『東京物語』 奥田英朗 (集英社文庫) - 2005年09月28日(水) 奥田 英朗 / 集英社(2004/09) Amazonランキング:3,419位 Amazonおすすめ度: それぞれの「東京物語」(奥田版) 懐かしさを感じました 大いに共鳴! <直木賞作家、奥田英朗の原点> 本作は奥田英朗の作品でもっとも心地よく読者に受け入れられる青春小説の決定版とも言うべき作品である。 他作のようなエンターテイメント性は薄いが、作者の人となりが文章に滲み出ている点が嬉しい限りだ。 とりわけ、35才以上の読者が本書を手に取ればまるで自分が主人公になったかのごとく“懐かしいあの頃”に戻ることが出来る。 そう、バブル前、バブル絶頂期という時代をもういちどタイムスリップできるのである。 主人公の田村久雄は作者である奥田英朗と同じく昭和34年生まれ。 小さな広告代理店で働くコピーライター。 名古屋出身で19歳の時に東京に出てくる。 上京した日が“キャンディーズの解散コンサート”が行われた日。 “ああ、懐かしい!”と思われた読者はまさに“青春プレイバック状態”に陥る。 時代は1978年から1989年まで。ジョン・レノンの射殺、キャンディーズの解散、江川のプロ初登板、名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊など、挿入されるそのときどきの象徴的な出来事が物語と微妙に関係している。 作中で大きな携帯電話(出始めの頃ですね)が出てくるが、基本的に本作には携帯電話が出て来ない。 その懐古的なところがなんともいえず心地よいのである。 本作を読んで一番強く感じた点は、まるで読者にとって一人の親友(田村久雄)が出来たかの如く感覚に陥る点である。 作中にて青春時代によくありがちなほろずっぱい恋愛体験をするのであるが、読者全員が思わず応援したくなったのは奥田氏の筆力の確かさである点は否定できない。 かつてCDがなくレコード全盛の時代を思い起こして欲しい。 A面(表面)、B面(裏面)というのがあった。 この作品に出てくる6篇はまさしくレトロな色調を帯びつついつまでも読者の胸に響き渡るのである。 この作品のもっとも凄い点はラストで友達から『小説でも書けよ』と言う言葉をかけられ、『青春が終わり、人生は始まる、か』というこれもまた友達の言葉で終わる。 30才以降の奥田氏の変貌振りを見ればよくわかるのであるが、読者にも“夢を持ち続けることの大切さ”を悟らせてくれている点が素晴らしい。 本書を読んだ一番の収穫である。 少し前述したが、レコードにたとえると、全6編いわばA面の1曲目から6曲目までを聴き終えた状態である。 恋の悩みあり、仕事の悩みあり、友情の悩みあり、バラエティに富んでいる。 本作を読み終えた今、読者はB面は奥田氏(田村久雄氏)からバトンを受け取ったのである。 A面に負けない個性的な曲を自分で作り、悔いのない未来を迎えたいなと思うのは私だけであろうか・・・ 焦らずに勇気を持ってレコード針を落として欲しい。 奥田氏の切なる願いであろう。 評価9点 オススメ 2005年61冊目 ... 『都市伝説セピア』 朱川湊人 (文藝春秋) - 2005年09月04日(日) 朱川 湊人 / 文藝春秋(2003/09/23) Amazonランキング:21,624位 Amazonおすすめ度: 「昨日公園」の話がとてもよかった! 巧い!!! かなりおすすめです! 『花まんま』で直木賞を受賞された朱川湊人さんの出世作と呼ばれる本作は直木賞の候補にもあがった。 あらためて読み返してみて、本作で直木賞を受賞してもよかったのではないであろうかと感じたのは私だけであろうか。 朱川さんの最も秀でている点はやはりその“語り口”の絶妙さであろう。 朱川さんの場合、ホラーが“ジャンル”ではなくて“題材”だといえそうだ。 ジャンルとしては“郷愁&人情小説”いや“大人のおとぎ話”といった言葉の方が適切であろうか。 だから恐いという先入観を持たれて避けられてる方は是非勇気を出して本作を手にとって欲しいなと思うのである。 全5編からなる短編集であるが個人的には切ない話である「昨日公園」と「月の石」が良かった。 少し背筋がゾクッとなるが哀愁感に満ちた作品のオンパレード。 たとえば個人的にベストだと思う「昨日公園」。 幼い頃、友達と公園でキャッチボールしたシチュエーションが読者の脳裏を横切るだろう。 彼らは今、どうしているのであろうか。 ふと自分の幼少の頃の懐かしい思い出に馳せる。 そういう気持ちを思い起こさせてくれただけでも一読の価値はあると断言したい。 タバコを吸われる方、本数を減らしましょう(笑) 「月の石」の“ほのぼのエンディング”も読者にとっては嬉しい。 読者が自分の人生を見つめなおすきっかけとなる作品だと言えそうだ。 見事な起承転結で描かれた作品で、読者に日頃忘れがちな勇気と自信を取り戻させてくれるのである。 短編集全体の構成面を考慮しても、内容的な面において、この作品をラストにもってきた点は本作における大いなる成功である。 なぜなら、朱川さんの作品を次も是非読みたいなと思って“優しい気持ち”で本を閉じられた方が大半のはずであるから。 普段ホラーやサスペンスをたくさん読まれてる方には「フクロウ男」がオススメ。 個人的には狂気に満ちた(ちょっと言い過ぎかもしれませんが)「アイスマン」と「死者恋」はいまいちだったような気もするが、この2編は読者を選ぶ作品なのかもしれない。 本作はご存知のように、直木賞受賞作『花まんま』より先に刊行された。 読まれた方はお気づきだと思うが、すでにこの時点で“朱川ワールド”を見事に構築しているのである。 次の朱川ワールドを心待ちにしているファンが全国津々浦々にいる。 朱川さんなら期待に応えてくれるであろう。 評価8点 2005年60冊目 ...
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