「大変だったみたいね」「いやもう、」「結局、東京は?」「むり」「そっか」「まさか生きている蛇を棒に巻き付けて出てくるとは」「怨霊なのね」「たぶん」「どうしようもないかもね」「そうみたいだ」「幸せってなんだろうね」「知らない。でも過去の方が幸せならちょっとキツいかなって思った」「彼、そうなの?」「かなり」「ふーん。元カノ?」「みたいだ」「ユイ君は、今幸せ?」「僕? 僕は別に」「そうなの、」「多分」「そっか」 内容の無い電話をIと交わした後、寝ようとして、なかなか寝付けなかった。ずっと彼が繰り返していた「二人」とは一体何だったんだろう。彼の、強直的な笑いでへの字にぐっと曲がった目は確かに怖いものがあったが、それは別に忘れようと思えばシャットダウンできる類のものだった。「二人が」「あの二人が」って、あんたそこにいるじゃないか、何言ってんだ、そんなに怖い眼をして蛇を振り回さなくても、「あいつら二人は」って、うち一人のあんたそこにいるじゃないか。 二枚に裂かれている姿は不可解だった。 「冴えないオッサンが、未来有望な若者が、しょうもない同年代が、全部おれにとって花だ。種子だ。種だ。おれが、非常食として口にするための果実なんだ。それはおれだけでなくあいつにも与えてやりたかったな、果実だ、栄養価はあったはずだ、あの時点であの二人はそこいら中の人間を種子と言いきれた。だがどうだ。肉の方が遥かにうまい。認めなきゃならんだろう。だがあいつらは、あいつらを、いやもうこれ以上は言うだけ無駄だな、あいつら。あいつらは。もう。ほんとにどうかしとる。あいつらめ。ユイ、お前なら解るだろう、とにかくあの二人を磁場から解き放たないといかん。この世をフラットにするために、おれはもっとひどい重力の集合を今から植え付けに行くからな。置換をせんとな・・・ここから先は生きていけん。あの二人を超えるものは多分この蛇だ。あいつら」 そこからどれだけ「あいつら」と言い続けたことか。もはや誰のことなのか判別が難しくてほとんどついていけなかった。だがtwitterによるとその時間帯は丁度、新大阪をドクターイエローが通過していたらしい。冷やかしで新幹線のホームまで見送りに行っても良かったかもしれない。やられた。 |
writer*マー | |
★↓729参加・総合リンク↓★
☆テキスト・アート☆
☆☆ダークゾーン☆☆