2006年02月23日(木) |
大崎 善生 『聖(さとし)の青春』★★★★☆ |
『聖(さとし)の青春』 大崎 善生 講談社 (2002/05)
早世した天才棋士、村山聖(さとし)。
彼の短い人生を熱い筆致で伝えてくれるルポ。
彼とほぼ同世代の私は、自分の子ども時代と重ね合わせて、彼がくぐり抜けて来た道の厳しさとその偉業にただ圧倒された。
広島に生まれた腕白少年は5歳で突然ネフローゼを発症。運動を禁じられるが言うことを聞けず、医者通いを繰り返した末に入院。 長期療養病院で間近に死と接する日々の中で、出会ったのが将棋。 ベッドの上で、ひたすら難しい漢字が並んだ将棋の本を読み、詰め将棋を解く日々。 そして周囲が驚くほど強くなっっていく。
同じ頃、東京でも天才少年が将棋に没頭していた。 羽生善治、のちの7冠王。
谷川名人の誕生。 彼を破りたい、名人になりたいとの一念で親族を説き伏せ、病の体をおして奨励会をめざす村山少年。 応援する家族。 彼に何の罪もない所で奨励会試験を不合格とされる不運。 (徒弟制度のタブーをやぶったとかで、灘蓮照九段の怒りに触れたため。この本ではすっかり悪者。でも私もこれはあかんと思うよ。5勝1敗で文句なしやったのに) 泣いて泣いて熱を出し、入院となってしまう。
その後、人間味あふれる森師匠のもとで、1年後(この1年が彼にどれだけ貴重だったかと思うと、私も切なくなる)文句なしの入会を勝ち得、名人への道を苦しみながら昇っていく。
美化された部分があるとは思うけれど、彼は本当に純粋でひたむきなひとだったのだと思う。 そして家のダニすら殺せず、髪すら切れない『生きてるものを殺すのはかわいそうじゃないですか』という優しさを持っていた。
病と闘いながらの強豪との戦い。 最後には癌で命を奪われてしまった。
惜しい人をなくした、という言葉はこういう時に使うんだな、と思った。
東の天才羽生と、西の怪童村山。
彼が生きていてくれたら、羽生さんが巻き起こした将棋ブームがいっそう面白く、長く盛り上がったことだろうと思う。
たまに相方とやる将棋(みたいなもの、といっていいレベル)。 遊びでもかなり悔しい思いをするのに、人生かけての一勝負(そしてその連続)というのはどれくらいの負荷なのか、想像もつかない。
ほんとに偉人だったと思う。 私もぼやぼやしてられないな、と思うことができたことに感謝。 コドモにも大きくなったら読ませてあげたい。
ご冥福をお祈りします。
『聖(さとし)の青春』
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