きみのいない、日々も穏やかに過ぎて
また僕はどこか遠くへ行きたいと思っている。 知らない間にはるが、物陰から一気にふきこぼれるようにあふれていて、沈丁花の香りをかぐたびに僕はぼんやりとしてしまう。 何処まで、だったか、 出口のない夢の中のように今日をとりあえず終えてみる、何故だかそれで何か終わるはずだったような気がしている。
あした、あさって、そのつぎ、
くりかえす舌はもう動かなくても、そのコトバの響きを舐めあげて溜め息が喉を鳴らす。 ゆううつとかそんなものではない、だけど何か夕焼けを眺めるような焦るような沈むような気持ち、どこからかまだ少しだけ冬の匂いがする。
そして暗闇の中にぽつり、ぽつりと並ぶ街燈の下を抜けて、 暗がりに花だけが淡く浮かびあがる木蓮の下を歩いて、 この道が家以外のどこかへ続いているような気がして、 何故だか救われるように次へ次へと足を運んでみる。 きれいな つよく きれいな ものに なれないことだけよく納得しすぎて なんだかひどく つかれてしまった。
木蓮の花を見に行こう、飛び立つ羽のような白さを見に行こう、 まだ冬の気配を微かに残す夜風の中、 君も他の誰も知ることのできない暗闇をせめて見に行こう
はるがおしよせて穏やかな冬をさらってゆく、
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