もうだいぶ前に手放したひとに、連絡を取ろうか考えている。 ひとが捨ててしまったものを僕が拾ってもいいだろうかと。
返事はないような気がする。 なければそれで勝手にできるような性分でもないので、たぶんただ黙って引き下がるか何かするのだろう。
僕らしくもない、と思って憮然とする。
たぶん僕は連絡をしないだろう。
帰ってくるはずのない返事を待つなんてばかばかしいし。 それに何だか、ひとがいなくなって荒れていた頃の自分と、今の自分はそれほど変わっていない。 ほとんど成長していない自分を突きつけられるみたいで居心地が悪いし。
ただ考える。
返事があったら、僕は何を言えばいいだろう。 こうやって返事に焦がれた自分をありのままに言えるだろうか。 返事には何が書いてあるだろう。 会えるだろうか。 会いたいだろうか、ひとは。 そして僕は。
そんなふうに、世界は定点を軸に廻り続ける。
そんな状態の自分を感知するとただ無性に笑ってしまう。 これが愛情だったら良かったのに。 何かもっとマシな、感情とかだったら良かったのに。 なのにどんなに僕の奥底を探っても、触れるのは重く冷えた石ばかり。
たとえばここで、まだまだ未練があるのだとか無責任な分析ができる人間ならよかった。 愚かな人間ならよかった。
なのにこの目は冴え冴えとして僕を眠らせない。
目を、閉じれば、世界は足元からゆらゆらと揺れる
ひとが 自分の自分だけの人を見つけたことはよろこばしいことだ、
とそう思うと僕は
もう死んでしまった遠いヒトのことを追いかけて行きたくなる
少なくともこの願望には何のプラスの萌芽もない。
そう考えることにも、希望は無いことくらいはわかっている。
夜。 電車に乗っている。
(あるいは高速を走る夜行バスでも、夜行列車でも何でもいい) (ただ闇の中を黙々と淡々と走っていく何かに乗っているということ)
窓の外を眺めている。
(ぼんやり) (見るともなしに)
ところどころに街燈があり、ぼやけた灯りが白く立っている。
(高速でよぎるそれらははっきりとは見えない) (照らし出されているものも闇の中に深く沈んでいて何も見えはしない)
沿道は前から後ろへとただ遠く飛んでいき、見送るこの目ももう見返らない。
身体には微細な振動が伝わっていてそれがにぶく眠さを与えてくる。
(寒くはない) (ただもたれる窓の外はひどくつめたい、ような気がしている)
不意に 窓の外に明るい街が浮かび上がる。
(灯りだ) (あかるい)
僕はただ驚いてそれを見る。
(あかるい)
淡々と走る車は同じように淡々とその街のそばを走り抜けていく。
(あかるい) (あれは駅か、それとも)
そうしてまた、窓の外は闇に沈む。
(くらい) (くらい)
僕はあれは、何だったんだろうとまた兆してきたねむけの中で考える。
(あれは駅か) (あれはサービスエリアか、オアシスか、それとも)
それとも、
それはたぶん、
居待月
夕暮れ
建物に切り取られた冬の梢を見上げてひとを待つ
もうすぐここにいとしいものがやってくる
風はきらきらと冷たく 深い藍に沈んでゆく空
南へゆく鳥の声が聞こえる
待ちわびる耳にはかすかな落ち葉の音もひとのあかし
たとえばそこに 愛はなくとも
ここへ運ぶ足音だけにも心があるならそれで
世界は
切り取られた空へとだけゆるく開かれて
いまここに仄かにあかるい
そこへ堕ちてくるように
あなたが堕ちてくるように
言の葉が あなたを縛り
あなたを閉じ込めてしまえるように
闇よ 来るな まだ
あなたが遠い
2007年01月07日(日) |
それが永遠というものです |
ここんとこ日記が隠しようもないほどネガティブですな。 どうも僕はこの場所を内面宇宙の一部みたいに思っているらしく、公開されてることとかあんまり考えてない。
・・・と言うより、それは僕の欠点のせいだ。 修復する気のあまりない短所のせいだ。 それくらいわかってる。
何もかもにやる気が起きないのも、元はといえばそのせいだ。
タメイキ。
頑張れ、僕。 たとえ望みようのない恋でも抱き続けている限りはエネルギーになるんだろう。 目的と手段が逆転したとしても、それで僕以外の誰が困ることもない。
―――まだ愛してると言えるか。
日に何度も僕は問い直す。 答は美しい。 その美しさを信じている。
胸の奥が爛れたように疼いても、僕は後悔だけはしない。 ただ諦める、そのことがひどく脱力感を生むことはわかってる。
うん。
まだ、想っている。
それが永遠だと信じることに迷いはない。
そうだいつだって僕は何かに囚われている。
そんな当たり前のことに時々ふと思い当たる。 わざわざ落ち込むほどのこともない。ただその時々に強く痛むものがある。
どこかに行きたいどこか遠くに行きたいどこか遠くへ、
行ってしまいたい。
**
思うことを思うように書けない。 それは僕がありとあらゆるものに囚われるからだ。 ありとあらゆる場所に存在する可能性とやらに戸惑うからだ。
誰かにずっと語り続けていてもらいたい、休む間もなく、僕が眠りに落ちている間もずっとずっとずっと。 自分の声など聞きたくない、ただ自分の思考を止めたいのだ。
そうやって、病んでいく自分に甘んじる。 ひとの闊達さや好奇心も僕を潤さない。 ただやさしいことばなんか、 ネェ、 僕を癒さないのなら何のための存在なんでしょう?
まるで 何事もなかったみたいに ケイタイの電源を切って 置いた
まるで 何事もなかったみたいに マンガの本を取り出して 開いた
嘘つきなのは誰でもなくて だけどどうしようもなく誰かをなじりたくて ただ自分に呪文をかける 苦しくはない つらくはない さびしくはない 会いたくもない だいじょうぶ だいじょうぶ もう泣くべきこともない
それでも
来るはずのなかったメールに 僕は泣いてしまう
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