朝、勤務明けて、すぐに彼に会いに行った。 最初は重い空気が流れて、なんだか逃げ出したい衝動に駆られたけど、 いきなり頭をなでられて、抱きしめられて、重い空気はどこへやらって感じになっちゃって。
「胸が苦しくなるって、本当なんだなって。思いました。別れるってこと考えたとき、切り出したとき、その後のあなたの表情を見たとき、胸が締め付けられて。凄く苦しかったです。でも、分かって欲しい。失いたくないから、あなたを疲れさせないように、がんばらなきゃって思うから言ったんですよ」
「わかってる」 口に出さないで、あたしはぎゅーって、思い切り彼を抱きしめ返した。 それが答えなんだけど。きっと、伝わったよね。
「俺の大学の桜が、凄い満開で、かなり咲いているんですよ。木も太くて。見に行きましょうよ、今から!あなたは、歩くの好きじゃないから、嫌ですか?」 「行こうよ。歩くって、それくらい」
無邪気な笑顔の彼と手をつないで、大学までの道のりを歩いた。 あたしより、ずいぶん年下の、若い大学生たちが、いっぱいいる中を歩いていたら、あたしは手を振り解きそうになった。あいつは平気で手をつないで、いつもみたいに顔を触ったり髪を触ったりする。 あたしはまた、年齢差と、周りからどんな風に見られているのかを気にしちゃったりして。 でも、あいつがまったく気にしないこと、あたしは嬉しかったりした。 あいつの中で、あたしは年齢が上だとか、結婚しているとか、あまり関係ないんだよね。嫌、あまりじゃない、全然関係ない。 大好きな人と手をつないで歩くって言うことが、自然なんだよね。 あたし、周りからどんな風に見られたっていいかな。あたしたちが好き同士なんだから。卑屈な考えは捨てなきゃ。
大きな桜の木の下で、いっぱい話して、太陽の木漏れ日が桜の花びらの間からのぞいて、気持ちいいくらいに晴天で。 それは、空だけじゃなく、あたしたちの気持ちもそうだった。
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