私が中学2年生の頃、冬のある日。
母は、炬燵に入ったまま動こうとしなくなった。 一日中、炬燵に入って横たわっていた。 生気がまるで感じられなくなった。 ずっと猫に向かって 「おまえはいいなぁ、おまえはいいなぁ。」 と囈語のように繰り返していた。
母は、自律神経失調症という病気になった。 たぶん、鬱病も併発していたんだと思う。 今まで明るく接してくれていた母が、急に別人のようになった。
得体の知れない恐怖が、また、襲ってきた。
…もしかしたら、母がこうなった直接の原因は私かも知れない。 その日私は何時も通り、のつもりだったのに。 その日母は何時も通り、じゃなかったから。
朝にね、母が私を起こしに来たの。 私は中学2年の冬は登校拒否をしていなくて、学校へはちゃんと行っていた。 でもこの日、私はふと学校が休みたくなって、深い意味はなくて、さぼれれば良いなぁ、なんて思って母の呼びかけを無視して布団に潜り込んだ。 登校拒否をしていた時の意思表示。学校へ行きたくない意思表示。 本当に登校拒否をしようと思ったんじゃなくて、ただ単にずる休みがしたかっただけ。 そんな軽い気持ちでそうしたのに。
この日の母はすごく動揺した。 狼狽えた気配が布団越しにも伝わってきた。
私は吃驚してすぐに起きて、その日は学校へ行ったんだけれど、 その次の日くらいから、母が炬燵で横たわるようになった。
…は。 「もしかしたら」なんてごまかしているけれど、こんなの確実じゃないか。 母はこの朝、また私が登校拒否を始めると思って狼狽えたんだ。 それが母の心に大きな波紋を起こした。 さぼりたい、なんていう私のふざけた甘い心が、母の背中を押してしまったんだ。 限界の向こうへ。
引金を引いたのは、私だ。
…どうしてなんだろう。 もっとそういう意識を抱いて然る可きだと他人事のようには思うんだけどな…。
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