店のお金が先週無くなった。 多分、犯人はあの人と、もう決めつけられてた。 ・・・一緒にディズニーシーも行った、仲良しの32歳の人だ。 そのせいで、今彼女ともめていて、ごたごたしている。 仕事は犯人と決まったわけじゃないので、自宅謹慎という形になっている。 あたしたちは、もちろん疑っていなかった。 あたしはそのひと(Aさん)に聞いた。
「嘘つかないでね。Aさんが犯人じゃないよね・・・?」
ちょっとの間があって、「違うよ」と答えが帰ってきた。 「間」が気になったけど、信じよう、とあいつと決めた。
でも、今日の朝、仲良しの社員に聞いた。 「Aさんが犯人だったよ。ばっちり、証拠もそろった。会社側は彼を訴えるよ。でも、まだ誰にも言うなよ、社員しか知らないんだから。君にだけいったんだから」
あたし、過呼吸になった。はぁはぁして、苦しくて、倒れるんじゃないかって。どうしようどうしようどうしよう・・・・ ぐるぐる回った。何もかもが。
聞きたくなかった。知らないでいたかった。なんであたしになんて言うんだろう、なんであたしだけなんだろう・・・・ 泣きながらあいつに電話した。
「ねぇ。。。。Aさんが、犯人だったんだって・・・・どうしようどうしよう」 「落ち着け!!いいから!」 「だってだって、ねぇ、どうしよう。あたし、Aさんに逃げろって言った方がいいのかな、ねぇ。ねぇ!!」
またはぁはぁなって、手が震えて。
「いいから、落ち着きましょう。落ち着いたら、来てください。学校休んで、待ってます。でも、落ち着いてからですよ!」
あたしは、3時間くらいして、やっと運転出来る状態になって、あいつの所へ行った。 落ち着いてはいたけど、声のトーンは低いわ、まだ頭の中は混乱中だわ。
「あのね。りりかさんがね。すごくすごく悩むの分かるけど。俺なら、俺ならですよ、Aさんに話しますね。それで、つかまる前にやりたいことしたほうがいいんじゃないかなと思いますね」
また、はぁはぁ息苦しくなって。 あいつは、よしよししながら、たまに背中とかさすって。 そんな簡単なものじゃない。 そしたら、あたしにだけ話してくれた、社員の人がまずくなる。 きっと責められる。何で話したんだって。 どうしよう、どっちを取ったらいいの? どっちも大事な仲間だよ・・・
「でも、りりかさんが決めることです。それで、その意見に俺は賛成しますよ。みんなが反対してもね。だから、自信を持って」
Aさんとは、仲良しだった。ずっと、一緒に働いて来た。 喧嘩もした。言い合いもした。 でも、すぐ仲直りして、男女の仲を超えた友情だった。 回りのみんなも認める、あたしとAさんの関係だった。 だから、こんな事をするなんて、信じられなかったし、信じたくなかった。 そんなにお金に困っていたのなら、なんで言ってくれなかったんだろう。 あたしだから言えなかったのかもしれない。
「ほらほら。悲しまない。へこまない!起こってしまった事は仕方ない!今は悪い事考えない。ね」 前向きだなぁと、あたしはちょっとだけ笑えた。
「あたし、Aさん、許せるかな・・・」
「聞き間違いじゃなければ、キリストの言葉にこう言うのがあったような。 何も罪を侵していない人より、罪を犯して心を入れ替えた人のほうが、10倍の価値があるそうです。今は許せ無くても、そのときがきたら、笑って迎えませんか?」
そうだね・・ あのとき、あたしが「嘘をついてない?」って聞いたとき、 間があった。 あの間は、きっと、嘘を塗り重ねたくないって思いが混じっていたんだな。 あたしに嘘を言わなきゃならないという心の中の葛藤と。
「あたしが、そんなことしたらどうする?」 「許しますね。俺は、りりかさんのすること、許しますよ。一番の味方ですし」
よしよししながら、あたしを抱きしめる。 あたしは、こいつといると、こう言う不安とか悲しみとか、 癒されていくのが、目に見えて分かる。 あいつが言う。
「俺は、りりかさん専属の診療所の先生ですから」
「元気を処方します」
あたし、こいつを好きになってよかったな、って思えるんだ。 こういう時。 うちのだんな様なら、「そんなの考えすぎるなよ、ばかだな」とか、「わかったわかった、へこみすぎ、何?過呼吸って、おかしいんじゃないの?」とか「適当にやれよ、その辺」突き放されたりするだろう。 あいつは、言わない。 「りりかさんは、不器用だからねぇ。まぁ、器用なしたたかな、りりかさんだったら、嫌ですけど。不器用なところが好きですね。軽く簡単に割り切って考えられない、人のいいところばかり見ようとする、あなたがね」
だいぶ楽になった。 だから、今日は素直にお礼を言おう。 「ありがとう」
珍しくあたしが素直にお礼なんか言うものだから、あいつは照れて、 「処方箋をおだししますが、3日で切れますので、土曜日に取りに来て下さいね」なんてちゃかして。
土曜日から日曜日に日付が変わるとき、あたしたちは3ヶ月目に入ります。
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