それは二頭の蛇が巻き合わせてある鋼鉄の棒だった。金具で蛇は縛り付けられており、彼は、持ちあげて、月光に照らしだした。不安定な夜空は月の白々しい光をよく遮って、影がしばしば彼の手元を、二頭の蛇を覆い隠した。彼はぬらりぬらりと光る鱗を舐めた。 おれが打ち破ってやろう・・・おれは閉塞しとるからな、過去に囚われているんだ、あの一番幸せだった頃にな、だが時間は経った、「二人」はもう別の世界に生きていなければならん、なのにおれはまだこんなところで「二人」のままなんだ、いいか? 彼は二頭のアオダイショウが月光に映し出される度に嬉しそうに微笑んだ。おれの中で「二人」は今も永遠かと思えるほど確かに笑っている・・・その幸福論に終止符を打たねばおれは、おれは、前へは一歩も進むことができないんだ。だからおれは考えられる限りの呪いを掛けてやろうと思う。どうすればいいと思う!? お前なら解るんじゃないかと思ったんだ。あっ。いや。待て、答えは言わなくていい。お前なら答えは解るからな。解らなくてもいいんだ。蛇が気になるか? 協力してくれる奴がいたんだ。凄い奴だ、おれのことを本当によく分かってる。あいつは。何も言わず、蛇を二匹、バインドしてくれたよ。慣れていたな。あれは凄く慣れた手つきだ。 彼はもう止まることを知らなかった。いや、止まる、という選択肢を廃絶するために今を懸命に生きていた。「二人って言ってますけど、その二人の居場所は分かってるんですか」「当然だ!一人はこのおれ。此処にいるだろう、もう一人はあいつだ。何年も前におれに、素晴らしい希望を与えてくれたあいつなんだ。話には聞いてなかったか? 聞いてないか・・・いや言うな!それでいい。お前なら解ってるはずだからな、もう何も言わなくていい。東京に行くよ」「そんな格好で行くんですか!」「この蛇は人を咬めない、毒もないしな」「いやいや止められますよ新幹線でも」「大丈夫だ、おれはまだ止まれないんだ、切符を買わなきゃな、みどりの窓口はどこだ」「いや、やめてくださいって」「言うな、おれは決めたんだ、あの東京の記憶のコアになるあの場所にこいつを打ち立てて、おれ自身の記憶の場を改変するんだ」「それは妄想の中でやってくださいよう」「なにを言う」彼はこの上なく嬉しそうな眼で僕の中を覗き込んだ。「おれが生きるためだ―生きていくためだ」「はあ」 |
writer*マー | |
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