起きて居間に下りると、母が朝ご飯を作ってくれる。 それがいつもの朝の始まり。
その日、居間には一人暮らしで家にいないはずの姉がいた。 母と姉、二人の声は、とても慌ただしい感じがする。
階段を下りてきた私に、姉は興奮した面持ちで話し掛けてきた。
大学2年に上がる為に何日も、それこそ何十日も掛けて作成したレポートがあった。 とある先生に、「これを提出すれば2年になれる」と言われて、その言葉の通りに姉は頑張って作ったレポートがあった。 (私は知らなかったんだけれど、姉は一人暮らしの時にも大学を休学していた時期があったらしい。レポート作成はその分を取り返す為の物だったとか。)
だけど、そのレポートを提出したのに姉は2年に上がれないと言われた。
姉にレポート提出を言った先生の勘違いだったそうで、その先生は泣きながら姉に謝ったそうだ。
…泣きながら謝られた姉の気持ちはどこにぶつけたらいい? 先制で泣かれた姉は、きっとさして感情を荒げる事もできずに許したんだろう。 泣くなんて卑怯だ。本当に泣きたいのが誰かを考えれば、涙なんて流せないはずだ。 泣いている人を慰めるのは、本当に泣きたい人だったなんて質の悪い喜劇のよう。 この時、姉は自分の感情を出せなかったんだろう。 そして、内に向かった感情は、行き場をなくして爆発したんだろう。
姉はこの大学のレポートの話を早口でぺらぺらと捲し立ててきた。
「今私すごい早口やろ? ちょっとおかしいねん。自分でも分かる。」
うん、おかしい。 こんな姉は初めてみる。
母が私に 「今日ちょっと朝ご飯作られへんから自分で食べて。」 と言った。 私は姉のこの状態と、母の慌てている様子がよくわかったので、 「うん。」 と言った。
普通でしょう? 慌てている母を止めて、無理に朝ご飯を作れ!なんて言う方がおかしい。 特に取り立てていうまでもない、普通の行動でしょう。 だけど姉は、私に言った。
「深海がこんな良い子になってくれて私は嬉しい! ほんまに嬉しい!」
途中から感極まって涙まで流しながら言った。
なんなの、この人。
また、姉が遠ざかる。 信じられないくらい遠ざかる。
また、姉が怖くなる。 信じられないくらい怖くなる。
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