篭城紳士  2005年10月03日(月)
もうもうと熱い水蒸気を噴き上げる炊飯器を、玄関のあがりかまちに、どん、と据えて、「さあ来い、来るがいい、私はこの夜、お前さんと、とことん付き合う、篭城紳士!」等と、得体の知れぬことを言い散らしておった。それが昨夜。


水蒸気には香りは本来、ないのだが、そこはさすがに、炊飯器である。悶々と、あたらしい米の香りが立ち込め、「ああこれは」「これはなんとも」「ああ」「もう」「はあ、」「・・・うう、」と遂には床に座り込んでしまう始末。腰砕け、とは良くぞ的を得たもので、本当に腰ががくがくして動けない。まさに、これは、飯炊エクスタシー。なんと甘美なことであろう。お陰で可燃ごみを捨てに行くのを忘れた。グッ。


別段、誰かの来訪を待ち構えていた訳ではない。しかし昨今、物騒な世である。新聞配達人を装った強盗が、いるかも知れぬ。新聞勧誘員に見えて、実は、殺し屋かも知れぬ。「新聞がおちてますよ」との声にうっかり戸を開けた途端、衣類を引き裂かれて全裸にされ辱めに遭うかも知れぬ。そう思うと、「これは篭城だ、立て篭もって対決せねば、人としての尊厳を奪われるだろう」等の警戒に至る訳である。


しかし疲れた。お陰で、会社では仕事がはかどらぬ。

あまりにやる気が出ないので、ギャンブル中毒の先輩社員の話を聞くことに専念した。「ぼくは真っさらです」「借金の積み残しなどありません」等と、町金融にすら平気でうそをついて、もっと金を借りようとするので、しまいにどの業者からも警戒され、ブラックリストに載ったという彼。

仕事中だというのに、便所に行って、大便のふりをして、実はフォーマでテレビを繋ぎ、競馬中継をチェックするという大胆不敵ぶり。しかし借金は一向に減らず、増える一方。9月の給料は既に馬に消えたという。ああ、何という堕落者だろうか。私はなぜか無性に、家に飛んで帰って、飯を炊きたくなった。


世知辛いなことに直面すると、新鮮な飯を炊きたくなる。それが私の性分である。炊飯器があれば、とりあえずは大丈夫である。安堵の息を漏らす。ふう。


つい先日は「メル友」等という、これまさしく得体の知れぬ輩と、「メル友サイト」なるもっと何ともいかがわしく得体の知れぬ場所で知り合った。しかし、「私は彼氏を通じてたいまを入手している」「タイに行きたい」「ラオスっていいよね」等の末恐ろしい言語でメールを寄越すものだから、私は尻尾を巻いて逃げ出したのだよ。


もうすぐ、引越しである。どうせ炊飯器も、その時分には、ただのがらくたとして破棄するであろう。それまでの二週間ほどの間、め一杯、めしを炊こうと思うのだ。だってほら。「炊こう」=「多幸」。多幸感ですよ! メチロンインパクト!! いや何でもない。


(ー_ー)ξ





My追加
新サイトでアート、珍スポットのレビュー特集中!

★Link『マーでございます』★




writer*マー

★↓729参加・総合リンク↓★

☆テキスト・アート☆

零壱【01】ランキング

☆☆ダークゾーン☆☆

エンピツ