エロとピンクとアミタイツ。
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2007年01月04日(木) そして、私はバスから飛び降りた

バンコクで、動いているバスから飛び降りるタイ人を見た。
別に彼女は誰かに追われていた訳ではなく、
もちろんバスがジャックされた訳でもない。
そこで降りたかったから。
ただそれだけの理由で彼女は開けっ放しのドアから車道へ飛び降りた。
車道の真ん中に躍り出て、向かってくる車をひょいひょい避け、
何事もなかったように市場へ消えていく後姿を見送りながら
私は旅立つ前に日本で見かけた、ある違和感を思い出していた。

私がその違和感を感じたのは、朝のホームだった。

「全駅にホームドア設置」

東京メトロの「善行」である。
「ホームドア」。見かけたことがあるだろうか?
ゆりかもめのあれがそうだ。
ディズニーリゾートラインのあれがそうだ。
要するに、線路への転落を防止するために、
電車とホームの間に開閉式の「壁」を設置、
電車が到着してドアが開くまで壁は開かない、
という極めて安全性に優れた機械だ。

しかしながら、私はその設置に疑問を持った。
正確に言うと、ホームドアそのものの安全性への疑問ではなく、
私が感じたのは、その設置によりまた人間から距離感が奪われるのではないか、という危機感だった。

私は、小さい頃から電車を利用している。
もちろん、「ホームドア」なんていうハイテクな安全装置なんてなかった。
だからとは言わないが、私はホームから落ちたこともある。
動いている電車に触って怪我をしたこともある。
痛い思いもしたが、それによって、
今私は電車との適切な「距離感」がとれるようになった。そう思う。
「黄色い線」「何センチ」という規定によってではなく、体で知ったのである。

仮に、メトロ以外も含め、東京中全ての駅にホームドアが設置されたとしよう。
そして、その中で生まれ、ホームドアのある駅しか知らない子どもが育ったとしよう。
彼が東京を出たある日、彼はホームドアのない駅に出会う。
私は思うのだ。
その時、彼は適切な距離感を持てるのだろうか?
保護されない状況を目の前にして、
自分でラインを引くことは出来るのだろうか?

その時はただ漠然とそんなことを思い、
何がそんなに気持ち悪いのか判断できずにいた。
しかし、バスから飛び降りたタイ人をみて、
私はふいにはっきりと問題点が見えた。
それは、グランドキャニオンの女子大生の死亡事故にも通じるものがあった。

グランドキャニオンの事故の概要はこうだ。
ある女子大生がグランドキャニオンに観光で行き、
友人に写真を撮ってくれと頼まれた。
ファインダーを覗くと、全員を写真におさめるには被写体との距離が近すぎた。
一歩、下がる。まだ全員入らない。そして、また一歩…
そうやって、彼女は崖から転落した。

日本では、危険な場所、高所には必ずと言っていいほど「柵」が設置してある。
ここから先は危険だ、と言うラインを他人が引いてくれるのだ。
一見安全そうに思えるが、その結果がこの転落事故であると言うことは間違いない。
彼女は突如として天変地異に襲われたわけではない。
突風に見舞われた訳でもない。
自分でラインを引くことが出来ない彼女は、
「後ろに崖がある」という、たったそれだけの危険を察知することができなかった。
この事件こそ、安全大国・日本の闇の象徴であると思う。

安全管理が行きと届いた国では、個々の危機管理能力が低下する。
それは疑いようのない事実だ。

そんなことを考えている頃、バンコクでミキという男の子に出会った。
結論から言うと、ものすごいアホだった。
彼は、街でマレーシア人のおっさんに声をかけられ、ご飯をおごってもらい、
欲しいものを買ってもらい(!)挙句、ホテルまでついてゆき、シャワーを奨められて
全財産・パスポートを投げ出してシャワーを浴びたところ、
全裸のマレーシア人が風呂に乱入。「ドント ビー シャイ!」
「いやあーまさかゲイだとは思わなくってー逃げましたけどー危なかったっすよー」
と、財布落としましたくらいのテンションで話すミキ。
「あんた、そいつがゲイじゃなくて強盗だったら全裸で死んでたね。」
と私が言うと、「ああそうか、いっけねー。」
最初の二行でもう怪しさ全開なのに、
彼はややもすると死にかけたことにすら気づいていなかった。
私は、ホームドア世代の未来をミキに見たような気がした。

柵も、ホームドアも、木登りをさせない幼稚園も、
「完全に停止するまで座ったままでお待ちください」とご丁寧に繰り返すテーマパークの文言も、
結局は大人の責任回避のための複線だ。
そんなつまらない理由で、人間が本来持つべきはずの距離感や危機管理能力がそがれてゆく。
それが、本当に悔しい。

本来、私たちは動いてるバスから交通量の多い車道へ
飛び降りたって死なないだけの判断力を持ち合わせているはずなのだ。
子ども達よ!日本を飛び出せ!
判断力が、壊死する前に。全員だ。
東京メトロへ反抗するには、もうそれしか道がない。


小日向マリー |MAIL

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