ジョージ北峰の日記
DiaryINDEXpastwill


2014年07月21日(月) 悪性新生物( この化物)の正体を暴く


癌のプログレッション(悪性化が増強する過程)の根本的メカニズムを
理解するためには、細胞分裂にかかわる遺伝子の働きについて知る必要が
  あるので、少し説明しておこう。

  ところで、生物の形が何千年もの間、たいした変化も受けず安定に保たれ、親から子へ受け継がれてきた機構については、その安定性故に驚嘆せざるを得ないだろう.

  これはとりもなおさず遺伝子の構造が長期間に亘って極めて安定だったことを意味しているからだ。

  私達は、これまで何の疑問も持たず遺伝のシステムは極めて安定だと決めつけてはいなかっただろうか?


  発癌の遺伝的背景(癌化の本質)を理解するためには、この遺伝子構造の安定性を保証しているメカニズムを知ることがどうしても必要なのだ。

  私達の体を構成している個々の細胞の遺伝情報(3万個の遺伝子)は、およそ3億個の塩基(塩基は情報を担う重要な分子で4種類ある)配列からなる途方もなく巨大な(DNAと呼ばれる)高分子が担っている。

  これほど巨大な分子だと、さまざまな外因子の影響(攻撃)を受け安いはずである。

  人が創ってきたさまざまな建造物の耐用年数を思い浮かべてみると、遺伝情報が長期間に亘って安定に保存されてきた機構が如何に驚くべき能力だったか即座に理解できるだろう。

  数万年にも及ぶ人類の生物学的歴史で、遺伝子は致命的な打撃を受けず(人間は絶滅することもなく)現在に至るまで種が安全に保存されてきたのである。

  つまり何らかの非常に優れた防御機構(分子を安定化させるメカニズム)がなければ、太陽光や宇宙線あるいは化学物質などの強力な作用で人類の遺伝子はズタズタに引き裂かれ、私達はとうの昔に絶滅してしまっていただろう。

  たとえ遺伝子の構造変化が比較的軽微なものであったとしても、早い段階で、人類の種としての保存は困難になり、人類という種は地球上から跡形もなく消え去っていたに違いない。

  しかし現実は、人類の遺伝子の化学構造は何万年もの間、極めて安定に保たれてきたのである。これが不思議でなかったら、何が不思議と言うのか。
しかもこの答えが、発癌に密接に関係している秘密の機構だったのだ。

  この機構を一言でいえば、DNA自身が自分の遺伝子の化学構造を安定に守る為に精密な遺伝子群(自衛遺伝子)を準備していたのだ。

  この遺伝子群の存在については、これまである家系に、ある特定の癌が発生しやすいことが知られていて、その存在が予想されてはいた(例えばナポレオンの家系など)。

 また最近、ある癌遺伝子に突然変異が発見されたアメリカの大女優が癌の予防的手術を受けた話がマスコミで大いに話題になった。

  癌が発生しやすい家系についての広汎な遺伝学的・分子生物学的研究から、ある遺伝子がDNA構造の安定性を守ってきたDNA安定化(癌関連)遺伝子だったことが明らかになってきたのだ。


  少し違った視点から話を進めてみよう。

  細胞をお城に例えるなら、まず外堀を守る兵士(細胞膜の増殖を調節する蛋白質)と、内堀を守る兵士(細胞膜の情報を核に伝達する種々のタンパク質)がある。
  後者は外堀と天守閣(核)の間の伝令を担う兵士である。 さらに、お城の周囲に敵の様子や状況をいち早く察知し城壁の兵士に伝達する兵士(細胞の増殖や分化に指令を出す蛋白質)が八方に配置されている。

  彼等は忍者のような兵士だ。もし敵が攻めてくれば(状況変化が起これば)これらの兵士が外堀の兵士に危険を知らせる。知らせを受けた城壁を守る兵士は外堀に防御網を引き、敵と戦う。
   負傷兵が続出、兵士の数が減れば内彫りの兵士は情報を城内の天守閣に(核)に知らせ、 天守閣(核)は、必要なだけの兵士を次々城壁の防衛に送り出す。

  絶えず変化する戦況は伝令の兵士(内外の兵士)を介して城内の天守閣(核)へ継続して報告される。

  もしその防御線が守り切れず破られそうになると、お城は鉄壁の壁を作り門を固く閉ざして(細胞は自分の姿を変えて、つまり分化して)敵の攻撃から身を隠そうとする、か、または別の新しいお城も用意する(分裂して仲間を増やす)。

  しかしそれでも守りきれないお城は、乗っ取られる前に、自らの手で自らを(細胞を)破壊、敵の侵入だけは防ごうとする
 (専門用語では細胞の自殺行為をアポトーシスと呼ぶ)。
  この行為によって、少なくとも城が敵に乗っ取られることを防ぐのである。
  しかし万一それに失敗すると、お城(細胞)は敵に乗っ取られ、天守閣(核)は全く新しい侵略者に支配されることになる。

  次にこのプロセスをもう少し科学的な観点から説明してみよう





ジョージ北峰 |MAIL