再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 国境の下で聞いた音(庄司)

「耳をつんざく音」。
 長渕剛が『いつかの少年』の中で使っていた歌詞だ。 聞こえてきたときに、鼓膜がはたかれるような印象が残る。鹿児島の海を前にすると、怒涛のような波のしぶきに、体がひきちぎられるような感覚におそわれるのだろうか。どんな音を聞いたらそんな言葉が浮かんでくるんだろう……。
 長年抱いていた疑問は、ピザの配達で解かれることになった。

 JR山手線の新大久保駅からほど近いところに、通称“国境”と呼ばれる小さなガードがある。ピザの配達員の間では有名なガードで、百人町2丁目と大久保2丁目の境目にあたる。
 百人町が日本だとすれば、大久保という住所は混沌とした“アジアのるつぼ”だと言ってもよい。だから治安の点で見れば、きわめて慎重な行動を要する“国境線のガード”ということになる。

 網の目のように張り巡らされた路地の奥から、よく外国人の悲鳴が聞こえてくる。覚えたての日本語だろうか、ぼくが初めて聞いた暗闇からの声は、「たれか、たしけて……」だった。かぼそく消え入りそうな声はすぐに途絶え、奥からヨレヨレのTシャツを着た男が無表情であらわれた。血のついたナイフをぼくの鼻先につきたてて、「おまえ、いない」とつぶやいた。ギャング映画の一場面のような状況に、ぼくは震えながら後ずさりし、逃げるように立ち去った。
 店に帰ってこのことを話すと、みんな神妙な顔をしておしだまった。後悔と恐怖の念にさいなまれていたぼくに、一番の古株である大ちゃんが慰めの言葉をかけてくれた。「気にしないほうがいいですよ。ピザの配達で刺されたりしたら、目もあてられないじゃないですか」。

 だから配達員はこの場所に敏感になる。それまで、我が物顔で街を疾走していた不良上がりのドライバーも、ガードを過ぎればおとなしく道の端をヨタヨタと走るようになる。バクバクと高鳴る心臓を押さえつけ、心の中で息もたえだえに悲鳴を上げる。「ぼくはどこにもいません。どうかぼくに目をとめないでください」。

「耳をつんざく音」を理解したのはこの“国境”の下だった。ガード下を通りかかったとき、鉄橋と山手線が擦れ合い、鉄同士が断続的な金属音をあげたのだ。「焼け火鉢を突っ込む」と言う表現があるが、それによく似ていたように思う。耳の中に、“焼けただれた音”がねじ込まれていくような、血が逆流し、目と鼻と口がから一気に噴出するような、とにかくものすごい音だった。
 急いでバイクをとめ、両手で耳をおさえながら大声をあげた。そうすることで、やっと音をやり過ごすことができたのだ。電車が去った後に声を出してみると、自分の声が、ちょうど闇の奥からとどいた悲鳴のように、かぼそくかすれて聞こえた。鼓膜が“つんざ”かれていたのだ。

 毎日の経験が積み重なるにつれ、“国境”の向こう側での対処の仕方も、“国境”を通過する際のコツも、身に着けることができた。「来るぞ来るぞ」と軽いスリルを楽しむようにまでなった。それでも、時々頭の中に、「たれか、たしけて……」という声がかすめることがある。そんなとき、ぼくあげる大声は、やはり悲鳴のように聞こえるのだけれど。

2005年07月12日(火)



 頭が頭がキリキリマイ

さて、2005年も半分をいつの間にか過ぎ、私ごとですが、忙殺されるがまま、七月に突入しております。
本年はもう既に、2月、4月、6月と演出をし、「休日」という休日のないままに、突き進んでおりますが、これから更に華僑を迎えていきます。

再来週、別役さんの面白いけど、これまた難儀な作品「会議」。
そしてそれが終わると同時に大阪入り、9月の頭初日の芝居を造り(現在台本構成会議中…)、と、同時に、昨年12月にもやった、小学生のミュージカル(未だ日程調整中…)兵庫なんぞも控えていて(8月の終わり)、その8月に間をぬって東京帰り、R-viveの読み合わせ。9月の初日が開くと同時に東京で、R-viveの本稽古が始まり、10月に本番を迎える…

改めて書いていて具合が悪くなってきた…(哂)

兎に角、打ち合わせが必須なのであります。
が、
しかし、なかなか時間もとれないのであります。
後回し性格を改善中なのであります。
が、
「待ち」が多くてテンヤワンヤなのであります。
どれもこれも面白くしたいのであります。
が、
身体も頭も一つしかないのが悔しくて仕方ないのであります。
読んでいない新しい本がどんどん増えているのであります。
が、
本屋には寄るのであります。
こういうスケジュールを当たり前にシャアシャアとこなしている偉大な演出家さんたちに憧憬の眼差しなのであります。
で、
季節柄、冷やし中華あります。

なのになのに、お金はありません。(爆発)

頭が頭がキリキリマイ。

ごう





2005年07月07日(木)
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