あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2008年04月29日(火) 痺れる舌





部屋を掃除した。

本以外のかなりのものを片っ端から捨てた。
凄まじい量のモノがゴミ袋の中に消えて行って、あぁあれがゴミ収集車の中に飲み込まれて灰になるのだ、と思うと何だか不思議な気持ちになった。



同じように僕は記憶を整理している。
季節が巡るたびに思い出すものは上書きし、思い出さないものはもう不要なものだ。
何度も、思い出される度に記憶は痩せていく。
今はもう、あのひとが死んだことも苧環の甘い匂いが連れてくる痛くて苦いものでしかない。
痩せていく記憶はもう、惜しんだところで仕方のないものだ。
そうして今では僕は、上書きを求めて過去を掘り返したりはしない。

忘れていくヒトは忘れられるだけのもの、
痩せていく記憶は痩せてしまうだけのものだ。

それを惜しんだところで未来が変わるはずもない。



ただしきりに胸が痛む日がある。
眠れぬ夜に冷汗の痺れに闇の中で目を開いている。
泣くことは忘れた。
目を開いているだけでただ、水のように滾々と涙が涌いた日はもう遠い。
痛みはただの痛み、痺れはただの痺れ、
言い聞かせるまでもなく、蝕む痛みはいっそ心地好い。
望むモノと望まぬモノとの間で、
せめて曖昧な嘘のつき方が知りたくて目を閉じる、闇の中に甘い苧環の香り。

ヒトの痛みはヒトの、この物狂おしさは僕だけの、
つのる言い訳は春の匂いが薄れるにつれて遠退くはずで、もう少しもう少しと自分を誤魔化しながら眠りを追ってみる、けれどもしかしたらもうどうにもならないかもしれないと考える。
喉の奥の痺れに目を開いても真っ暗な闇。










↑ため息の重いこと

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隣に誰が居たところで
夜が明るくなるわけでなし。



2008年04月20日(日) 否定してほしい





このところ何度も何度も会いたいと思っている。
危険な兆候だ。
だけど誰に何をどんな風に伝えればいいのか、まるでわからなくて、そのことに少し安心する。
もう鎖を引き千切っても行ける場所はない。
箍が外れても、気が狂っても、たぶん僕は放心するだけだ。



僕はただ、この恋にかこつけて、自分の中の破壊願望や自傷願望を満たそうとしているだけなのかもしれない。
もしそうならと思うと身が切られるような心持ちになる。
まだ遠くへ行くことが好きだ。
休みの日はなるべく遠くへ行きたい行きたいと思う。


ヒトと居ると、あぁ自分は他人が苦手なのだとよくわかる。
他人に自分の中の奥深いところを触られたくないし、他人の奥を理解したいとも思わない。
理解できるはずがない、と思っている。
誰も。
誰にも。
ただそれでもあのひとの奥を知りたくないとは言わない。言えない。




うつくしいものを見る。
あぁまだ自分はうつくしいと思っている、と少しほっとする。
そして不意に、自分はコレがうつくしいと思っていたことを知っているからうつくしい、と条件反射のように思っているのではないかと考えてしまう。
そんなことを考える必要はないのに。

陽の光がうつくしい。
とてもとても眩しくて、僕は目を開けようがない。








↑そうじゃないって、誰か

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2008年04月06日(日) 春はきらい





思い出を、拭うように何度も唇を合わせ、憂鬱な空が見えないように目蓋を閉じた。

どこへでも行ってしまえばいいどんなにでも壊れてしまえばいいと思うのは僕の悪い癖で、それで切り捨てられるものなんて本当はそう多くない。

それでも暗い予想から心を切り離すように強く、ひとの背をかき寄せた。
これでもう、
本当はイヤだったんだなんて言い訳はできないと思った。


 **


本当は少しでも、誰かに優しくしたいと思っている。
その優しさが何かになって戻ってきてほしいと思っている。
弱音を吐いても許してくれるひとがいればいいと願っている。

願いは思えば思うだけ、子供じみたわがままにしか聞こえなくなって自分に跳ね返る。

心は透き通るものだと思っていた。
それがどんなに嘘くさくても、自分さえ信じられればそれが真実だと思った。
自分さえ信じ抜くことができれば。
正直さは自分の鎧だと思っている、けれど大義名分がなければ何ひとつ言えない自分はひどくわずらわしい。
誠実さと正直さは違う。
けれど詭弁と嘘はどこが違うのかよくわからない。

たったひとつの願い事すら口に出せない。
それはただ、この世の誰にもそれを否定されたくないからだ。
ただ心を澄まして、願い事として編み出される取り澄ました美しい言葉の下に気付くとき、その執着に何度でも僕は打ちのめされるからだ。








↑甘く毒のように。

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心、こころよ、


その頑迷な響きのことば!






2008年04月05日(土) ひのひかり






ひのひかり。
この時期になると必ずと言っていいほど体調を崩す。
陽射しがまっすぐに胸に落ちるようになって、見上げれば目にまぶしく痛い。

桜の白さ。
爛漫の春を思い通りにしなければ気が済まないみたいに、枝もたわわに満ち満ちる花びら。
その下に怠惰に寝そべって、花はみんな下を向いて咲くのだと言ったひとを僕は生涯忘れられないと思う。
桜ばかりが花ではないとは思っても、春を描けば桜が映るのだから仕方がない。

ただ花は花でも、浮かぶのはもう遠い、薄暗い中庭に落ちた八重桜の花枝の白さ。



ひのひかり。
夜明けが少しずつ白くなる。
体は正直に温められて和やかになり、意識も伸びやかな日々に向く。
そうしてその度に少しずつ心の座標軸が狂う。
春は切々と刻々と鮮やかになるので、その変化についていくのに混乱する。
本当にわずかに微量になら、ついていけないこともないのに、と悔しい。
ひのひかり。
燦々と僕を照らし胸の奥底まで暴くひかり。








↑陽射しはもう、初夏のにおい

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