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『贈られた手 家族狩り第三部』 天童荒太 新潮文庫 - 2004年06月30日(水)

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新潮社:作家の声を聞くへ
『幻世の祈り』
『遭難者の夢』

いよいよシリーズも第三部となった。ますますシビアな世界が繰り広げられて行くが少しづつ変化が見られる点は決して見逃してはいけない。

ぼんやりとではあるが固まりつつあった主要登場人物のアウトラインが少しづつ変化しつつある点が読んでいてわかる点は嬉しいかな。

例えば恋人と距離をおいていた巣藤はかつての教え子とふれあう事によって少しづつ人間らしさを取り戻して行く。

本作の魅力ってなんだろう?
社会派的要素は当然のこととして、物語レベルで論ずると私は主人公三人の苦悩が同じぐらい突き刺さる点が特に素晴らしいと思う。
まるで三つの物語を同時に読んでいるような気がする。
他の読者の方はどうなんだろうか?

とりわけ“明らかに三人の中でいちばん大人になりきってない感の強いというか精神的に弱そうである”浚介の今後を特に気になりつつ読まれてる方も多いと思う。

絶対に目をそらしてはいけない点は、主人公三人ともに今を懸命に生きている点。
三人三様でそれぞれに本当の生きがいと言うものを見失っているようにも見受けられる。
というか、総じて不器用なのかもしれない。
きっと読者は自分の弱い部分を主人公に投影されて読まれてるのであろう。

ただ、現実に立ち向って行こうとする点は見習うべきというか賞賛に値することを決して忘れてはならない。

第一部の感想で重松清の作品との違いを述べたが(私自身重松さんの大ファンなんで)、もう少し補足したく思う。

重松清の作品には愛情を持って子供に暴力を振るう親は登場するが、子供を虐待する親は皆無である。

天童荒太は作品を通して“社会の厳しさ”を教えてくれる。
重松清が“人生の厳しさ”を教えてくれるように・・・

重松清の作品を読めば避けて通る事の出来ない“人生の苦楽”を体感出来る。

が、天童荒太は得るものが2つあるような気がしてならない。

まず、天童荒太の作品を読むと“グローバルに世界を眺める”ことが出来る。
同時に“人間ってこんなにもろいものなんだ”とひしひしと伝わって来るのである。
まさしく“表裏一体”という言葉がぴったり当てはまるんじゃないかな。

きっとそのもろさって“人間の本性”の一番根元にあるものなんだろう。

結論づけると、重松清の作品は主人公に読者が成り切ることができる(というかそうあるべきである)、天童荒太の作品は社会全体から主人公を見守ってあげなければならないような気がする。

そういう意味合いにおいては天童作品の方が読者に対してハードルが高いのかもしれない。


物語は脇役を中心に少しづつ動いてきた。
今回のラストは馬見原の妻佐和子の突然の暴挙。
果たして麻生家と実森家の事件はどうなって行くのだろうか?
油井の動向も注目だが、馬見原が研治に対する、あるいは游子が玲子に対する想いって“肉親の愛情を超えた想い”なんじゃなかろうかと胸に突き刺さった。

天童氏の筆力を持ってすれば、どうにでも展開させることが出来るであろう。

あと2冊読み終えた後、大きな感動と教訓をゲット出来る事を信じて本を閉じたことを最後に書き留めておきたい。

評価は全5巻読了後  
2004年63冊目 (新作45冊目)


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『遭難者の夢 家族狩り第二部』 天童荒太 新潮文庫 - 2004年06月24日(木)

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新潮社:作家の声を聞くへ

ますます深みに嵌って行く姿が赤裸裸かつ衝撃的に描かれている・・・

正直、いろんな話が交錯しているので簡単に書き表わせないのが残念であることを最初にお断りしておきたい。

第一部『幻世の祈り』のラストで事件(麻生一家の変死体)が起こり物語が動き出したが、第二部においては主要登場人物様々な角度から物語が動き出すためにより一層読者も釘付けにされてしまう。
麻生一家の事件を目撃した巣藤浚介の心のバランスが崩れ去り若者に襲われる。
恋人とも再び接するのであるが以前のように接することが出来ない。

馬見原光毅刑事は、周りから止められつつも麻生一家事件を執念深い捜査を繰り広げる。
彼は決して被疑者死亡事件だと思っていない。
事件を追うとともに、幼児虐待で入所していた油井善博が出所、身近なところに現れたことがわかる。
油井と冬島綾女との子どもが馬見原に電話をかけて来るシーンが1番切なくて印象的だった。

今回は氷崎游子冬島綾女のプライベートや過去(特に游子の元恋人との再会シーンは印象的だ)に対して掘り下げて書かれている。
2人を対照的な人物として読まれてる読者も多いような気がする。
果たしてどちらがしあわせなのだろうか?



読者も天童氏の淡々かつ重厚な語り口に着いて行かなければならないから大変だ。

少しづつ主人公三人の接点が近くなって来た。
浚介は運び込まれた病院に亜衣事件で知り合った游子を無意識に呼ぶ。
游子は駒田が児童相談センターに子供を引き取りに来た時に暴力を受けるのだが、
過去に彼の親子問題において深く関わった馬見原が助けてくれたために大事に至らなかった。

天童荒太の描写力の確かさは人間の弱さをあぶり出すときに頂点に達する。

本作においては主要登場人物三人はもちろんのことそれ以外の人物の描写も丹念だ。
例えば、終盤のシロアリ駆除の話なんだが、この物語全体を支配している“恐怖心”の表れを読者に想起させてくれている。本当に巧妙な例えだ。とってもリアルで・・・

そして今回も衝撃のラスト・・・
なんと不登校で浚介が家庭訪問をした実森宅で事件が起こるのである。

お気づきの方も多いかなと思うが冒頭の電話相談がかなりモチーフとなっているような気がする。
第一部の冒頭は麻生一家、第二部の冒頭は実森少年かな?

その答えはもう少し待ってみようと思う。

評価は全5巻読了後  
2004年62冊目 (新作44冊目)


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『ギャングスター・レッスン』 垣根涼介 徳間書店 - 2004年06月23日(水)

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垣根涼介HPはこちら

本作では生まれ変わったアキが楽しめる!


『ヒート アイランド』で活躍したストリートギャングチームの主役アキが同じく窃盗チームで登場した桃井&柿沢に仲間入り。
窃盗犯として訓練をしつつ成長して行く姿を少し軽めのタッチで綴っている。

『ヒートアイランド』では敵対していたアキこと辻本秀明であるが、『ヒートアイランド』のラストでは、その高い能力を買われ1年後に良ければ仲間入りしないかと打診されて物語が一旦終っていたのであるが、本作では一年間東南アジア等に滞在したあと桃井&柿沢との再会からスタートする。

垣根氏はアキの仲間入りから物語を再スタートさせることを選択したのである。

カオルを含めストリートギャングチームのの再登場を願った読者も多いと思われるが少なくとも本作では登場しなかった。やはり読者の欲目なのであろうか・・・

一読して特に印象深い点はドライ&クールな柿沢と人間臭さが漂っている桃井とのコントラストが見事である点かな。
きっと読者に安心感を与えてくれる人物設定だと言えそうだ。
物語全体の屋台骨を支えてると言っても過言ではなかろう。

何回かアキと柿沢がぶつかり合うシーンがリアルで見物であった。
もちろんアキのOJT役は桃井が担当。
「試走」で昔の桃井の恋人憲子も登場。柿沢の過去がほとんど露わにされていない点とは本当に対照的だ。

石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』のマコトのように一人称で語られてないのもその要因かもしれないが、アキの魅力が今ひとつ伝わってこないのは残念だ。
きっとタイトル通りレッスン中(修行中)ということなのだろう。
これから桃井と柿沢の良い点を吸収してほしいなと思われた読者が大半であろう。

ただ、今後の展開には大いなる期待が持てる。
例えば「実戦」で手助けしてくれた明美の今後(アキとの再会はあるのであろうか?)や「予行演習」にて登場のヤクザの真一(最後にはブラジルに行きます)など。
もっと言えば、ストリートギャンググループのメンバーの再登場など・・・
垣根氏の凄さはどのような展開でも読者を釘付けに出来るという点であろう。

例えば、巻末のおまけ作品の「コパカバーナの棹師」には真一がさっそく再登場。
ちなみに「予行演習」は本編の中でもっとも面白かった。
浅田次郎ばりの爆笑キャラ(くだけたと言った意味です)と展開(予想通り破滅的な展開となるという意味です)なんかは垣根氏の得意なキャラのひとりなんだろうな。

付け加えておきたいのは車に対するこだわりというか熱き想いが本作を通しても十分に伝わってくる点である。
私はあんまり車に興味はないのですが、車好きが読まれたらビュンビュン飛ばしてる感覚で読めそうですね、本作は・・・

『ワイルドソウル』なんかと比べたらスケール感の乏しさは否めないが、きっと垣根氏も肩肘張らずに楽しく書かれたのは間違いないように思える。

そういう点が読者にヒシヒシと伝わって来たら、やはり何年か後にあらためて本作の評価が違ったものとなるのかもしれない。

きっと読者もしばし静観が必要であろう。

評価7点。
2004年61冊目 (新作43冊目)


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『ヒート アイランド』 垣根涼介 文春文庫 - 2004年06月20日(日)

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垣根涼介が描くと悪者にも親近感が芽生えるのかもしれない。

主人公は渋谷を仕切るストリートギャングのアキカオル
ふたりの生い立ちなんかを比較して読めばより一層入り込めるんじゃないかな。
窃盗グループの桃井も含めてこのあたりのエピソード作りは巧妙である。

後半の息もつかせぬ展開はハラハラドキドキ感を味わえる事間違いなし。
ストリートギャングチーム(アキ他)と窃盗チーム(柿沢&桃井)両方に肩入れして読んでしまうから困ったものだ(苦笑)

文庫解説の大沢在昌さんが書かれてるようにやはり物足りないのは、女性(主人公と恋仲になるという意味合いの)の登場がほとんど皆無状態だということ。
そのあたりは氏の超大作『ワイルド・ソウル』で解消はされたのであるが、読者って贅沢なもので遡って読んでみても期待しちゃうものだ。

あと付け加えておきたいのは、本作はいわゆる“ハードボイルド”作品なんであるが、一般的なイメージ(私たちが固定観念を持っているという意味での)ハードボイルド作品ではないような気がする。
主人公は一応アキなのだが、前述の通り窃盗チームに対してもかなり自然と親近感を持って読み進めることが出来るから不思議だ。

そのあたりは例えばアキやカオルの地味な生活(たとえば食生活や金銭管理面など)に今の時代の閉塞感というか危機感が如実に現れているのが読者も理解出来るかも知れないなと思う。
そう言った意味合いにおいては多少なりとも“バブル経済”崩壊に対する挑戦的(反省的なと言った方が妥当かな)な意味合いも含めて読むべきかもしれない。
バブル経済のもたらしたツケは莫大なものだが、我々小説を楽しむ人間にとったら垣根さんがもたらしてくれる良質のエンターテイメント作品に酔いしれることが出来るのは少なくとも“贖罪”だと認識すべきかもしれない。



アキの物語はまだ序章みたいである。
本作で我々読者は“冷静沈着であることの凄さ”と、“強い意志を持つ事の尊さ”とを学び取った。
姉妹編である最新刊『ギャングスター・レッスン』、続いて刊行予定の『サウダージ』でいかにアキが成長して行くのか暖かい目で見守って行きたいなあと思う。

きっと今後のアキの成長が垣根氏の成長の大きなバロメーターとなるのであろう。

ファンの誰もが大いなる成長を期待している・・・

評価8点  
2004年60冊目 (旧作・再読作品15冊目)  




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『天国はまだ遠く』 瀬尾まいこ 新潮社 - 2004年06月18日(金)

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本好きにとって“一心不乱”に読書に耽る時間って本当に幸せである。
それは瀬尾まいこが読者を“瀬尾ワールド”にエスコートしてくれるからにほかならない。

瀬尾まいこの小説に“トリック”という変化球はいらない。
なぜなら、直球勝負で十分に読者を魅了させることが出来るからである。

本作においては“自殺志願”の23才のOL千鶴が主人公である。

前2作品(『卵の緒』『図書館の神様』)との大きな違いはやはり文体であろう。
テンポのいい軽やかな文体から、本作は叙情感溢れる落ち着いた文体となっている。
そのあたり少し戸惑われる方がいらっしゃるかもしれないな。
逆に一貫性のある面もある。それは“人とのふれあい”の大切さを読者に教えてくれてる点である。
彼女の小説の一番の読ませどころと言っていいんじゃないかな。

本作も自殺しようと思ってさびれた田舎の民宿に滞在した約3週間の間に主人公は自分の人生を見つめ直す。
本作においても、『図書館の神様』垣内君のような存在の男性が登場する。
民宿の主、田村さんだ。
彼の心の広さと目に見えない気配りが、千鶴の心の中を清めてくれたのは間違いない。

でも、恋愛模様を模索するのもどうかなあと思うが、少し結末を変えて欲しかったなあと思ったりするのは瀬尾作品に魅了された証なのかなあ・・・
女性が読まれたら最後の別れのシーンの田村さんの態度、余計に惚れちゃうのかも知れません(笑)
読まれた方しかわからないでしょうが、きっとちっぽけなマッチ箱は田村さんの最大の愛情表現だったのでしょうね。

“心の機微”ってむずかしいですね。

瀬尾さんの作品を読むといつもそう感じます。
ページをめくりながら、一緒に悩み、考え、共感し・・・そして本を閉じる

正直、本作は読み終わると少し寂しい気分になる。
それはしばらく瀬尾さんの作品を読めないという素直な気持ちの表れかもしれない。

本作を読んだあと“今日からは私ももう少しひたむきに生きてみよう!”と思われる方が多いと思う。
誰も“こんな薄い本にこんな大きなエネルギー源が詰まっている!”とは予期していないはずだ。

“主人公以上に読者の心も浄化される”から瀬尾まいこのファンって幸せである。

きっと読者と瀬尾作品との関係って作中の千鶴と田村さんとの関係に等しいと言えるんだろう。

『海も山も木も日の出も、みんな田村さんが見せてくれた。おいしい食事も健やかな眠りも田村さんを通して知った。魚や鶏を手にすることも、讃美歌を歌うことも、絵を描くことも、きっと田村さんが教えてくれた。そう思うと、胸が苦しくなった。
ここで生きていけたら、どんなにいいだろう。きっと、後少し、後1ヶ月だけでもここで暮らしたら、私はもっと確実に田村さんのことを好きになったはずだ。田村さんと一緒にいたいと、もっと強く思えたにちがいない。・・・・』


嬉しい情報があります。
『卵の緒』に収録されてる「7's blood」がNHKでドラマ化されるらしい。
文芸雑誌での連載も増えてきている。
瀬尾さんのさらなる活躍を願ってるファンの数が増える事を願ってやまない。

評価9点。オススメ
2004年59冊目 (新作42冊目)


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『陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎 祥伝社ノンノベル - 2004年06月16日(水)

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かつてこんなに楽しい犯罪小説があっただろうか?

伊坂幸太郎の作品ってほとんどが仙台が舞台だが本作は横浜が舞台である。
持ち前の“軽妙洒脱な会話”“緻密な構成”で持って多くのファンを獲得した氏の作品においては遊び心満載のエンターテイメント作品となっている。

今や読者を本に没頭させてくれる力は他のどの作家にも引けをとらない。

個性的な4人のギャングたち。
タイトル通り本当に人生いろいろあっても“陽気”である。
強盗する銀行内の人間を「スピッツ」「シェパード」「グレート・デン」「ゴールデン・リトリバー」にたとえて呼んでるあたりはもっとも伊坂さんらしくてしっくり来る感じだ。
上手くいったはずの銀行強盗がとんでもないことに巻き込まれるのであるが、あいかわらずプロット作りはいろんな伏線を含めて巧妙である。

特に紅一点である雪子の存在感が大きく物語全体をより一層スケールの大きい物としている。

少し余談であるが、彼女が息子・慎一の父親(ここではダメ男の典型として描かれています)である地道に協力する筋書きは情の深さを垣間見た感じがしました。
少しは更生してほしいなあと思われた方も多いと思う。

伊坂作品に共通する“読後の爽快感”って一体何なんだろう?
きっと登場人物ひとりひとり(脇役も含めて)に伊坂さんの覇気が乗り移ってるのが1番の要因だと思う。
本作なんか犯罪小説なんだけど罪悪感を感じて読まれた方は皆無じゃないかな。

作者があとがきで次のように書かれている。「90分くらいの映画が好きです。」
ファンはきっと結論としては「90分の映画より先生の小説の方が好きです。続編希望!」とリプライするであろう。

それにしても新書で書き下ろし作品なんて今後はちょっと考えられないでしょうね(笑)
“何も考えずにスピード感溢れる本作を楽しんで欲しい”というのが私の本音である。

評価8点  
2004年58冊目 (旧作・再読作品14冊目)  


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『イニシエーション・ラブ』 乾くるみ 原書房 - 2004年06月13日(日)

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原書房のミステリーリーグシリーズはどちらかと言えば私にミスマッチなシリーズなんだが、本作は他作に比べては読みやすかったような気がする。
予想通りいろんな論議を醸し出しそうな作品である。
巷でのレビュー等などを見てもいろんな見方があるものだなあと思ったりする。

作者の乾くるみさんはどうやら男性らしい。
女性だと思って読まれた方は性描写のきついシーンに驚愕された方もいらっしゃるかな。

本作は“メフィスト賞作家”らしく見事なトリックが仕掛けられている。
推理小説ファンの方は、2度読んでその伏線を楽しまれるのもいいかもしれない。

結論的にはトリック的には“掟破り”じゃなく“許容範囲内”じゃないかな。
見抜けた人には拍手を送りたい(笑)
私的にはマユが別人かなあとずっと予想してました。

私が特に強調したいのは本作の読みどころは“トリックよりも恋愛小説を堪能出来る”点である。

恋愛“現在進行中”の方はもちろん、引退された方(結婚してるっていう意味です)はなおさら、ありし日の自分をオーバーラップさせれるんじゃないかな。
作中の「男女七人夏物語」や「〜秋物語」、お若い方は“知らないなあ!”のひと言で片付けれるかもしれないが、きっととっても想い入れの強い作品であるということをわかってる方も多いと思う。
いや、わかってる方を対象として書かれた作品のような気がする。

私的には“女性の怖さ”と“恋愛の楽しさ”をリメンバーさせてくれた点では一読の価値があったなあと思ったりする。
きっと男性が読めば前者に対して同感だと思うし、女性が読めば“女ってそんなものよ”と思われる方が多いかもね。

でも少しでも切なさを味わえた方は収穫があったと満足すべきじゃないかな。

いろんな見方があるから読書も恋愛も楽しめるのでしょうね、きっと・・・
評価7点。    
2004年56冊目 (新作41冊目)




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『空中ブランコ』 奥田英朗 文藝春秋 - 2004年06月10日(木)

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著者“自著を語る”はこちら
“満を持して刊行”ってこの作品のことなんだろう。
読者がワクワクして本を手にとる。
きっと出版界の理想であるにちがいない。
それもこれも“スーパーキャラ”伊良部大先生のおかげだ。
前作『イン・ザ・プール』で初登場してファンの度肝を抜かせた伊良部先生。ますますパワーアップして再登場です。
もちろん男性ファンお待ちかねの“Fカップ看護婦”のマユミちゃんも健在。
一気に読めること間違いなし。
ただし電車の中では読まないで下さい。
あなたが伊良部先生のように思われてしまうから(笑)

前作と比べて患者の悩みが“ナーバス”な悩みが多くなったような気がする。
というか、前作は奇人・変人な患者が多くて読後は伊良部先生の方がまともだなあと思ったもので滑稽さだけが目についていたきらいがあったような気がするのだが、本作は職業こそ違えども読者が日常同じような体験をすることが出来るレベルの悩みが各編の主流となっている点は見逃せない。
いわば患者が“読者の分身”といえよう。
だから、自然と読書にも熱が入るし応援してしまう。
例えて言えば、前作はプロ野球を自宅でテレビ観戦、本作は球場で観戦って感じである。
通常、続編ってトーンダウンすることが大半だと思うが、本作は明らかにレベルアップされてるように感じられる。
“直木賞受賞間近”と言って良さそうだな。

本編に出てくる5人の患者は以下の通りである。
相方を信用出来なくなった空中ブランコのり、先端恐怖症のヤクザ、学部長(養父)のカツラを剥(は)ぎたい衝動に苦しむ大学病院の精神科医、突然コントロールが悪くなり一塁に送球できなくなったプロ野球のレギュラー三塁手、小説が書けなくなった女流作家・・・

どれもこれもシリアスな悩みを“伊良部キャラ”で癒し→治癒してくれる点は見事のひと言。

とりわけ最後の「女流作家」は伊良部先生のいつものハチャメチャぶりはもちろんのこと、話の内容としてかなり辛辣で一読に値する。
やはり本が1冊でも多く売れて欲しいという切なる奥田さんの願いが込められている点は読者の胸に深く刻まれたんじゃないかな。

あと面白いエピソードとして伊良部先生の大学生時代のエピソードが出てきてこれも微笑ましく感じちゃうから大してものだ。
きっと伊良部先生自体が読者に幅広く受け入れられた事の証しであろう。

他のどの作家のシリーズ作品よりも“再々登場”を願ってる読者が多いと断言して良さそうですね(笑)読者が伊良部先生によって普段心にこもってることが解決された気分になるから凄いよね。

未読の方は是非手にとって欲しい1冊です。別に本作を先に読まれてもなんら問題ないということは付け加えておきたい。

評価9点。オススメ    
2004年55冊目 (新作40冊目)


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『長崎乱楽坂』 吉田修一 新潮社 - 2004年06月06日(日)

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史上初の芥川賞&山本周五郎賞のダブル受賞者である吉田修一さんの最新作は掲載雑誌からもわかるように(『新潮』)純文学的な作品である。
舞台は吉田さんの出身地である長崎。デビュー作の『最後の息子』の中にも長崎を舞台とした作品はあったが、長編作品(本作)では初めてのこころみである。

“二刀流作家”吉田さんは本作で強い郷愁感を読者に投げかけてくれた。
たとえば、“子どもの頃の懐かしさ”“故郷をいとおしく思う気持ち”など”・・・
率直な意見としたら彼のより高い才能をもっと開花させるにはエンターテイメント作品の方に力を注いで欲しいのだがそれはまた機会をあらためて述べたいと思う(笑)

描かれてる時代は昭和、やくざの家に生まれた駿は物語のスタート地点ではわずか七才。
まさに栄枯盛衰の一家のありさまを少年の成長とともに描いている。
なんと言っても長崎弁と文体の融合が見事である。

彼の作品の特徴は、エンターテイメント作品では“少しクールな人物像”を描き、純文学作品においては“ひたむきな人物像”を描いている。
個人的には純文学作品によくありがちな、“中途半端な終り方と結局何が言いたかったのか?”と思えても仕方ない部分があるようにも思えるが私なりに推測したいと思う。

本作はミステリー的な要素もある。
ここが他の純文学作家との大きな違いかな・・・
物語を終始支配してるといって良い、“離れの幽霊”の存在である。
はたして誰であったのだろうか?
亡くなった父親?それとも哲治?

途中で長崎を離れたがった主人公・駿が結局故郷を離れずにとどまった点に吉田さんのこだわりを強く感じた。
正直、なんとも不思議な作品であると思う。
一般的な見方で言えば、母親千鶴に対する愛情の変化に着眼して読むのが一番かなと思う。
それが1番の主人公の成長の証しであるから・・・
いろんなことが大人になるにつれてわかって来る過程ってやはり読者も自分の過去と照らし合わせてしまうから不思議なものだ。

吉田さんの代表作のひとつである『パレード』なんかと同様、本作も機会があれば読み返さなくてはと思う。
きっと読めば読むほど味が出てくるのであろう。
本作が魅力的であるか否かを読者に強く委ねているというのははたして曲解であろうか?
吉田さんの“奥の深さ”を強く心に刻めただけでも大きな収穫だったと思いたい。
評価7点。 
 
2004年54冊目 (新作39冊目)


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『チルドレン』 伊坂幸太郎 講談社 - 2004年06月04日(金)

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“旬の作家”を3人挙げろと言われたらあなたなら誰を挙げるだろうか?
私ならまず伊坂幸太郎を挙げ、続いて石田衣良垣根涼介を挙げる。
残りの2人に関しては異論があるかもしれないが、伊坂さんを挙げることに関しては作品の好き嫌いこそあれ異論はないはずである。

前作『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治新人文学賞を受賞、本作が受賞後の第一作となっている。
形式的には連作短編集となっているが、ほぼ長編に近いスタンスで楽しめる点が嬉しいかな。
本作を読んで強く感じた点は伊坂さんの作品って今に生きる私たちがつい忘れがちな“本音”の部分をさりげなく描写することによって読者に“一服の清涼剤”をもたらせてくれる点である。
作風的にはかなりの“技巧派”だといえる。

個性豊かなキャラ(本作では陣内)のとぼけた性格とハチャメチャな言動が世界を変えて行く。

奥田英朗さんの『イン・ザ・プール』の伊良部先生ほどではないけど本作の陣内もかなり変人です(苦笑)
俳優の陣内孝則さんの若いときの3枚目キャラを彷彿させてるのかもしれません。

冒頭の銀行強盗の人質シーンがとっても印象的だ。
そこでの永瀬との出会いがこの物語全体を支配する。
5話に散りばめられたファニーかつミラクルな世界。

さりげないという言葉がピッタシな形容であると思うが、まさにさりげなく親子愛の重要さを読者に訴えてる点は見逃せないかな。

伊坂さんの作品って発売されてすぐに読みたい衝動に駆られる。
それって私たちが暑い時に自然に水分補給するみたいな感じである。
必然的に伊坂作品を手にとられる方が多いのもうなずけるはずである。
私は伊坂ワールドって、他の世界では感じられない“穏やかな平和”を感じる。
その特異な才能がある故に、伊坂さんの活字離れ復興に担う責任の大きさは計り知れないような気がするのは私だけであろうか・・・

評価8点。  
2004年53冊目 (新作38冊目)




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『幻世の祈り 家族狩り第一部』 天童荒太 新潮文庫 - 2004年06月03日(木)

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新潮社:作家の声を聞くへ
重松清の作品は“リアル”だが、天童荒太の作品は“生々しい”!

今年の最大の話題作と言って過言ではない“新・家族狩りシリーズ”の第1巻を手にとって見た。
オリジナル版(1995年刊行)は読んでないので比較出来ないのは残念であるが、物語の圧倒的な吸引力に読者も度肝を抜かれる事は間違いないかなと思う。

家族小説作家としては直木賞作家の重松清が有名であるが、重松清と天童荒太の作風は一線を画する。
例えて言えば、重松清の作品は“現実を直視しなければならない!”が、天童荒太の作品は“人間を直視しなければならない!”
この差はどういうことかと言えば、重松作品は“身近というか生きて行く上で避けて通れないもの”を題材として読者に対して“応援歌”的な意味合いで語りかけているのであるが、天童荒太の作品は読者にもっと厳しい。
題材的にもすべての人が身近と考えられないものが多くて息苦しく感じられるかもしれない。
ただ、天童荒太のいい点はいっさい妥協をしていないところである。
重松清が“今に生きる日本人の家族”を描くのが秀逸なのと同様、天童荒太は“人間というか人類(普遍的なものとしての)”を描くのが秀逸である。
そこに“視野の広さ”を見出せた読者はきっと大きなプレゼントを得たこととなるであろう。

物語は予想通りと言うか予想以上に重い。
登場人物は高校教師・巣藤浚介、刑事・馬見原光毅、児童相談センター所員の氷崎游子の3人がの中心。
物語はまだまだ序盤、平凡な女子高生・亜矢の障害事件によって上記の魅力的な登場人物が交錯したところである。
天童荒太の描く魅力的な人物ってそれぞれが“心に傷”を持っている他ならない。
それはきっとより“人間らしさ”を表してくれているのだろう。
第1部では馬見原刑事の過去のいきさつが1番丹念に書かれている。
多少なりとも馬見原刑事の心に潜んだ部分が読者に受け入れられた気がする。

ラストの家族の変死体がとっても印象的かつ象徴的だ。
きっと物語り全体を支配して行くに違いない。
これからどんな悲劇が待ち受けているのであろうか?
でも最後まで読んで少しでも成長できたらと思いつつページをめくれる幸せを噛みしめてレビューを書いている私がここにいることは書き記しておきたい。

評価は全5巻読了後  
2004年52冊目 (新作37冊目)


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