「あくつ」 つぶやきは、そらにとけるしえんのように、きえた。 朝、なんでか早く目が覚めて。 いつもよりも体の調子は良くて。 いつもよりも気分が良くて。 だから。 朝早くから、新品の洋服を着込んで、始発電車にのった。 なんかもう、気持ちが良くて。 会いたいなぁ、と思った。 だから。 駅から走って。 走って。 きみのそばへと。 走って。 「何、なんで」 思考が今にも止まりそうで怖かった。 ぷっつりと。 糸がきれるみたいに。 なにもかも止まってしまいそうで怖かった。 たどりついた家は、まるで廃屋。 庭の草は荒れ放題、表札はもうなくて。 壊れた門。 壊れた家。 人の気配なんかなかった。 それはたしかに亜久津の家のはずなのに。 「……あくつ……?」 そこで目が覚めて。 泣いている自分に気付いて。 馬鹿みたいだってすこし笑って。 馬鹿だ、ばかだと自分を罵ったけれど。 涙が溢れてとまらなかった。 ゆめだ。 ゆめだ。 だいじょうぶ。 ゆめだから。 震える手で携帯をつかんで、亜久津の携帯にかけた。 そして聞こえた声に、ひどく安堵感を覚えて、俺は泣きじゃくりながら亜久津が好きだと言った。 -- なんつーか……うーん…。
***あれの没りそうな部分を抜粋。 千石は、可愛がっている後輩の一人であったはずの壇に苛立ちを覚えた自分に驚いた。 壇は一年生の中でも背が低く顔だちからしても可愛らしい容姿の持ち主であり、何事にも一生懸命に取り組む良い後輩の一人だった。 上級生の中でもとくに千石が可愛がっていた後輩だった。それはもう自他共に認める程度には、仲が良かった。 だがしかし、その状況は一転した。 「亜久津先輩!!」 男子にしては、少し高いように思える声。その声が今亜久津の事を呼び、声の主は亜久津を追って彼のまわりをちょこまかと走るようについてまわっている。亜久津は心底困ったように顔をしかめて「うざい」だの「邪魔だ」だのと言っているが、その後ろをついてまわる壇は、そんな事はおかまいなしのようで、亜久津の名前を呼びながら彼の後ろをつけている。 千石はコート脇のベンチに座り込み、眉間におもいきり皺をよせていた。先程から続く原因不明の苛立ちをどうするかと考えていたのだが、ふと視界に入った亜久津と壇の姿をみた途端、思わず考え無しに思いきり声をあげて彼を呼んだ。 「亜久津!!」 亜久津は驚いたように千石をふりかえり、その横にいた壇もそちらを向いた。千石はニヤリと笑い、亜久津を手招いた。亜久津は数秒、どうするかを迷うように立ち止まっていたが、やがて千石のほうへと歩いてきた。やはりその後ろには壇がついてきていた。 「ンだよテメェ」 「どうしたんですか、千石先輩」 頭をがしがしと掻いて欠伸をした亜久津を見て、千石はどうにか次の言葉を捜そうと視線を彷徨わせた。 二人分の視線が痛く感じられる。けれど壇の問いかけは無視した。返答も見つからなかったし、今は彼と言葉を交わす気にすらならなかった。 言葉が見つからない。 ああはやく、なにか、なにか言わなくては。 焦る内心は笑顔の裏に隠れて見えないだろうが、少しはこちらの心情にも気づいて欲しいなどと思った。そんな事になったら、亜久津を引き止める事などおそらくできないのだろうというのに、千石は思わずそんな事を考えて、我ながら馬鹿だと思った。 「あー………………えっと……」 言葉を濁したのがまずかったのか、それとも唐突すぎたのかは千石には判断できなかったが、亜久津は眉間に皺をよせたままだ。千石は内心舌打ちをした。笑顔はもはや引きつったものになっている。全くどうしようもない。 -- ものすごく繋げにくくなってしまったので、ここらへん没になるような予感がするの…。
なんか出てきたのでひとまずのっけてみる。 -- 2人分の重みにベットがギシ、と軋む。 「ッ………ンで…おま………帰れ、って…」 舌ったらずの小さな子供ような亜久津の声に、千石は少し驚いた顔をしたかと思えばすぐにあはは、と声をあげて笑った。 「でも病人の亜久津は可愛い。理由なんてそれで十分デショ?」 そして反論の暇も与えずに、噛み付くようにキスをした。 亜久津は抵抗しようとしたが、キスに気が散らされ、思うように抵抗しきれず、悔しそうに千石を睨んだ。 「ね、亜久津」 その、呼ぶ声が。 熱を、高めるようで。 亜久津は目を強く瞑った。 「……どうせ……やんだろーが……クソ」 「…………うん、ごめん」
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