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『かたみ歌』 朱川湊人 (新潮社) - 2005年11月04日(金)


朱川 湊人 / 新潮社(2005/08/19)
Amazonランキング:11,843位
Amazonおすすめ度:
現代に失われてしまった心のぬくもり
怖さと、切なさと・・・
郷愁をそそられるちょっと昔の下町のものがたり



<『花まんま』の東京下町版>
今回は舞台が東京の下町“アカシヤ商店街”で連作短編集の形をとっている。
直木賞受賞作『花まんま』ほどのバラエティさはないが全編を通してのノスタルジックな雰囲気や登場人物の設定はお見事と言うべきであろう。

全7編からなるのであるが、年代順に並んでおらずこのあたりも最後まで読み通してみての楽しみなのである。
芥川龍之介似の個性的な古書店の主人が各編及び全体を通してのキーパーソンとなっているのが印象的である。
不思議な人だと思っていたのが最後にホロッとさせられます。

ただ、お得意の古い歌(タイトル名ともなっているそれぞれの編の“かたみ歌”)のオンパレードが健在なので、たとえば30才以下のお若い方が読まれたら時代背景を感じ取りにくく臨場感が出ないのかもしれないなと思う。
逆にそれぞれの歌をご存知な方が読まれたら、感慨ひとしおで歌同様それぞれの物語も記憶にいつまでも残りそうであるし、またいつか読み返してみたいという気にさせられるはずである。

忘れかけていた懐かしいあの頃、あの気持ちを切なく思い起こさせてくれる朱川さん。
彼の高き才能は充分に認めるとしても最近の作風で言えば、ホラー色が薄れノスタルジー色が強すぎるのではないであろうか。

ずっとこのまま“昭和作家路線”を突っ走るのであろうか・・・
なぜなら次作が12月に角川書店から発売決定している朱川さんであるが、同パターンの作品が続くために多少なりとも食傷気味な方も多いのではないであろうかという危惧もあるのである。

その危惧が杞憂に終わることを心から望んでいる。

評価8点

2005年69冊目

この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年2月28日迄)



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『ララピポ』 奥田英朗 (幻冬舎) - 2005年11月03日(木)


奥田 英朗 / 幻冬舎(2005/09)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:
帯がなければ星5つなのに・・・
日本の実像
面白かった!



<こういう作品が書けるのも直木賞を受賞した余裕であろうか・・・>

現代作家の中でその大衆性と読みやすさにおいて最高レベルに到達したと言っても過言ではない奥田氏であるが、伊良部シリーズ以上にお笑い系でお下劣な作品を上梓されるとは予想だにしなかった次第である。

かつて重松清が『愛妻日記』を上梓した時には本当に度肝を抜かれたのであるが、本作はそこまでは行かないがこんな作品を書く必要があるのであろうかと思わず叫びたくなるような作品である。

ただ、重松清よりも大衆性においては一歩も二歩も上を行く奥田氏が書けば作品としてはずっと面白く読めるから読者も微妙なところである。

たとえば初めて奥田氏の作品を手に取る方がいたとしよう。
本作はやはり薦めにくいのではなかろうかなと思ったりするのである。
個人的には伊良部シリーズの優れたキャラと滑稽さが限度一杯なのである。

もちろん、各篇に登場するそれぞれの登場人物が個性的であるのは認める。
奥田氏の各篇巧みにリンクした書きっぷりも見事である。
でも登場人物ひとりひとりに悲壮感が漂いすぎているのではなかろうか・・・
いや、悲壮感を通り越してむなしく感じるかもしれないな。

結論を言えば、男性読者の私としたらまずまず面白かったのですが、伊良部シリーズみたいに単純に笑え癒される話ではないのが引っかかる。
孤独さが漂い過ぎていて他人に自信を持って薦めにくいと言うのも事実じゃないかなと思ったりするのである。
女性へのプレゼントは厳禁したいですね(笑)

少し辛口になりましたが、逆にもし新人作家が本作を書いていたら傑作だと言わしめさせていただけたかも。
それだけ奥田氏に対する期待が大きいと言うことなのだと思います。

評価5点

2005年68冊目


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『ワーキングガール・ウォーズ』 柴田よしき (新潮社) - 2005年11月02日(水)


柴田 よしき / 新潮社(2004/10/21)
Amazonランキング:93,215位
Amazonおすすめ度:
がんばれ!翔子!
お見事!
かっこいい!


<女心を描写させたら当代屈指の作家の真骨頂>

久々に柴田さんの著作を手に取ってみたが、やはり相変わらずその引き出しの多さに驚いた次第である。

本作は軽く書かれているがかなり奥の深い一冊だと言えそうだ。
男女問わず、誰しも現状の自分に満足していない人が大半だと思う。
そんな方には是非手に取ってみて欲しい一冊である。

なんといっても主人公のお局社員、37歳のキャリアウーマン墨田翔子が素敵である。
世間一般的には一流企業で働き都内にマンション所有、羨ましい限りである。
その世間一般的な気持ちをネットで知り合って友達となる嵯峨野愛美が代弁している。
どちらかと言えば愛美の方が読者の視点に近いのかもしれないな。
交互に語り手が変わり、それぞれの視線での悩みがテンポ良く軽妙に語られ心地よい。
柴田さんは主人公達を皮肉ってるわけではない。
逆にお若い方が読まれたら“理想の上司”(翔子に対して)として掲げて欲しいなという希望を込めて書かれていると思う。

働く女性達にとっての応援歌いや“道しるべ”となっている。
それは他の女性作家が得意とする恋愛面だけではない。
柴田さんが描くとくっきりとその人の“人生が描かれている”から驚愕物だ。
あと、細部にわたり女性が働くにあたって良い教訓(戒め)となるようなことも散りばめられています。

多少なりとも、描かれている男性陣がだらしないというか滑稽であるのはいたしかたないか。
少なくとも本作を読んだ大半の女性は心地よく主人公翔子の気持ちを受け止めたことであろう。
本作を読み終えて主婦であれ、OLであれ、学生であれ、もっと言えば男性であれ・・・
ラストの啖呵を聞かれた方のほとんどが『明日から頑張るぞー』と思われたはずだ。

個人的には「フェザーB」(翔子)と「A美」(愛美)とのあいだに友情が芽生えて行く過程が印象的であった。
ネットを通じて交流が深まるのは、読書を通じて心が豊かになるのと同じように嬉しい限りである。

結論を言えば私自身、翔子がいわゆる“負け犬”だとはこれっぽちも思っていない。
もし翔子が男性だったら俗に言う“勝ち組”と称されるであろうはずだから・・・
是非あなたの意見も聞かせて欲しいなと思うのである。

評価8点

2005年67冊目


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『サウスポー・キラー』 水原秀策 (宝島社) - 2005年11月01日(火)


水原 秀策 / 宝島社(2005/01/27)
Amazonランキング:75,247位
Amazonおすすめ度:
ピッチングも小説も「キレ味」が大事
値段分の価値はある
野球が好きな人でも嫌いな人でも十分楽しめる作品です


<小気味の良い文章が売り物のミステリー界の新星登場!>

このミステリーがすごい!の第3回大賞受賞作品。
舞台はプロ野球であるが、内容的にはあんまり野球ルール等を知らなくても充分に楽しめる。
たとえばプロ野球の全12球団名を言えない人でも安心して手に取って欲しい。

設定的に登場人物や球団等、実在しているもの(あの球団です)を揶揄している部分もあるが、私は阪神ファンなのでことさら楽しめた。

内容的には主人公でオリオールズの2年目サウスポーピッチャー沢村が八百長疑惑に巻き込まれていくのを、疑惑を晴らすために悪戦苦闘する姿が一人称で語られています。
読み終えた結果として、現実的にこのようなことがあったら困るのであるが(笑)、競争社会の厳しさを少しでもわかった読者はハードボイルドミステリーを堪能できたと言えそうだ。

やや、ラスト近くの試合シーンに消化不良的な不満も残るが、主人公沢村のクール度も含めて脇役陣のキャラもたっており、安定して読ませるところはさすがだなと感服した次第である。

水原氏の特徴はやはり人間の奥底に潜む嫉妬や悪意を描きつつもあんまりそれが前面に出ずに爽やかである点だ。
とりわけラストシーンのロマンスの結末や敵役が発する言葉なんかは見事のひと言。
新人ながらにして読者を充分に意識した作品を書けているのである。
野球にゲームセットはあっても、人生にゲームセットはないのであるから・・・
主人公と作者を比べてみよう。
作中の沢村はプロ2年目で確か新人王には選ばれなかったはずである。
このミス大賞というミステリー界の“新人王”を獲得した(と言っていいのであろう)水原氏、小気味の良い文章でエンターテイメント界にさらなる新風をもたらせて欲しい。
次作以降も大いに期待したく思う。

評価8点

2005年66冊目


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