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『空中庭園』 角田光代 (文春文庫) - 2005年10月16日(日)


角田 光代 / 文藝春秋(2005/07/08)
Amazonランキング:4,063位
Amazonおすすめ度:
家族も他人同然
明確な答え
不安定でもやっぱり家族



『対岸の彼女』の対岸に位置する作品

今、もっとも活躍している作家の一人と言える角田光代さんの実質出世作となった作品。
衝撃的な書き出しで始まる本作は、小泉今日子主演で映画化され現在ロードショー中。
あたしはラブホテルで仕込まれた子どもであるらしい。どのラブホテルかも知った。高速道路のインター近くに林立するなかの一軒で、ホテル野猿、という。

「何ごともつつみかくさず」というモットーを持って生きている郊外のダンチに住む、父・貴史と母・絵里子、高校生のマナ、中学生のコウの4人家族。現代社会における象徴的とも言える核家族が持っているそれぞれの隠された秘密が徐々に露わになって行く・・・

本作は直木賞候補にも選ばれており、2回目のノミネートで受賞作となった『対岸の彼女』と読み比べてみるのも面白い。

『対岸の彼女』が女性の生き方や友情を問うた作品であるのに対し、本作はまさに家族のあり方を問うた作品。
どちらの作品もリアルで読者にとって共感小説と言えるのであるが、内容的には本作の方がどんよりと重い。

各章“ダンチに住む4人家族(京橋家)”と祖母と家庭教師の6人の視点から綴られる。
それぞれの登場人物が持つ“秘密”が少しづつ露わになり、物語としても巧く繋がるところは連作短編的な長編の特徴が出ている。

角田さんの凄い点は老若男女と言って良い6人(14歳の中学生から70前のおばあちゃんまで)の視点がそれぞれ見事なことに尽きる。
読者は自身の人生を振り返ったりあるいはこれから人生をどう生きていくかを考えさせられるのである。

とりわけタイトル名ともなっている妻の絵里子の章「空中庭園」が秀逸。
母親との確執が人生を変えている点は他の章が多少なりともコミカルな点があるのだけど切なくていつまでも心に残るのである。
いや、身につまされた方が多いのかもしれないな(笑)
あと2人の女性と不倫して修羅場に遭遇する父親の貴史、滑稽に書かれているがどうしても女性読者の絶対数の方が多い点からしてのサービス精神であろうかなと思ったりする。

いずれにしても本作は角田さんの最大の特徴である“小説の世界で描き切れる範囲内で精一杯の問題定義を読者に投げかけてくれる”ことに成功している。
性別・世代を超えた方に支持されるエンターテイメント小説であるが『対岸の彼女』と比べると暖かいまなざしよりも鋭い視点に重点が置かれているような気がする。

ここからは少し結論づけますね。

本作において角田さんは現代社会における家族のあり方を示唆してくれているが、決して危機的な状況であるとまでは語っていないような気がする。
この作品に“人生の縮図”を見た方も多いのではないであろうか。
人生は“幸せを求めての試行錯誤の連続である”私的には角田さんが一番読者に訴えたかったことだと理解している。

その感性の豊かさからして、角田さんが国民的作家と呼ばれる日もそんなに遠くないんじゃないであろうか。
そのためにもあなたにもこの本を手にとって欲しいなと切望する。

評価9点 オススメ

2005年65冊目


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『しあわせのねだん』 角田光代 (晶文社) - 2005年10月08日(土)


角田 光代 / 晶文社(2005/05)
Amazonランキング:105,808位
Amazonおすすめ度:
手ごたえなし・・・
単行本


<直木賞作家の家計簿>

小説という虚構の世界を紡ぎ出し読者に夢を売ることを生業としている作家にとって、“エッセイを書く”と言う仕事は果たしてどういうメリットがあるのか?

客観的に見て、作家にとってエッセイを書いて上梓するってかなり勇気のいる行動なんだろうなと推測する。
なぜなら私たち読書好きが抱いているイメージを損なう可能性もあるからだ。
しかし本エッセイを読んでみてそれが杞憂に終わることに気付くはず。
角田さんの人間的魅力が読者に十二分に伝わってくるからである。

内容的には角田さんがつけられている家計簿に基づいた題材。
各タイトルに必ず値段が入っていて、それにまつわる面白い話のオンパレード。
金銭感覚が庶民的なので身近に感じられた方も多いはずだ(私もそうです)

小説では味わえない“人となり”を感じ取れるのはエッセイの名人である“三浦しをん”さんと甲乙つけがたいところである。
ユーモラスであるだけでなく、洞察力が鋭いのである。
しをんさんのような爆笑エッセイではないが、一世代上の角田さんは自己の人生経験をもとに人生を振り返りつつ読者に指針を与えている点が素晴らしい。
角田さんと同年代の女性が読まれたら、愉快に楽しい読書のひとときを過ごせるであろう。
きっと何回も読み返したくなる本に違いない。
お腹がいっぱいになった気分で本を閉じれるのは角田さんのなめらかな文章を堪能したからであろう。

もっとも印象的だったのはお母さんとの旅行を語った「記憶 9800円×2」。
角田さんの熱き想いが伝わってきた。
本作は“天国のお母さんに捧げた1冊”だったに違いない。

この世界ももちろん弱肉強食である。
まるでプロ野球の世界と酷似していると言って過言ではない。
毎年毎年新人作家がデビューする。
出版社の出版状況もかつてほど多くなく、若者の活字離れにも拍車がかかっている。
もちろん出版社からの原稿(出版)依頼がなければ仕事が出来ない。
本エッセイにも書かれているが、仕事がない不遇の時代があったことをも吐露している。

だから本エッセイを読んで、ここ数年の角田さんの売れっ子ぶりが読者もわかるのである。

個人的にはラストの言葉が胸に響く。
ゆたかであるというのは、お金がいくらある、ということではけっしてないのだ

是非、座右の銘にしたいな。

現在の角田さんは締切に追われる毎日が続いているのであろう。
今日も朝8時から夕方5時まで公務員的な時間で筆を取っているのだろうか?
昼の食事は何にするのかな?
身近に感じられるのである(笑)

このエッセイを読んで角田さんの作品(小説・エッセイ問わず)をもっと読みたいと思われた方が多いことであろう。
熱きファンに支えられ、角田さんのきらめく才能の発揮はこれからも続くと信じたい。

評価8点

2005年64冊目


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『邪魔(上・下)』 奥田英朗 (講談社文庫) - 2005年10月07日(金)


奥田 英朗 / 講談社(2004/03)
Amazonランキング:8,851位
Amazonおすすめ度:
一級のクライムノベル
説得力がある日常との連続性
これでミステリー嫌いを克服?



奥田 英朗 / 講談社(2004/03)
Amazonランキング:8,228位
Amazonおすすめ度:
残念!
今年読んだ中で一番の面白さ!
複雑化した単純な事件



<平凡に生きることのむずかしさを痛感>

本作は奥田氏の初期の代表作と言える作品で大藪春彦賞を受賞、2002年度このミスの年間ベスト2にもランクインされている。

奥田氏の第2作かつ出世作である『最悪』と同様の犯罪小説であるが、本作には『最悪』のようなコミカルさや展開のスピード感はない。
どちらかと言えばシリアスかつ重厚な社会派要素的な作品に仕上がっていて、本作以降に奥田氏が進んだ一連の多彩な作品群とは一線を画するのである。

奥田氏の人物描写の的確さ(巧みさと言ったほうがいいのかもしれない)は定評のあるところであるが、本作における及川夫婦の描写は特に秀でている。
誰しもが持っているいる<弱さ>を見事に描写。

夫である及川茂則。
本作においては“だらしない人間”の象徴として描かれている。
もちろん犯罪に弁解の余地はないのであるが、共感とまでは言わないが少なくとも同情された方も多いのかもしれない。
彼が本作において重要な役割を演じていることは自明の理である。
彼の終始一貫した“寡黙さ”により、読者が身につまされて本を閉じるのである。

一方の妻である恭子、彼女の変貌振りは凄まじい。
彼女が茂則と結婚したことは不運だったのであろうか?
大半の読者はそう感じたことであろう。
本作において彼女の心の中が暴走し脱落していく姿は他人事ではないのである。
たとえば市民運動に必死に活動しているシーン、ラストの自転車での逃走など。
読者の脳裏に焼き付くのである。
まさに“追いつめられる”とは彼女のような人物を言うのだなと実感。

とりわけ子供のいる主婦の方が読まれたらその切なさに共感できることであろう。
残された彼女の子供達、不運かもしれないが決して不幸にはなってもらいたくないと切望する。

本作の少し難点をあげれば、もう一方の主人公である九野刑事の心の動きが及川恭子ほど巧みに描けてなかったような気がする。
犯人を“追いつめている”サイドの人間である九野刑事が実は“追いつめられている”という設定は面白いのであるが・・・
奥田氏に対する期待の大きさの表れだと思って斟酌してほしい。

“人生はもはや綺麗事では済まされない”
本書を読んで得た大きな教訓である。

評価8点

2005年62&63冊目


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