉に自信がなくなってくるあいつに、あたしは、笑ってしまう。
「笑わないでください!かなり切実な問題なんだからね!」
「ごめん、そうだよ。そうだねー」
「まだ笑ってるし。俺は、そんだけ愛してますよって事。男の方から、傍にいさせて、なんて言っちゃう位ね」
きっと、本音だと思う。
でも、きっと、安心させるために言葉を選んで言ってくれているとも思う。
気づいてないだけだよ。
あたしに左右されているんだよ、結局。
自分で決めたとしてもね。
でも、いつか、将来。
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