あぁ、もう寝ないといけない。
月、が。 ここ数日とても綺麗だ。
はやくあめが降ればいいのに、と。 僕はそう思ってしまう。 月はあの不躾な光で僕を追いつめてしまうので。 いつの間にかあの光に耐えられなくなった弱い目を、かばいながら僕はとぼとぼと歩いて帰る。 安らかに日々は過ぎる。 痛むものは自分の中の焦燥だけなのに、何を暴かれそうで僕は月を拒むのだろう。 緑色のまま枯れはじめたモミジを見上げながら、そろそろ冬だ、と僕は思う。 冬はそもそも厳しいので僕は得てして楽だ。 眼球が寒さに痛んでも、ただそれだけ。 冷たく凍るこの指先は好きだ。 ふゆは、つとめて。 それでも夜を覆う雨を僕は待ち焦がれる。 それは狂気だ。 忍びやかに僕を冒すもの。 背後から僕を抱きしめる、 指先が、 冷たさにいくら痛んでも、 傘なんか取り落としてもその中でじっと佇んでいたいと思うのです
2004年11月27日(土) |
あめ が ふってほしい |
どうやらこの名前でないと 書けない言葉があるらしく 僕はすこし予定を変更して ほの明るい机の上の画面に ちょっと変な格好で向かっています
愛情が とても冷たいものだということに 納得して それで 終わっていたはずのものが 徐々に しかしあざやかに 変わってしまってから また違う季節が来て 僕は そこ へ 逆戻りしてしまいそうになる この気持ちが さみしさというものなのか 僕にはついにわからないような気がするのだけれど 何度も何度も悔やんでみたり(後悔しないとこころにきめたぼくが) くらくらするくらいからだに悪いものを摂ってみたり そうしながらもゆびさきがとてもとてもつめたくなることに救われて いたり するのは
誰でもいい、 だれでもいいから 僕がちゃんと泣けるまで責めてください ひどいことを言ってください なぐさめたり あいしてるとか いったり しないで単純に 結局あのひともぼくをあいすることができなかったんだとちゃんと責めてください お前は愛されない、あいされないにんげんだと 僕がはやく思い知るように
「痕跡」と。
いう展覧会の名前が気に入ったので出掛けてみる。
パンフレットには、何故かキリストを思わせる男の顔。 あぁ、狂気だ、と。 思う。 芸術家の抱いているものは狂気だ、と。
現代芸術というモノに関して、僕の抱いてたイメージはあんまり良いものではないのだけど、今日でちょっと見方が変わった気がする。 結局、芸術というものは芸術家なくして存在し得ないものなのだということ。 作品のそばに小さく張られている、作者についてのインデックスを読みながら思った。 そして芸術家の凄まじさに苦しくなった、というか。
耳には、最近買ったCD。ハードロックとバッハのオルガン曲。 しげしげと、あるいはさっぱりと、見て回りながら大音響で鳴り続ける卑猥な歌詞、あるいは荘重なミサ曲。 自分の中に芸術家たちが荒々しく踏み入ってこないようにするには良かった。
この「痕跡」って展示はあんまり大々的に宣伝とかしてなくて、僕も名前だけで調べて行った口。 人が少なくてよかった。 外は観光客と車で大した喧騒なのに、美術館の中はひっそりと静かで、美しい建築が穏やかで。
見て回っているうちに、この狂気は芸術家だけのものではないんだと思った。 それはきっと誰しも胸に蔓延らせていて、ふとした瞬間を迎えるか迎えないかでそれに囚われてしまうかそれを免れるかの違いだけで。 なんだかとても恐ろしかった。 芸術というもの。 それと、魅入られてしまいそうな自分が。
そして今日もうつくしい日。
言い訳はしない。
逃げていくための切符を、少なくともそれがある場所を、
教えてくれてありがとう。 教えておいてくれてありがとう。
僕は道連れを欲しがってただけかもしれない。 たぶん、それだけでもいいんだ。
見も知らぬヒトと一緒に行こう。今からは、あきれるほど遠く。
手には銀色。
少しだけ、喉が痛い。
2004年11月07日(日) |
君は心の底から僕の言葉を信じますか。 |
あのひとが最後に、少しだけ笑って見送ってくれたので、 僕は今日やったたくさんの愚かなことを忘れることができました。
晩御飯には、少しも美味しくないエビフライ。 口の中が荒れていて、パン粉が突き刺さるように痛い。
苦しいのは今だけ。 つらいのは今だけ、と思ってはいても、また僕は泣きそうになる。 そうして煙草に火をつける。 家の中では吸わない、なんて、なんて都合のイイことを考えてしまったんだろう、ってすごくつらい。
人生で何番目かに好きになった人は、胸に少し目立つ傷跡があって、 僕はそこに顔を伏せて口付けをするのが好きでした。
僕は自分の罪を再確認するように何度も何度も自分の詩を読み返す、 それから自分の日記を、読み返して、 少し、 吐きそうになる。
そうして君が、安らぐなら、
恋人ができたって嘘なんかいくらでもついてあげるから。
**
昔、職業の適性テストみたいなのをして、 僕の天職は結婚詐欺師でした。 根っからの嘘つきとしてはちょっと誇らしかったのを覚えている。 しかしそれって職業としてどーなんだ。
ツバメにしてくださいって言ってみよう ヒモにしてくださいって言ってみよう 愛人にしてくださいって言ってみよう だけど恋人にだけは絶対にならない。 共犯者ならいくらでも作る。 だけど詐欺師にはもう、なりたいとは思わない。
そして本当のことなんか何ひとつ言わない
君は君にとって都合のいい僕だけを信じていればいいんです。
けれど僕の言葉を信じない人に愛されたいとなんか思わない
十条から、北へ。竹田街道を京都駅へ。 下町の、ほのぼのした道を歩く。 陽射しがあたたかで、なんだか少しさびしい。 音楽が欲しい、と思う。 金ができたらMP3プレーヤーの新しいのを買おうと思ってたけど、もういいかな。さっさと買っちまおう。
行く予定にしてた場所を見つけられない。まずったなぁ。 地図をプリントアウトしていくんだった。 仕方ないので、たぶん来週に延期。
京都駅のアバンティの本屋に寄る。 本を一冊、買って、 映画を見に行こうかな、と思ったけど陽射しに惹かれて、そのまま北へ。 歩く。
以前通った道は避けよう、と思ったのに結局同じ道を歩いた。 寺の古い土塀の隣、河原町を北へ。 五条の手前から木屋町筋に入る。 風情と色気。お茶屋の多い家並み。 そういえば今は祗園おどりの時期で、どのお茶屋の前にも提灯が下がっている。夏みかんの木がたくさん、どこからか線香の匂い。 五条大橋のたもとの喫茶店へ。 鴨川に面した大きな窓が開いていて、陽射しがうらうらと。
さみしかないよ、と。
あのひとに言っておくんだった。
2004年11月05日(金) |
鉄則。 (あるいは、 お守り のようなもの。) |
どこへ ゆくの
と訊かれても、僕に返す言葉はないのでした。
鉄則其のI。 パスワードは簡単なほうがいい。
鉄則其のII。 危険に憧れてはいけない。
鉄則其のIII。 深夜、眠らずにするのはセックスだけでいい。
美しい空。 また僕は色んな物を失くす。 お気に入りのマフラーとか。ペンとか。メールだとか。
他人の唇に指を押し当てて思う。
たぶん、この人もうそつきだ
でもそれでもいい、嘘つきな人間から奪う真実ほど得難いものは無いから。 くすくすと笑いながらホームに立って電車を見送る。 嘘つきの自分を激しく憎む一方で、この自分がいないと生きていけないと思う。
お守り、は、胸ポケットの煙草。 小さなライタ。 ほんのすこしの、週末のひとかけらの期待。 ほのかな香水の匂い。 遠い遠い約束。 死んだひとの潔さ。 机の中の遺書と指輪。
それから、僕が信じよう、と言ったもの。
どこへ ゆくの ?
微笑んで、
明日へ、 と。
僕は嘘つきだから。
頭痛。 と吐き気。 同情してもらわないと生きていけない、って気分になるのはなんだか久しぶりだ。 いいかげん薬を飲まないとやばいかも。 泣きわめいて七転八倒して吐いて呼吸困難になって救急に行って、っていうのもみっともないし。 うにゃ。 でも立てないな。 今日も疲れたなぁ。
2004年11月03日(水) |
巻き戻してください。 |
夕暮れ刻。
交差点に立ち尽くしている。 いろんな人が身体にぶつかっていく。
祈りたくない。 もう祈りたくない。 それだけのさびしさで、あのひとのことをおもっている。
心が、 いくつもあったらよかったのに、と。 少しだけ思う。 このひとつを殺してしまっても、生きて生活できていく人間なら良かったのに。
馬鹿なことをたくさんする。 1年が僕には短いことを僕は知っている。 それなのに僕はその1年も生きて行かれないように思う。
そうでした、ここは井戸の底でした。 足元には澱む水、見上げれば遠く月のように空。 僕はそろそろ諦めねばならない。 できるなら、なるべく早く。
だって僕にはこの1年が何のために必要なのかわからない
光と音と酒に酔って、そうして見ると世界はとてもきらきらしているのでした。
安らかに、こころは少しずつ弛緩してゆく。 酔って物憂げに目を開けていると、急に奔流のように泣きそうになってしまって隣にいた友人に煙草を求めた。 少し、頭痛がする。
煙草の吸い方がわからないくらい酔ってしまったので、苦笑して1センチほどしか燃えていない煙草を消した。 こうしていると明日のことを考えない。 そう思うと自然と目蓋が下りてしまって、目の前が黒く覆われる。 むやむやと頭痛。 職場でもらった甘いものを少しだけ、口に入れた。 キャラメルのわずかな塩気に癒される。
終電に乗ろうと走る友人について走っていく。 足が微妙にもつれる感触。 終電に乗るのなんて何ヶ月ぶりだろう。 走って一気にアルコールが回る。 吊革につかまりながらぐらぐら揺れている。
割増料金の緑の文字。 タクシーから降りて、真っ暗な道をふらふら帰る。 月には群雲、自分の中に溜まっていく言葉や文字を、誰かに伝えられないのが苦しいと思う。
行きたい場所、見たいもの、触れたい人がいくらあっても。 いくつあっても。
よる。
あめは小雨。
おれんじ色の灯りがぽつ ぽつと点いている中を歩いて 蛍光灯のしらじらとした営業所へ行った。
僕のあとから自転車に乗った白髪の男がふらふらとついてきた。
営業所には男がふたり 電話番のようにそこにいて
忘れ物をしたのだが
と言う僕に
どうぞ掛けてください
と 椅子を勧めた。
黒手袋は片方 少し汚れて戻ってくる。
なにかありましたらまたごれんらくください
というこえにおくられて営業所を出ると 自転車の男はたばこをすいながらまだそこにぼんやりとまたがっていて 僕にうわのそらで会釈をし ケムリを吐きながらあめに濡れている。
おれんじの灯りは 廃墟の群れのような無人のバスをてらしながら あめは小雨 わずかな風に ふうわりと僕も濡れる。
**
其人曰く、西方に浄土有り 彼地に在りては者皆飢えること無し 樹木は実り 地には乳蜜の流るると
師問いて曰く、此方は飢えぬことすなわち浄土なるかと 其人応えて曰く、否
師重ねて問う、何の故を以って西方を浄土とするやと 其人応えて曰く、人の和を以ってなりと
師曰く、なべて人獣を問わず万物の内に争い有り 羊狗の前にて安らがず 人虎の前にて安らがぬが如しなり 故に西方を人の和を以って浄土とするは誤りなりと
曰く西方浄土なるは時の経たず命の衰えぬを以ってなり 斯くなればこそ 彼地を浄土と言うなり
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