『犯人に告ぐ』 雫井脩介 双葉社 - 2004年07月31日(土) 犯人に告ぐ 雫井 脩介 《bk1へ》 警察小説と言えばまず、横山秀夫さんのイメージが強いが、雫井さんも負けてはいない。 警察内部の出世争い等専門的なことは横山さんに譲るとしても、に警察全体のあり方を語らせたら雫井さんの方が読み応えのある作品を書くんじゃないかな。 とにかく“ダイナミック”な作品である。 主人公の巻島は本当に“波乱万丈な人生”を送っている。 過去の誘拐事件での不手際(前半部分で描写されている)からいったん前線から退いたが、本作のメインストーリーである連続誘拐殺人事件にて復帰して前代未聞(?)のテレビ局出演を果たす・・・ 彼の男としての矜持はいかに描かれてるのだろうか? 読者はめくるページを止めれない。 まさしく雫井マジックに嵌ってしまうのである。 個人的にはテレビ局の報道のありかたがとっても“臨場感”があったので印象的である。 ライバル局を登場させての展開は読者をよりいっそうハイテンションにさせてくれる。 恐るべき雫井さんの演出であると言えよう。 テレビ局への出演はいわば“巻島対植草”の熱き戦いであった。 少し印象的な場面を引用しますね。 「あなたの言い分はどうでもいいんです」巻島は冷ややかに言い捨てた。「あなたに非があると言うつもりもない。ただ、私にとっては邪魔なんです」 植島の公私混同ぶりは本当に腹立たしい。 しかし願わくばこんな薄っぺらい人間が警察にて仕切っているなんて、せめて小説だけの世界にしてほしいなあ(笑) 雫井作品の醍醐味ってなんなんだろう。 読みやすい文章と予断の許さない展開かな?特に社会派的な要素も多分に取り入れてるのも特徴かな? あと主人公なんかも横山秀夫さんの作品ほど力強くはないが、横山秀夫さんの作品より人間臭く描けてるような気がする。 本作なんかは“報道のあり方”とうい観点から読まれてもきっと楽しめ新しい発見を読者にもたらせてくれるのだと思う。 少し難点を言えば、やはり犯人(バッドマン)の登場の仕方があっけないなあと思われた方も多かったかな。 もっと犯人の過去などを掘り下げて書いて欲しかったと思われた読者もいらっしゃるのだろうと思う。 そこがやはり“一方通行的”だなあと思ったりした。 しかしながら上記の点を差し引いても本作は迫力満点に読者に襲い掛かってくる。 素晴らしい点は警察のみならずメディアのあり方を問うた作品であることであろう。 スマッシュヒットとなった前作『火の粉』と比べると、サスペンス度においては劣るかもしれないが、読後感の良さや感動度においては本作の方に軍配を上げたく思う。 きっと1作1作力をつけて行ってるのでしょうね。 本作はいかに私たちが日常“正義”ってものを欠如して生きているかをもういちど考え直すきっかけとなったような気がする。 雫井さんに素直に感謝したい気持ちで一杯である・・・ 評価8点 2004年71冊目 (新作51冊目) ... 『ランドマーク』 吉田修一 講談社 - 2004年07月23日(金) ランドマーク 吉田 修一 《bk1へ》 帯に村上龍さんの絶賛の言葉がある。 確かに現状の吉田さんって評論家の評価が高くって一般読者の評価が追いついていない作家かもしれない。 私は吉田さんって純文学を変えた作家なような気がする。 いや、新しい純文学の形を作ったと言ったほうが適切であろうか・・・ 本作は複数の職業を通じて男の生き方を考えさせてくれるだけじゃなく、家族や女性問題にも触れている。 吉田さんの現代をさりげなく風刺された文章は今を生きる私たちのエネルギー源だ。 小泉首相について言及した部分を引用したい。 『この人の息子ってのは、いい男だもんねぇ。ほら、昔の裕次郎みたいでさ』 吉田さんって本作の埼玉県大宮だけじゃなくその固有の土地を強く意識的に描写した作品が多い。 前作の『長崎乱楽坂』の長崎、ドラマ化中の『東京湾景』のお台場など・・・ 少し大宮を的確に描写した部分を引用したい。 巨大ターミナル駅のコンコースには、まるで渋谷や新宿のいいところだけをピックアップしたように、「そごう」「高島屋」「ルミネ」「丸井」などのデパートの看板が並び、どの店舗にも「GAP」「ゴディバ」「ロクシタン」などの有名ブランドが入っている。 上記からもわかるように本作では東京からはそんな遠くないのであるが、やはり地方色が抜けきらない大宮を描いている。 主人公で鉄筋工の隼人は九州から出てきたのであるが、東北訛りの人々に囲まれた職場になじめずに週末は東京のライブハウスで過ごす。 彼が装着する金属製の貞操帯って本作においては“裏のシンボル"である。 装着し出してから誰もがきづいてくれない点はきっと若者の“焦燥感”や“倦怠感”の象徴と言えそうだ。 もうひとりの主人公、設計士の犬飼も夫婦生活がうまくいかず“空虚”な毎日を送っている。 二人の接点は大宮のシンボルであり本作の“表のシンボル”であるO‐miya スパイラルの設計者と工事側の鉄筋工である。 前半部分で同じ電車に乗り合わせるシーンがあったような気がするが、最後まで言葉を交わすことはない。 ラスト付近で起こる事故により吉田さんは読者に危機感を持つことを訴えている。 そう言った意味合いにおいては“読者(というか現代人)が日常に帰る時に心に留めておかなければならない大切なものを提供してくれた”と言えそうだ。 吉田さんの作品って突然終ってしまうことが多い。 作品によってはあっけないなあと思うこともある。 しかしながら読後感は意外と心地よい。 “言外の意味をくみとる”という言葉があるが、まさに吉田修一さんの小説を読んだあとにピッタシな言葉だ。 余韻を残してくれている本作は読者に物語の収拾を委ねたのだと思っている。 明日からは自分の不器用さを少しでも解消したいものだ。 明日からは浮き足立って生きてはならない! 大きな教訓を得て本を閉じた事となった・・・ 評価8点 2004年70冊目 (新作50冊目) ... 『天国の本屋』 松久淳&田中渉 新潮文庫 - 2004年07月18日(日) 《bk1へ》 面白い本、心に残る本を他人に伝え共感を分かち合いたい。 本好きの自然な気持ちである。 出版不況の昨今であるが売上の絶対量が減っているだけで依然として膨大な出版数の本が出版されている。 その中でいかに本をセレクトして読み吸収して行くか。 ある意味において本好きの醍醐味であろう。 本を選ぶ時点で読書が始まっていると言っても過言ではないのではないか。 我々がネットを通じて書評を書いたり読んだりする行為って、ネットを通じた“口コミ”作業と言えるんじゃないかな。 本作はその口コミの典型的な例といえる成功例の本である。 なんと発信地は東北地方のとある書店から始まった。 今や映画化もされて一大ムーブメントとなっている。 物語はいたって単純である。 遅まきながら今回初めて手にとって率直な感想はやはり本好きにはたまらない内容となっている点である。 本作は読者に現実ではありえないとわかっていても、究極の心の安らぎの空間をもたらしてくれている。 私たちが普段避けられない現実によって精神が飽和状態となった時、やはりこう言う作品を読むと心が緩和して行き気持ちががマイルドになるんじゃないかな。 ただ、熱き恋愛小説を予期して読まれた方は物足りないかもしれない。 どちらかといえば恋愛と言うより周りの人(性別問わず)に対しての思いやりというか気配りに重点を置いて読まれた方がベターだと思う。 現世では無気力な生活を送っていたさとしが天国に行って一変、本屋の店長代理に就任してコツコツと天国で朗読を聞かせ変化して行く。 さとしの朗読がユイの心を開かせたのは間違いのないところである。 そのさとしの変化というか成長が現世でのありえない夢を成し遂げれたんじゃないかな。 まるで読者に“幸せって自分で掴み取るものですよ!”と天国の神様が教えてくれてるように感じれた。 まさに“大人の絵本”っていう言葉がピッタシである。 本好きにとっては“必読の1冊”といえそうですね。 評価8点 2004年69冊目 (旧作・再読作品17冊目) ... 『ハミザベス』 栗田有起 集英社 - 2004年07月17日(土) 《bk1へ》 まず最初に著者の簡単なご紹介をしたいと思う。 栗田有起さんは1972年生まれで本作にてすばる文学賞を受賞。 現在まで本作と芥川賞候補となった『お縫い子テルミー』の2作を上梓。 先日第131回芥川賞にも「オテル・モル」でノミネートされた期待の若手作家である。 この方って新しい家族小説の旗手となりえる“独特のセンス”を持ち合わせている。 少し繊細すぎて(というか基本的には女性読者を対象として書かれてるのであろう)男性読者には若干理解し難い面があるのは仕方ないことであろうか? しかしながら読者の記憶に残る作品を書ける作家といえるんじゃないかな。 全2編からなる中編集であるが特にそのタイトルのネーミングがコミカルに付けられている。 表題作の「ハミザベス」は母子家庭で育つ主人公が、ある日小さい頃に亡くなっていたと聞かされていた父親の遺産が入りマンションをもらい母親と別居する。 いやマンションだけでなく亡父の愛人だった女性からハムスター(名前がハミザベス)を譲り受けるのである。 そこから様々な事柄が耳に入ってきてそれに対処していく親子愛を描いた作品なのであるが、瀬尾まいこのように強く読者に入り込んでくる力は欠けてるように思えるがさりげなく読者に訴える力は十分に備えられていると思う。 2編目の「豆姉妹」は七歳違いで姿形がそっくりの姉妹を描いてるのであるが、なんと看護婦をしていた姉がSM倶楽部に転職するのである。 主人公がアフロヘアに変身したのがとっても印象的だ。 2編ともそれぞれ親子愛と姉妹愛を軸に淡々と語りながらもお互いをいつくしみ合うという機軸がいい感じである。 栗田さんって他の女性作家の同タイプの作品と比べて少し健気さが不足している点が逆に魅力なんだろうな。 少しさめた感じで物事を捉えてる部分が垣間見られる所が現代的で、女性からしたら等身大に感じるのかも知れない。 このジャンルって同じぐらいの力を持った方が多いのでなんとかもうひと伸びして欲しいなあと思ったりしている。 読み終わったあと階段を一歩だけだけど登ったような感覚を味わえる作品だ。 このわずか一歩が明日へ繋がるということを肝に銘じたい。 評価7点 2004年68冊目 (旧作・再読作品16冊目) ... 『邂逅の森』 熊谷達也 文藝春秋 - 2004年07月16日(金)
史上初の直木賞&山本周五郎賞同時受賞作品である。 時代は大正時代。東北地方の寒村でマタギ(狩猟)を生業としている富治が主人公。 地主の娘、文枝と身分違いの恋をしたために村を追われその後転々とする人生であるがその運命に逆らえずにいながらも自分で人生を切り開いて行った過程を見事に描いた作品である。 日露戦争から昭和初期にかけて描いているが“毛皮需要”によって庶民の生活がが翻弄されている点が特に印象に残った。 われわれの祖先って本当に大変だったのだ。 本作を読めば真っ先に感じ取れる率直な気持ちである。 何よりも前半の文枝との恋愛シーン、あるいは後半の夫婦となってのイクとの葛藤シーンが良い。 もちろん熊との決闘シーンも良い。 思わずコブシを握り締めて読書している自分がいた(笑) 女性が入り込めないマタギの世界を自然描写を巧みに用いて読者を釘付けにしてくれる。 前者は女性の素晴らしさ・後者は男性の勇ましさを読者に余す所なく見せ付けてくれた。 主人公の富治は幸せものだ。必ずしも世間一般的には恵まれている人生とは言えないが陰で支えてくれる人が素晴らしい。 女だけじゃない。生涯の友と言うか弟分小太郎の存在も物語の中で重要な役割を演じる。 何と言っても姉であるイクを引き合わせたのだから・・・ 個人的にはいちばん本作を読んで力づけられるのは、イクの男性顔負けの力強い生き様であろう。 読者が見逃してならないのは“イクは主人公富治よりもっと波乱万丈な人生を過ごしつつも、誰よりも心を捧げる生き方を成就させたのは彼女だった”に違いない点である。 女性読者の感想を是非聞きたいなあと思ったりする。 読み終えて現代に生きる私たちと比べてみた。 確かに本当に不況が長びいて苦しい。 でも本作における厳しい社会(世界)よりはずっとましなはずだ。 クライマックスでのクマとの決闘に打ち勝った精神力は待ちわびるイクへの愛情のあらわれに他ならない。 本作を読み終えて普段些細なことを思い悩む自分に叱責したい衝動に駆られた。 少しは自分自身を顧みるいい機会としたいなと思う。 本作は男と女の本来の“生々しさ”を存分に描写した感動の大傑作である。 本当に素晴らしいと思える点は“まるでノンフィクション、いや伝記を読んでいるような感覚で読める点である。” ただ、普段あんまり読書をされない方にはオススメし難いのは残念である。 そういう方には同時受賞された奥田英朗さんの『空中ブランコ』を是非オススメしたい。 まさに“2段構え”の直木賞発表であった。 時代は熊谷氏の登場を待ってたのかもしれない。 直木賞発表がもたらせてくれた読者との“一期一会”の機会である。 “これほど読み応えのある作品って次にいつめぐり合えるだろうか?” これから読まれる方も是非本作を堪能されることを願ってやまない。 評価10点 超オススメ 2004年67冊目 (新作49冊目) ... 『自転車少年記』 竹内真 新潮社 - 2004年07月12日(月) 《bk1へ》 誰しも子供のときに自転車に乗れた時の感動ってひとしおである。 大人になってみて、それは親子の一大イベントということがわかる。 自分の子供が自転車に乗れた時って、ひとりで歩けるようになった時に次いで二番目の大きな成長の節目とも言えそうだ。 本作は昇平という四歳の男の子が自転車に乗ってというか練習中に坂道を下って止まりきれずに同じ年の草太の家に突入し、そこから永遠の友情で結ばれる二人の少年(始めは四歳だが)の成長記である。 物語は四歳から三十歳ぐらいまでを描いている。 主役二人以外の脇を固める人(たち伸男・奏・朝美など)も自分の進むべき道を歩んでいる。 この物語に出てくる人物って“ピュアなハートの持ち主”ばかりである。 とりわけ奏の存在って読者に強烈に潔い生き方を提起してくれた。 ラストで八海ラリーに突如参加するシーンでのセリフが脳裡に焼き付いて離れない。 『付き合ってるとか結婚するとか、そういうことだけが答えじゃないと思うよ』 竹内真の作品を読むと世界の広がりを体験できる。 読者が学び取れるのは何度もくじけたり失敗しても、希望を持って生きれば道は開けるということ。 本作での自転車って本当に“熱き友情”への強き絆となっている。 二十歳ぐらいの方が読まれたら明日への道しるべとなってるだろうし、三十歳以上の方が読まれたら若かりし頃の自分と照らし合わせて楽しめるだろう。 テーマが身近だから本当にわかりやすい。 自転車って気候のいい時にちょっと乗るのには爽快だが、長距離や暑い時、あるいはアップダウンのきつい道を走る時はまるで人生のように苦しい。 ラスト近くで29歳になって1児の父親となった昇平が息子の北斗に自転車を教えてる時に過去を回想するシーンが印象的だ。 自転車に乗れたことで見えた景色や、出会えた人々の顔―そんな記憶のかたまりが、頭の中で渦をまいている。懸命に走ろうとしている北斗の姿に、いくつもの思い出がよみがえってくる。 しかしながら苦しいとわかっていても八海ラリーに参加したいなあと思われた方は、本作を読んで心が豊かになった証拠だと思う。 本作は読者が日頃忘れかけている大切なものを思い起こさせてくれる作品である。 竹内さんに感謝したい気持ちでいっぱいである。 評価9点 オススメ 2004年66冊目 (新作48冊目) ... 2004年上半期ベスト7発表! - 2004年07月11日(日) いつもアクセスありがとうございます。 さて、やらないと公言していた上半期のベスト7を発表します。(新作・旧作混ざってます) 1. 『卒業』 重松清 感想はこちら これしかないで賞 2. 『ワイルド・ソウル』 垣根涼介 感想はこちら もっと早く読むべきだったで賞 3. 『グロテスク』 桐野夏生 感想はこちら この人しか書けないで賞 4. 『弱法師』 中山可穂 感想はこちら 直木賞ノミネート惜しかったで賞 5. 『夜の果てまで』 盛田隆二 感想はこちら 人生考え直さなくっちゃ賞 6. 『天国はまだ遠く』 瀬尾まいこ 感想はこちら もっとも旬な女性作家賞 7. 『空中ブランコ』 奥田英朗 感想はこちら 直木賞本命だ賞 ... 『ノーサラリーマン・ノークライ』 中場利一 幻冬舎 - 2004年07月10日(土) 《bk1へ》 サラリーマンの悲哀をコミカルかつほろずっぱく描いた作品である。 今や不況のあおりをもっとも受ける企業の代表格である銀行。 読んでいて○F○銀行がモデルなんだろうか?とふと思ったがみなさんはどうであろうか? 主人公カネテツは中堅大学を出て銀行に勤めるどこにでもいるサラリーマン。 ただ、勤めていた銀行が“吸収合併されて”いる点がポイントなんだがあんまり悲壮感が伝わってこない。 なかなか面白い作品なのであるが、主人公の後ろ向きさと言うか優柔不断さが目立ってスッキリしないような気がするのがちょっと読んだあと消化不良気味だった。 脇役陣がとっても個性的で余計に主人公がしぼんで見えたかな。 というか、脇役陣の方が一生懸命に生きているのである。幼なじみのサージ、上司のシート、メーデル、同僚の花木、かつての先輩のガンメンなどなど・・・ そのあたり、やはり今の時代の不安と希望のなさを浮き彫りにしたのであろうか? 本来の本作のあるべき意義と小説の内容が伴ってないような気がした。 しかしながら救いもある、カネテツが強引なキャラじゃないので三角関係(と呼ぶべきかな)に陥ってもそんなにドロドロしていないのである。 却って切ないチナツと今井の気持ちがわかったのは収穫だったような気がする。 サラリーマン小説というより“青春娯楽小説”として読んだ方が楽しめるかもしれないなというのが読後の結論である。 でもカネテツみたいな生き方がいちばん“無難”なのかもしれませんね。 私的には著者の“今の時代のやるせなさ”の象徴としてしか受け取らざるを得なかったのが少し残念だった。 個人的にはもう少し読者にエネルギーを与えて欲しかったな。 帯に“泣かないサラリーマンなんて、いない。 誰もが、大きな不安とほんの少しの夢を抱え、涙を流しながら歩いている。”とある。 確かに本作は中場さん得意の軽快な文章の読みやすい作品に仕上がっている。 しかし果たして読者の心を捉え切れたのだろうか? 少し“帯負け”しているような気がしたのは私だけであろうか? きっと帯が確信犯なんだろうな 評価6点 2004年65冊目 (新作47冊目) ... 第131回直木賞予想! - 2004年07月09日(金) 待ちに待った第131回直木賞の候補作が発表されました。 まず、嬉しい事に私の主催している第1回新刊グランプリ!の現在上位ベスト5のうち3作品がノミネートされた。パチパチ!! 恒例の“予想投票”はネーミングを“取って欲しいアンケート”と変え期間限定でスタートさせました。 是非熱き一票(二票までOKですが)をお願いします。 投票所はこちら 少し感想を述べれば、全6作中文藝春秋の作品が3作品選ばれてることが何と言っても目につく。 前日予想した中山可穂さんが選ばれなかったのは残念であったが、ほぼ順当な選出だったような気がする。 焦点を4点ほどあげさせていただきますね。 1.熊谷達也氏『邂逅の森』史上初の山本賞との同一タイトル受賞なるか? 選ばれる確率で言えば奥田氏の『空中ブランコ』と同じぐらい高いと思う。 過去、なしえなかったことなのでとっても注意深く見守りたいな。 2.東野圭吾氏、5回目にして念願の受賞なるか? いつも悔しい思いをしてきた東野氏、文春作品でも過去2回落ちている(『秘密』『片想い』)が、今回は続編という事でもありどうだろうか? 誰もが認める実力派作家だけにそろそろなんとかしてあげて欲しいな。 3.伊坂幸太郎氏、ベテランを差し置いて受賞なるか? 1970年度以降の生まれでは前々回初ノミネートされた伊坂氏だが、若さという勢い でもって受賞なるか?前回の芥川賞の若い二人を彷彿させるパワーみなぎる作家だと思 う。 4.伏兵陣はどうだろうか? 少し意外だった田口ランディ氏と北村薫氏、田口氏は文春の残りの2作品が 強力だと思うので無理だと思いますが、北村氏は侮れない。今年から山本周五郎賞の選 考委員を務めているのである。 選考委員全5名中、唯一直木賞を取ってないのが北村氏である(他は重松清、小池真理 子、篠田節子、浅田次郎)。何か因縁めいたものがあるのだろうか? 個人的には東野氏と伊坂氏に取ってほしいと思う。アンケートにもそのように投票しました。 ただ、予想としたら◎奥田○熊谷▲東野△伊坂の順だと思ってますがどうなるでしょうか? 昨年が予想外の大波乱だっただけに楽しみでもあります。 選考は15日(木)午後5時からの予定です。 ... 直木賞ノミネート作品直前予想! - 2004年07月08日(木) いよいよ今日明日にも発表されそうな第131回直木賞ノミネート作品。 そこで私なりにノミネート作品を大予想してみますね。 通常ノミネートされるのは5〜6作品である。 今回は10作品ぐらいピックアップしてみたい。 何作品あたるかわからないが読書の参考にもなると思うので是非お読みください。 まず、主催の文藝春秋から。データとして過去5年の直木賞受賞作品15作中6作品(40%)が文藝春秋の出版作である。 ノミネート作品は57作品中18作品を占める(31.5%)。 下記の3作品がずば抜けていると思う。 どの作品がノミネートされても本命となることは間違いないであろう。 ★『邂逅の森』(熊谷達也)・・・山本周五郎賞を受賞された本作であるが初の同時受賞作品となるか興味深い。 ただ、少し地味めなところがキツイかな。 ★『空中ブランコ』(奥田英朗)・・・前作の『イン・ザ・プール』もノミネートで映画化決定。作家の力量も直木賞に相応しいと思われる。 問題は、高齢者の多い選考委員に受け入れられるかどうかかな。 ★『弱法師』(中山可穂)・・・密かに直木賞の本命だと思っている作品である。選考委員受けもよさそうな文体だと思う。こんな方に取って貰って直木賞のネームバリューでもっともっと売れて欲しいなあと思ったりするけど果たしてどうだろうか? 次は他社から7作品ほど選んでみたい。 ☆まず、いまだ取れず悔しい思いをしている東野圭吾の『幻夜』(集英社)。 前作『白夜行』で悔しい思いをしたが、物語の手法的には本作のほうが選考委員からは指摘を受けにくいのかもしれない。 ☆あと集英社からは堂場瞬一の『いつか、白球は海へ』も面白い。 内容的に選考委員受けしそうな作品である。ブレイクなるか? ☆伊坂幸太郎の『チルドレン』(講談社)は『GO』以来講談社から受賞作が出てないのでデータ的には面白いかもしれない。 受賞されれば一番話題にも上がりそうだが、少し風変わりな文体が果たして選考委員に合うかどうかだな。 ただ、ノミネートされる確率はかなり高そうですね。 ☆角川書店からは大崎善生の『孤独か、それに等しいもの』が最有力かな。 恋愛小説が注目されているが氏の文章の美しさはもっとたくさんの方に読んでもらいたい気がする。 ☆新潮社からは諸田玲子の『紅の袖』。 諸田さんはライバルの宇江佐真理より先に受賞なるか? 受賞されれば北原亜以子以来の女流時代小説作家となる。 ☆同じく新潮社からは今読んでいる竹内真の『自転車少年記』をあげたい。上記の堂場氏同様、売れっ子作家続出の“小説すばる新人賞受賞作家”の肩書きを生かせるか? 大手出版社(新潮社)のアドバンテージを利用したいものだ。 ☆最後に期待を込めて瀬尾まいこの『図書館の神様』(マガジンハウス)。 他の賞とのからみもありステップ的にはいきなり直木賞ノミネートはきついかもしれないが作品のクオリティは非常に高い。 文檀に新しい風を吹き込むという点においては面白かもしれない。 果たして上記より何作品選ばれるでしょうか? 当たらなくてもどの作品も力作であるという点は変わらない。 読書の参考になればと願ってやみません。 なお、ノミネート発表されましたら恒例の予想投票実施します。よろしくお願いします(ぺこり) ... ドラマ 『東京湾景』 第1話 - 2004年07月05日(月) 吉田修一さん原作の話題の月9ドラマが始まった。 原作の感想はこちら ドラマ公式サイトはこちら 一見して、やはり予想通りかなり脚色が施されている。 主人公の仲間由紀江ちゃんのチョゴリ姿が美しい。 在日3世役での出演であるが、亡き母役も兼ねており個人的には亡き母役の方が初々しくて好感が持てたかな。 大抜擢の恋人役の和田君も、外見のイメージと役柄は合ってるのかもしれないが少し緊張気味の演技が目立ち、由紀江ちゃんとの貫禄の差が露骨に出てるのは否めない。 一回目を見て率直な感想は、原作が吉田修一さんだけじゃなく、金城一紀さんが手を加えたかのごとく内容となっている。 約10回もの連続ドラマとなればプロデューサーや脚本家の手腕によって出来が左右されるものであるが、いかんせん由紀江ちゃんひとりに比重が掛かり過ぎている点は少し負担が大きいかなという気がする。 これからいかに脇役陣が盛り上げて行くかだろうな。 仲間由紀江はある意味“不器用な女優”なのかもしれない。 同じく引張りだこ女優でありライバルでもある竹内結子や柴咲コウのように決して恋愛オンリーではない気がするからだ。 彼女の魅力が存分に発揮できるのは果たして本作のような恋愛ドラマであるのだろうか? 少し疑問を感じながら一回目を見終えた・・・ 広い目でみれば、“テレビ局も本当に大変であろうな”というのが率直な意見である。 どうか原作の良さを損なわせるような厚化粧だけはやめてほしいな・・・ フジテレビさんへの切実なる願いでもある。 ... 『生まれる森』 島本理生 講談社 - 2004年07月01日(木) 《bk1へ》 島本理生は“5年後10年後にどんな作品を書いているのか?”とっても興味深い作家である。 島本さんの3作目の作品となる本作は芥川賞の候補作にもあがったが、惜しくも賞を逃したので、知名度的には受賞された金原ひとみや綿矢リサには叶わないが、その質感の高さは読んでみた方なら自ずとわかるはずである。 内容的には年齢の高い結婚している男性と付き合って別れ、その後自堕落な生活をしていた女子大生である主人公が人とのふれあいによって自分を取り戻して行くひと夏の物語といったらいいのかな。 とりわけ少女から大人の女性へと変身して行く過程がとってもわかりやすく書かれている点が良い。 女性特有の痛み・悩みから脱皮して成長するひと夏の人とのふれあいを見事に表現している点は若い女性が読まれたら必ず良い“処方箋”となることであろう。 島本さんは現在21歳、現段階での刊行作品3作とも読んでみたが、本作を読んで過去のタイトル名ではないが、リトル・バイ・リトル(徐々に)成長の姿が確かめられる点が嬉しい もちろん金原ひとみのように大胆さを武器としていない。 ただ安定感というか安心して読める点では一日の長があるような気がしてならない。 個人的な意見だが、長いスパンでは島本さんの方が活躍出来るのではないだろうかと思う。 島本さん自身が本作の主人公のように過去の辛かったことや楽しかったことをバネとして文章も成長して行くのだろうと大いに期待したい。 敢えて難点を書かせていただいたら、文章が読み易過ぎて個性がないとの指摘があっても不思議ではないかもしれないな。 あと本作の内容的にはやはり堕胎を扱ってる割には事の重大性があんまり現れてない点が不自然に感じられる点であろうか。 これは年齢が高い人が読めば読むほど感じる事だと思う。 読後光が見えて元気が出るという点では瀬尾まいこの作風に似てるような気がする。 いや瀬尾まいこをより純粋にした作風といったら良いのかな。 ひたむきで純粋な恋を出来るって若い時の特権であるように思える。 それを味わえただけでも読んだ収穫があったと思いたいな。 今後も島本さんの作品は“素直な気持ち”で読み続けたいなと思う。 評価8点 2004年64冊目 (新作46冊目) ...
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