兄が登校拒否をしていた時、祖父は兄を殴った。 怒鳴りながら殴った。 出ていけと叫んだ。
私が登校拒否をしていた時、祖父は私の服を剥ぎ取った。 その服も俺が出した金で買ったんやと、怒鳴った。 そして言った。 「頼むから学校へ行ってくれ!」 「何でうちの子だけがこうなるんや… 俺は恥ずかしい!」 くしゃくしゃの顔をしながら言った。
ある夜。 母、姉、兄、私が居間にいた時に、母が祖父に呼び出された。 呼びに来た祖母は言った。 「むちゃくちゃするかも知れん。」 母は、恐怖した。だから私たち子供に言った。 「一緒にきて!」 母は、子供が見ている前では流石に祖父も暴力は振るわないと思ったんだろう。だから私たちに懇願した。
だけど、私たちは誰も動こうとしなかった。
困惑した顔をしながら母は祖父の家へ行った。
1時間くらいたった後。 母は顔を真っ赤にして、何か声を上げながら帰ってきた。 腕を見せてきた。 …膨れ上がった手首。
「布団たたきで体中めちゃくちゃ叩かれた! もう出てくわ!!」 母は財布だけを持って家を飛び出した。
もう夜なのに。もう夜なのに。
不安になって、じっとしていられなくなって立ち上がったけれど、でもどうしたら良いのかわからなくて、その場から動けずにいたら祖父と祖母がやってきた。
「お母さんは?」
「出て行った。」
「そうか…お母さんはもう死ぬかも知れんな。 そうなったら俺のせいや。 もしお母さんが死んだら俺も死ぬからな。」
祖父はずっと繰り返した。
お母さんは自殺するかもしれんな。 俺のせいや。 俺も死ぬ。
誰に言うでもなく、何度も何度も繰り返した。
繰り返される言葉に、私は耐えられなくなった。
私には小さなプライドがあったの。 姉の前では絶対に泣かないっていう、小さなプライド。
だから、この時も泣くつもりは全くなかったの。 なかったのに。
「うわー!!」
涙が止まらなくなった。 その場に立っていられなくなった。 しゃがみ込んで、せめて泣き顔だけは見られないように下を向いた。 私が泣き出したことに皆驚いたけど。
だけど私自身だって驚いていたんだよ。 小さなプライドはがらがらに崩れ去って。
ただ私は声を上げて泣くしかなかった。
祖母は言った。 「大丈夫やから、大丈夫やから。」
祖父に対して言った。 「子供の前でなんて残酷なことを言うんや!」
祖父は言った。 「俺が悪いんや。」
姉と兄はずっと黙っていた。
次の朝、目が覚めると、台所に母の姿があった。
良かった。 母は、帰ってきてくれた。
本当に、良かった。
…うん。良かった。
思い出して書く事がこんなにきついとは思わなかった。 日記を書く時、毎回思い出しては体が震えるんだけれど、 今回は吃驚するくらい震えて止まらなかった。 過去のことなのに、感情がリアルに蘇ってきて涙が出る。 どうしたら過去を冷静に振り返ることが出来るのかな。 過去の事だと割り切って考える事は出来ないのかな。 人間の心ってなんて厄介なんだろう。
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