「火ィ、貸してよ」 「ぁあ?」 千石は亜久津に背を向けたまま、「寄越せ」と手を差し出したが、亜久津は眉を顰めた。 「テメェ…何につかうんだよ」 「何って、火をつけるのに」 「だから何に」 「…………何でもいいじゃん、ね、火ィ貸してよ」 舌打ちとほぼ同時に放られたライターは綺麗に弧を描いて千石の手のひらへと滑り落ちた。 カチリ、シュボッ 風に揺らめく青と赤の炎。 「あのさぁ、あっくん、」 千石はライターの炎をつけたまま、亜久津のほうを振り返った。 そして髪の毛すれすれまで、炎を近づけた。 「焼身自殺、って目の前でやられたらすげー記憶にのこると思わない?」 その瞬間の亜久津のしかめっ面をみて、千石は満足そうに笑った。 「自殺なんかしないよ、あの世で公務員になんてなりたくないもん」 -- げいのないねこた…だめねこた……。
「ねぇ、あれなんだかわかる?」 「ぁあ?」 千石が指で差したのは、工事現場にあるような赤い矢印の看板。 「……あっちいけって事じゃねぇの?」 矢印の方向。 普通は、進行方向に向けられているはずの、白抜き矢印。 「…………ふぅん」 「何笑ってんだよ」 「だって、あっくん……あそこって今、穴掘ってて工事中なんだよ、あっち行ったら普通は怪我しちゃうよ」 「………………じゃぁ」 「……行かないように?」 「…………じゃねーの?」 「………………わかんないけどさ、もしかしたら寂しいのかも。」 「は?」 「……誰も気づいちゃくれないんだろうよ、きっと」 -- ……眠い。 この「構想」ができてもう早一年。 ゴクアクに本格的にはまってからもう一年。 早いもんです。
「あーのさぁー……あっくんにとってさぁ、俺ってなんなわけ?」 吸いこんでいた煙を吐き出しながら、千石は締め切っていた窓を勢い良く開けた。篭っていた紫煙は、さながら逃げ道を我先にと出ようとする人間の様にも見えた。 横で煙草をくわえていた亜久津は、千石を軽蔑するように一瞥すると、心底呆れた様子で溜め息をついた。 「…………お前の質問の中でも過去最高にウゼェ質問だな……」 「なッウザイとか酷! 酷すぎるよマイハニー!」 「どさくさに紛れて妙な呼び方すんな!」 「むー……だぁって、さぁ」 眉間の皺を深めた亜久津に、今度は千石が溜め息をつくと、指にはさんでいた煙草をとりあげ、その煙草を目で追った亜久津の目を手のひらで被い、そのまま体を寄せてキスをした。 触れるだけのキスはなんだか気恥ずかしいだけで、千石だって好きじゃない。 「あだなどころか名前で呼んでもくれないし」 呼吸するように、一言言う度にキスをして。 「キスもセックスもするくせに、拒絶しないくせに、好きだとは云ってくれないし」 目隠しを解いてキスをしても、背中に伸ばした腕に込める力は言葉を紡ぐ度に強くなって。 「俺の告白だって、すぐにはぐらかすし」 浅く舌を絡めて、それでも焦らすようにすぐに離して。 「……何かあっても、何も云ってくれないし」 泣きたくなる気持ちを押さえ込んで、最後はただ彼を強く抱きしめるだけで。 「俺と誰かが喋ってる時に……妬きもちぐらい、妬いたっていいじゃん」 自分だって明確な言葉に全てを託せるわけじゃないのに彼に言葉を求めて。 それでも、千石の内部葛藤なんてどうでも良いかのように、亜久津は千石の言葉をたった一言で払い除けた。 「…………バッカじゃねぇの」 大事な人だから、亜久津のたった一言で、千石だって傷つけられる訳で。 「なッ! 俺は! すっげー真剣なの!! 過去最高に真剣なの! つーか俺はあっくんの事、愛してるって云いきれるんだよ?! 世界中の誰よりも大事で大好きで大好きで大好きでほんともうどうしようもないぐらい好きだって、想ってるのにあっくんは!」 早口でまくしたてるのは、癖じゃなくてそれこそ本当に勢いで。 本音を言うのだって、それこそ本当に、勢いで。 「ッ好きじゃねーのにあんな事させるかよ!!」 結局、亜久津の短くて遠回しなのにストレートな物言いには、いつだって千石がハッとさせられるのも事実で。 -- 落ち無し。 ……よくわかんないけど甘ったるいというか夢見がち少女漫画系やおい書いてる自覚はあるんですけど意識して書くとこういうのって中々痛いですね…………アイタタタ……。 つーかね、天ぱちの、あの、美術室での逢い引きは反則だと思う。 あと、のんちゃんが南だったら私は泣く。(だってナンゴクって事…に…?!あッでもナンアクでもあったのか…)そもそもその場合千石が光だろうけど亜久津が寧々ちゃん……寧々ちゃん……?! (つーかありえない例え話は止めれば良いのに…) …………でも、なんか、ゴクアクだったら良いな!、と思うシーンは多々あり。 何 見 て も そ う だ と い う 事 実 は こ の 際 無 視 ! しかも笑えないっていう事実が締めで更にごめん。
そんな事して何が楽しいんだ、とお前は云ったけれど、俺は考えられずにいられなかったわけで。 だってお前がそんな生き方しているから悪いんだろう。 「また今日も喧嘩かー…まぁよく飽きもせず」 「うるせぇな……売られたら買うのは普通だろ、テメェと違って俺は逃げたりしねぇんだから」 「……逃げるんじゃなくて知的な戦略のひとつだと思って欲しいケド」 「は、どこが……テメェの度胸がたりねぇから逃げんだろ、結局」 ピンセットを机に置いた時に鳴ったかちゃん、という金属音がやけに耳に響いた。 金属音は、いつ聞いても冷たい響きだけれど、亜久津の冷たい言葉と重なると、冷たすぎていっそ火傷しそうなぐらい、冷たく思う。 お前はずるい。 いつだってずるい。 馬鹿だから。 綺麗なぐらいに真直ぐだから。 そのぶん卑怯な俺よりもずるい。 「……つーか勝手に人が死ぬ事想像しといて泣くか、普通」 「泣くよ、だってお前の事だし…………お前すぐこんな、傷作ってくるし…………お前、ほんとになんか、いきなり死んじゃいそうで、怖ェし」 頬を伝った涙は、もう温度も水温も失って乾き始めていて。 けれども俯くと、涙は新しく筋を作りながら頬を伝っていく。 お前があんまりにずるいから俺は悲しくて泣く。 そして時たま君の棺の重さを考える。 「お前がいなくなったら、俺はお前の棺を抱えてそのまま歩くか、一緒に谷底に落ちるかしないといけないんだよ、俺は。」 -- なんかよくわかんないかんじで。 日に日に千石が弱く、亜久津も弱くなるのをどうにか止めたいもんです……。 つか火傷っつーか凍傷…なの? でも液体窒素では焼くとか云う気が…ううんよくわからん。
我家の東方と亜久津は幼馴染みという捏造にも程がある設定で収まったようです。 …ご、ごめんなさい……。 -- 予想外の先客に、東方はすこし驚いて立ち止まり、しかしすぐに後ろ手で扉を閉めて本棚へと進んだ。 ――成程、どうりで後輩が困った様子で図書室前を行ったり来たりしていたわけだ。 亜久津は机に突っ伏していたが、東方に気づくと顔をあげ、欠伸をした。 「めずらしいな、亜久津。お前が図書室にいるなんて」 「……るせぇよ」 いつもどおりの悪態だが、如何せん半ば欠伸をしつつ言ったので、迫力などは微塵もない。東方はどうしたのかと訪ね、少し背伸びをして自分の背より少し高い棚の本をとり、何頁か捲った。 「……なんかおもしろいもんでもあったか」 「…………今日は外れかも知れないな、これなら家の本のほうが趣味に合ってる」 「詩集?」 「そうだ。で?俺は本を探しに来た、でもお前はどうしてここにいるんだ?一般生徒が図書室に入れなくて困るだろうが」 「は、気にしねーで入りゃいいだろーが」 「そうもいかないだろう」 お前と違って普通はもっと神経が繊細にできてるもんだからな、と東方は本の表紙を軽く叩き、埃を落として表紙の金属で細工された部分を指でなぞった。 「…………一時撤退、だ」 「……逃げてきたのか、千石から」 「違ェ! ただ、あいつがいるとうかつに眠れねぇから……ここで寝てた」 「ふぅん、めずらしいな…………ン?最近は帰らないのか」 「……帰ったら帰ったでまた面倒なだけだ」 「そりゃ、大変だな」 「…………他人事だな」 「他人事だからな、付き合いが長くても……俺はお前の千石じゃない」 「…………あたりまえだろ」 「あぁ、当たり前だ…………亜久津、次の授業始まるけどお前出ていかないのか?」 「……別に、しばらく寝て――」 「千石のクラスの移動授業、ここだぞ」 「!」 -- ……なにがなんやら……。 さらによくわからなくなっていく東方。 むしろ誰なのか問いただしたいですね。
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