あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2006年12月30日(土) crumble





バスを降りると、風の中に雨の気配。
冬だというのにどこか緩んだ空気の中、明るく光る店へ入る。


店の中は年末の気忙しさで浮かれたように暖かく、鼻白む思いで僕は早々に店を出る。


外へ出ると頬に霧雨。僕の怖いもの、苦手なものの筆頭。
振り払うように、痛む喉から声を歌にする。
寒さと震えで音程なんかあったものじゃなくて、なんだかとても、ひどく眠くなってしまって困る。


どこへでも、行けると僕は、思ってました。






2006年12月24日(日) 目を開く間に





逃げられないよ。



白昼夢。
ひとに縋り付いて泣くユメ。
会いたかった、会いたかった死ぬほど、そうかきくどく自分。
ふと我に返って頬の滂沱の涙に気付く。
絶望に叩き落とされる。──のは、ひとに会えなかったからだ。ただそのことが狂おしい。ただそれだけ。




目を閉じているそのあいだ、あのひとがここにいることを想像する。
何も言わずそこにいることを想像する。
それは異様なほど幸福な幻想で、僕は我知らず涙を流している。
言葉は口にしない。
ただ静かに泣いている。
それはひどく、空ろな景色だ。







2006年12月13日(水) 朝と夜と昼






朝は靄の中に沈んでいる。
街燈も朧に霞む道路をよぎる橋を渡っていくと、目覚めきっていない朝を呼び起こすように鴉の啼き声が強く響く。
蒼褪めた屍のような朝。
人の声を聞きたくないと思う朝。
世界を拒み続けても許されてしまいそうな朝。



 **



夜、ひとり暖かく幸せな心持で、暖かなマフラーに鼻先を埋めながら道を歩く、その僕の前に一瞬、もう死んだひとによく似た顔が明るく街燈に照らされてすれ違っていく。

それだけで打ちのめされる自分をどうすればいいかわからない。

ひとの顔は穏やかに幸せそうに笑んでいて、しかしそれはもう死んだひとの常の顔だったから(そしてあのひとはその裏側を決して見せはしなかったから)、僕はただ打ちのめされて明るい駅のホームに下りていく。

たぶんこれは忘れてはいけないということなのだ。

そして思い出せということなのだ。

あのひとの裏側は僕の心でさえ揺さぶったのに、それほど激しい想いがあったのに、あのひとはそれを見せることなく目を閉じた。

そしてあのひとの死が僕の心を繋いでいる、ざりざりと、僕の感情も想いもすべて無視しながらどこか遠くまで引きずっていこうとしている。

僕はそれを拒もうとはしない、ただあのひとの意思がそこに無いのが斬られるようにつらい



 **



あぁ、どこかに行けたらいいのに。

何度もシミュレイトする真昼。

過去がどうあってもプラスにはならないように、もうどんなシミュレイションも僕を動かさないけれど。

何度もシミュレイトする。

馬鹿げた過去のモデリング、どうあっても空疎で不毛な破綻する思考。
プラス思考で言えば明日を思い出さないでいい。
建設的に言えばこれが精神の安定を生み出す一要素、かもしれない。

蒼褪めた思考の最後の一端はこうだ。

   僕の過去のどこかで聞いた、青い鳥の羽ばたきの音。









↑どこか、

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2006年12月06日(水) 熱のあるよる






熱を抱いていると往々にして音のある夢を見る。ばさばさとした忙しない音の響く夢だ。
それはたぶん熱に追い立てられた僕自身の鼓動の音なのだと思う。
ただそれに追われて、ひどく不快な夢を見るのはいただけない。


不快な夢から必死で目を覚ました後は、荒い呼吸で暗闇の中、空虚に目を開けている。
自分の中で、眠りに戻りたい疲労感と、あの夢には帰りたくない恐怖感が争っているのを感じる。

そんな時はあえて、ひとのことを考える。
今も会いたくてたまらぬひとのことを考える。
ただ苦しくて目を閉じずにはいられないように。
せめて夢の中で狂おしくあのひとを追うのなら許されるみたいに。





だから熱を帯びて眠りに就くのは嫌いだ。
ただそれはもう、絶望に近い。









↑その日はたぶん、いつもと変わらず普通の日の装いでやってくる

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その日はたぶん、いつもと変わらず普通の日の装いでやってくる。
僕は何の希望も抱かず、むしろ絶望に囚われてそこに立っている。

そこへ運命は、
何の前触れもなく訪れて僕を打ち壊し屈服させて走り去る。



その日を、その圧倒的な運命を、僕はただ待ちわびている。





2006年12月03日(日) ゆめもみずに





薬を飲んで眠りに就くことはあまりない。なんだか目覚められないような気がするからだ。
そもそも薬はあまり好きではない。
薬は本来なら感じるべき何かを捻じ曲げているように思うからだ。
熱も痛みも、もしそれが正当なものなら僕はそれに甘んじたい。もちろん耐え切れる範囲で、だけれど。

薬を飲むと身体から薬の匂いがする。
漢方は漢方のにおい。
鎮痛薬を飲めば鼻梁の奥で、石灰のような無機質な白い匂いがする。
それらの感触はどこか異常で生臭い。


忘れたいことがあると、ぼんやりと思う。
あなたを忘れる薬があれば、と。
いつか僕は言ったね。
巧妙に、押し隠して、いつの間にかこんなところまで来てしまったけれど、
そうでした、たとえ一瞬でも穏やかにアナタを忘れることができるのなら、僕はいつだって喜んで白い錠剤を口にしたよ。
いつも、いつのときも。


だから今日は、体温計を押し上げる体温はなくても、下げるべき熱がこの物憂さのどこかに篭もっているような気がするから、
量を減らした薬をこっそりと飲み下して、眠りに就こうと思う。

そんなところに平和はないのかもしれない。
そうかもしれないね。
だけど、

  アナタがここに、いたらいいのに。



まだ僕は泣くよ。








↑おまじないみたく。

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眠りたい、
夢も見ずに、
ただ深く、
深く。




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周防 真 [MAIL] [HOMEPAGE]

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