2002年02月01日(金) |
事故〜優しいキスまで |
朝、いつもどおりメールチェック。メールは3件。留守番電話にも1件入っていた。 メールを見る前に留守電を聞いて見た。
「あの。事故を起こしました」
目の前が真っ暗になり、とにかくあわてて、彼に電話をした。 出ない。どうして?病院?何がおきたの? 泣きながら、仲良しの主婦に電話した。 「落ち着きなさい!まだ7時前でしょ。寝ているだけかもしれないじゃないの!」 そのとき、携帯がなった。彼からだ。
「どう、ど、どうしたのよ!事故って???」 「いや、昨日電話切った後、気晴らしにドライブに出かけて。あなたにメールしようと思って、うちながら運転してたら前の車が進んだように見えてアクセル踏んだらオカマ掘っちゃって」 「怪我は?だって、飲んでたじゃない?!」 「はい・・・だから、警察にも怒られましたよ。ちなみにかすり傷ひとつ無いです。俺って不死身ですよねー」 「・・・今から迎えに行くから。一緒に仕事行こう。今日は出勤時間も一緒だし」
彼を迎えに行く車の中で、運転しながら考えた。 こんな大変なとき、あたしはだんなの腕の中で眠っていた。 そして、もしあの電話をすぐ取ったとしても、あたしは駆けつける事は出来なかっただろう。 あたしは、何もやっぱり出来ないんだな。 涙が出そうになった。好きな人が事故を起こした。 半分はあたしの昨日の発言が理由でもある。 あたしは、何をしているんだよ。あたしみたいなのが、あんないいやつと一緒にいる権利無いんじゃないの?あんなに真っ直ぐに人を愛せる、あんな素直な人間と一緒にいてはいけないんじゃないの?
彼は、いつもの無邪気な笑顔だった。あたしの大好きな。 「ごめんなさい。心配掛けました。ご迷惑おかけしました」 言葉を発したら、あたしは泣いてしまう。だから、黙ってうなずくだけが精一杯だった。 ごめんなさいは、あたしだよ。心の中で謝り続けた。
もちろん、仕事は手につかなかった。 彼はいつもと、いつも以上に明るく振舞っている。 あたしが暗いこと。昨日のこと。事故のこと。 いっぱい考えなきゃイケないことが山積みで、だからあえて明るくしなきゃやってられないんだろう。
「今日、夜話さない?」 「あなたから誘ってくれるなんて珍しいですね、凄く嬉しいです」
あたしは別れる決心をしていた。
夜、彼とあった。はじめて、彼の部屋に入った。 「もー、来るって言うから、掃除しまくりましたよ」 何の話をされるか、予想はついているだろうに、こんなときもわざと明るく振舞う彼が切ない。
「あたし。何もしてあげられなくて、ごめんなさい。事故起こして、大変なときに、あたし寝てたんだ。それに起きていたとしても、何も出来なかったと思うんだ。これは、あたしが結婚しているからで、きみが、普通の女の子と恋愛していたら、こんな事無いと思うんだ」 ぽつぽつ、話し始めたあたしを、彼はずっと見つめていた。 「で?だから、もう別れようとか言うんですか?」 「そうだね」
沈黙が続いた。長い長い。時間的には数分でも、息が詰まりそうな。 先に口を開いたのは彼だった。 「先が見えないのが嫌だからって、昨日言いましたよね?確かに見えないですね。こんな事故起きるなんて、思ってもいないし。でも、事故起こして思ったことがあるんです。俺は怪我も無く、元気だったけど、もしも事故で死んでいたり、大怪我を負っていたら。俺、後悔すると思うんですよ。 明日が見えない分、今の気持ちに最優先になったほうがいいんじゃないですか?俺はそうします。そうしなきゃって、思ったんです。人生は一度きりですよ。やり直しは出来ないんですよ」
頭を殴られたような、衝撃を覚えた。 確かに、あの事故で彼に万一のことがあったら、あたしは一生後悔しただろう。未来が見えないから切りたいなんて、言うんじゃ無かったとか、もっと好きだって言うべきだったとか。 人生は。そう、一度だけなのに。あたしは、安全な道へ、そして自分の気持ちとは正反対の道へ進もうとしている。
また、泣いてしまった。人前で泣けないあたしが、こいつの前では、平気で泣けるのがまた不思議だ。だんなの前でも泣けないのに。もう11年も一緒に暮らしているのに。
日付が変わっても、あたしは彼の部屋で、彼の腕の中で泣いてた。 いろいろなことが吹っ飛んで、あたしは子供みたいに泣きじゃくった。 彼は、子供を寝かしつけるように、あたしの頭をなでて、 背中をさすって、たまに額に頬にキスをする。
「本当にあたしでいいの?何も出来なくても、いいの?」 「いいもなにも、俺のほうこそ、俺なんかでいいんですか?ですよ」
おととい、だんながおざなりに抱きしめてくれたときと比べてしまった。 あたしは。こいつといるときの自分が一番素直で。 そして、安心出来て。ただ、抱きしめられているだけなのに、 あたしは凄く凄く愛されていると言う実感を感じてしまった。
そして、初めてキスをしてしまった。 だんなが体を求めるときに面倒だけど、一応ね。と言う感じのキスとはまったく違って、凄く切ないけど、優しいキスだった。 あたしは、こいつがいなかったら、きっと潰れてしまうんだろうな、と ボーっとした頭の中で考えていた。
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