トラキチの新着レビュー...トラキチ

 

 

《北京ヴァイオリン》 (ビデオ) - 2004年04月30日(金)

評価9点。オススメ!(2002・中国・143分)

中国の素朴な良さが滲み出た究極の父子愛を描いた感動作である。
感想を書きつつもあのヴァイオリンの音色とラストシーンが目に浮かぶ。

少しつながり等に不自然な点もあるのだが、全体を通してクラシック音楽が澱みなく流れていて心地良かった。

テーマは“究極の親子愛”!
血が通い合ってなくてもここまで本当の親以上に愛情を込めて一生懸命に接することが出来るのかなあと感心しながらも、自分の子供に対する日頃の姿勢に反省された方も多いんじゃないかな。

日本を舞台にして同じようなストーリーだったらここまで説得力があったかどうかは疑問というか、そういう疑問が起こる事自体に日本人の“心が退廃”して来ているのかも知れない。

いくつになってもこう言う作品に素直に感動できる心を持ち続けたいと思ったりしている。
見終わった後、感動のあまり心が戒められた気がした。


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『弱法師』(よろぼし) 中山可穂 文藝春秋 - 2004年04月28日(水)

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著者の自作を語るはこちら

久々に中山可穂さんの新刊を手にとって見た。
まるで魂を抜かれたような作品だ。
石田衣良がサラリとした恋愛小説を得意とするのとは対照的に、中山可穂は濃密な恋愛を描かせたら天下一品である。

3篇からなる能の世界をモチーフとした中編集である。
月並みな言葉であるが3編それぞれが“秀逸”なのである。
従来の中山さんの作品(全部読んでませんが)の描いてきたもの(ビアン中心)と比べて、より深い次元の世界に突入した感じが強い。
きっと中山さんを支持する読者数も一気に増えそうな傑作作品である。

テーマは“かなわぬ恋”
どの話も切なく心に残る。
表題作となってる「弱法師」は不治の病に苦しむ少年と彼を必死に助けようとする義父兼医師との純愛が描かれている。

「卒塔婆小町」はかつて編集者であったホームレスの老女と作家との狂気に満ちた恋が熱く語られる。
なんといっても聞き手役で作家志望の男、高丘の前向きなラストが印象的だ。

個人的にはラストの「浮舟」がベストかな。
真の親子愛や兄弟愛に渇望されてる方には恰好の作品となっている。
主人公碧生の成長小説としても読める点が他の2作品よりも印象深い。

本作は今まで少し偏見を持っていて中山さんの作品を敬遠されてた方にもきっと気に入っていただける作品だと思います。
大切に一字一字読んで感動を胸に沁み込ませて欲しいと思う。

ちなみに私は思わず読み終えてゆっくりと2〜3回深呼吸してみた。
どっぷりつかった証拠かな(笑)
凄く悲しくて痛々しいが、不思議と明日への活力となる作品であると確信しております。

評価9点。オススメ    
2004年42冊目 (新作30冊目)


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『不運な女神』 唯川恵 文藝春秋 - 2004年04月26日(月)

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8篇からなる連作短編集である。
もちろん唯川さんの小説だから題材は恋愛。
各篇の主人公はいずれも女性で30〜40代。
“隣の芝生は青く見える”という言葉があるが、本作においてもある篇で平凡な姿で描写されていた人物が次の篇で大きな悩みを抱いているケースにお目にかかる。

本作における唯川さんの眼差しはとっても暖かく、読者に安らぎを提供してくれている。少し不器用であるがゆえにその人生に不幸に陥ってる各主人公。
しかしながら、各篇ともエンディングには心を開き前向きになっている主人公が覗え、意外と読後感も爽快な1冊となっている。
なぜなら女神たち(各主人公たち)は“不運”かもしれないが決して“不幸”ではないからだ。

男性読者の私でさえ心が打ちのめされながらも(笑)、頑張って生きて行く姿に胸を打たれた。
辛い“別れ”を体験して、より人間としてかつ女として成長して行く主人公たちにエールを送りたい。

著者の余裕を感じたのははたして私だけであろうか?
“恋愛の楽しさ”と“人生の厳しさ”の両方を知りたい方は是非手にとって欲しいと思う。

評価8点。    
2004年41冊目 (新作29冊目)


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『臨場』 横山秀夫 光文社 - 2004年04月24日(土)

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横山秀夫さんの最新刊は著者お得意の連作短編集となっている。
本作にて登場する“終身検視官”の異名を持つ倉石はとっても個性的で有能である。
彼の見立ての鋭さはまるで“死者が生き返った”の如くである。

とっても評価の分かれる作品だと思う。
連作短編集ならではの1篇1篇の話の展開はミステリー度も高くてさすがに読ませてくれるのであるが(特に「餞」は泣ける話です)、少し物足りなく感じた面はやはり他作と比べて主人公の倉石の“心の葛藤”や“正義感”の描写が稀薄な点であろうか。
もっと組織内での軋轢等の描写を望む(あることはあるのですが)には主人公の年齢が高すぎたのかな。
ただ、後半の悲哀感あふれる展開には拍手を送りたいと思う。
しっとりと読ませてくれる点においては、横山さんの作品の中では突出しているかもしれませんね。


そこで考えたいのは横山作品の魅力についてである。

個人的には横山さんの小説の特徴というか魅力は“力強い文章と胸がすく思いのする会話でもってグイグイ読者を引っ張り込んでくれる点”だと思う。
その中でもとりわけ、主人公自身の心の葛藤が読者に大いなる共感をもたらせてくれるのであろう。
しかしながら本作においては、どの篇においても主人公の倉石は脇役的な感は否めず、その強烈な個性を生かし切っていないような気がした。
もっと主人公が追いつめられたりするシーンを期待してた読者も多いのではないだろうか・・・

並の新人なら“力作”という言葉が当てはまるのであろうが、“その活躍はとどまるところを知らない(著者紹介に書いてます)”横山さんとしたらやや読後のインパクトの薄い作品となってしまったような気がする。

読者の期待が大きいだけに人気作家も大変である。
連作短編集としては頂点を極めた感が強い『第三の時効』を超える作品を胸をふくらませて待ちたいと思う。

評価7点。    
2004年40冊目 (新作28冊目)


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『家守』 歌野晶午 カッパノベルズ - 2004年04月21日(水)

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家をモチーフとした5編からなる短編集である。
それぞれに歌野さんらしいひねりとトリックがあって読者を翻弄してくれる点は嬉しい限りである。
一字一字心して伏線を読まないとあとでわかりにくくなってしまいます。

1番楽しめたのは「埴生の宿」である。
高額で不思議なアルバイトに興味を持つフリーターの男の物語なんだが、家というか“家族の絆”を巧く描けてるなと感じた。
もちろんトリックも凄いです。

あと印象的なのは「鄙」。犯人はわかりやすく(笑)、トリックも他作よりありきたりかもしれないがモチーフが印象的だ。
“共同体としての家”をクローズアップ。現実的にはありえない話なんだが日本古来の封建的なものを織り交ぜている点は印象に残った。

全体的には地味な感は否めず『葉桜の季節に君を想うということ』のようにインパクトの強い作品ではないが、従来の歌野さんの作品を楽しまれてきた読者にとっては十分に満足できるクオリティの高い作品集と言えそうです。
個人的にはいい“頭の体操”となった作品だと言えそうですね。

評価7点。    
2004年39冊目 (旧作・再読作品11冊目)



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『天窓のある家』 篠田節子 実業之日本社 - 2004年04月18日(日)

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いろんな雑誌に掲載されたもので単行本化されてない作品を集めた全9篇からなる短編集であるが作品それぞれの密度はとっても濃い。

どの作品もスパイスが効いていて読者も思わず背筋を伸ばしてしまう。
篠田さんの作品って“現実的”というよりむしろ“日常的”という形容がピッタシだ。

人間の奥底に潜む真の姿を的確に読者に提供してくれる。読者が男女問わずにどの作品の主人公に対しても思わず共感してします所が凄い点である。

書かれた時期も96〜02年とバラバラで悪く言うと寄せ集め的な感じも否めず正直“作品集としてのコンセプトは弱い”かもしれない。
ホラーというジャンルに分類は出来ないのであろうが、全体を通して篠田さんが筆を取るととっても文章が小気味良く感じる
多少辛辣な描写も目につくところであるが他の作家と比べて嫌味がないような気がする。
きっと的を得た女性の偽らざる心理の吐露がファンにとってはたまらないのだろう。



まず冒頭の「友と豆腐とベーゼンドルファー」が強烈である。
再就職して収入が減った夫に代わって一家を支える妻の気持ちが滲み出た秀作である。

個人的にはラストの一風風変わりな「密会」が面白かったかな。
男性の心理を意外に(?)上手く描写してる点には驚いた。

あとは表題作の「天窓のある家」も印象的だ。
女同志の友人であるがゆえの異常な関係に酔いしれることが出来る。


ひとつ残念なのは読後“希望が見えない”ところかな。
気軽に読めそうだと思われた方もちょっと面食らうかもしれない。
それだけ“人生って厳しい”ということなんでしょうか?

ただ、女性読者がエンターテイメントとして割り切って読まれたらかなり楽しめる作品である事は間違いないところだと思う。

評価7点。    
2004年38冊目 (旧作・再読作品10冊目)



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『三月は深き紅の淵を』(再読) 恩田陸 講談社文庫 - 2004年04月15日(木)

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約3年ぶりに再読した。
恩田さんの作品って読めば読むほど味が出てくる。
本作は今となれば恩田さんの特徴が1番あらわれた作品といえるかもしれない。
とにかくこの方は本好きなのであろう。
本作を読むとそれがひしひしと伝わってくるのである。
一般的に言われている“引き出しの多さ”も彼女の本好きから生まれた所以であると体感出来る。

さて、内容的には「三月は深き紅の淵を」というタイトルの幻の本にまつわる話である。
たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本をめぐるさまざまなエピソード・・・
全4部からなる構成であるが、ワクワク感を持って読めるという点では本作は傑出した作品となっている。
イメージ的には“テレビドラマのオムニバス形式みたいな感じで楽しむべき作品”かもしれない。

やはり入れ子形式の作品として考えると構成力の素晴らしさが目につくのであるが、第1章〜3章までのそれぞれのストーリーも読者を釘付けにしてくれる点は忘れてはならない。
個人的にはやはり切なさが1番漂っている第3章が良かったかな。
いずれにしても、専業作家になる前に書かれた作品で作者の意欲が読者に伝わってくる点が嬉しい。


今回特に注目して読んだのは最終の第4章である。
初読の時ほど第4章に関して違和感を感じなかった。
1人称で語られてる部分があり恩田さんの“野心と本音”を垣間見ることが出来たような気がする。
ある程度恩田さんの作品を読まれた方にとってはきっと大きな収穫であろう。

第4章はまとまり感においては物足りない面も否めないが、きっと『麦の海に沈む果実』へのプロローグへと繋がる作品だと割り切って読むことが出来たからだと思う。
少しは恩田作品の知識も付いて来たかな(笑)


いずれにしても恩田さんのサービス精神満点なところがギュッと詰まった1冊だと言えそうです。
評価8点。    
2004年37冊目 (旧作・再読作品9冊目)


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『動物園の鳥』 坂木司 東京創元社 - 2004年04月10日(土)

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『青空の卵』『仔羊の巣』に続くひきこもり探偵シリーズの完結編である。

長編と言う事でより奥の深い内容となっている(坂木作品の特徴だと言える)のだが、前2作を読まれてない方は是非遡って読まれることをオススメします。

坂木さんの作品って他のミステリーと違って“じっくり一字一字味わって読みたい”
よく時代小説の解説なんかに“小説のてだれ”という賛辞の言葉が使われてるが坂木さんの文章ももはや“てだれ”の領域に達しているような気がする。

特に本作はミステリー的には大した事はないのだけど(犯人はすぐにわかります)、誰もが経験する大人になるにつれ無意識的に忘れがちになる大切なことを思い起こさせてくれる点はとっても印象深い。
読んで行くうちに知らず知らずに“連帯感”が芽生えていく過程なんかは本当に読書の醍醐味かもしれませんね。
そういった意味においては《動物園》って子どものころ行った記憶と大人になって行った場合とでは同じように違った感覚だと思います。

坂木さんはラスト付近で動物園の“檻”という言葉を使って、われわれの社会をあらわしている。
ちょっとドキッとさせられた言葉なんで引用しますね。
「では、僕たちにとっての檻とはなんだろう。それは考え方の枠ではないだろうか。(中略)僕は僕自身を檻の外に出して日射しを浴びさせてやる。それは心のストレッチ。僕の飼育係は僕だけなのだから、きちんと世話をしてやらないといけない。」

本作において坂木さんは、われわれ誰もが心の奥底に持っている弱い部分の象徴としての鳥井の圧倒的な存在感を浮き彫りにすることによって、読者に“心の自立”を促すことに成功している。
あと、女性描写の上手さ(特に美月明子)が際立っている点も付け加えておきたい。


はたして鳥井は鳥のように飛び立てるのでしょうか?
鳥井の過去や滝本の意外な一面などおなじみのオールスターキャスト総動員であなたのハートを直撃しますので心して読んでください。
心して読まれた方はきっと読後“心が浄化される”ことだと思います。

評価8点。    
2004年36冊目 (新作27冊目)



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『棘の街』 堂場瞬一 幻冬舎 - 2004年04月07日(水)

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堂場さんの作品は『二度目のノーサイド』に続き2冊目の挑戦であるが、既刊リスト等を見るとスポーツを題材とした作品(スポーツ小説)と警察小説の二つに分かれるみたいである。
だが、読んでみてどちらにも共通してる点は“熱き男たち”が必ず登場する点である。
過去を振り返りながらも前向きに生きて行く男の生き様を堪能出来る点が一番の魅力なんでしょうね。

本作品もいろんな側面から読むことができる点が嬉しい。
ミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマのすべての要素が盛り込まれている。
どんな読み方をするかは読者に委ねてると言っても過言ではないが、ミステリー的には趣向を凝らしているがやはり究極の“親子愛”が描かれてる点に1番痺れさせられた。
きっと“ああいった結末って予想できなかった!”と思われた方も多いのかもしれないが、読み終えてしばらくしてから“堂場流の最大の愛情表現だった”ことに気づくはずだ。

展開的にも、後半が特にスピード感溢れるていて一機読み出来ること間違いなし。
『火の粉』に匹敵するぐらいサクサク読めることでしょう(笑)

あと、組織で働いている人にも自分の組織内での位置づけやあり方を再認識させられる恰好の1冊となった事だと思います。
上條のように個性的な人物って最近少ないかもしれませんね。
少し不満点をあげれば、やはり過去の思い出話(とくに泣かせるような)をもう少し盛り込んで欲しかった気もします。
全体的な構成がしっかりした小説だけに少し残念な気がしますね。

私たちの生きている社会って本当に“現実は厳しい”かもしれない。
まさに“いろんな人生があってしかりである”
しかしながら、本作のように“親の尊厳”を十二分に知らしめてくれただけで読者の明日からの生活に光を当ててくれたような気がする。

少し大切なものを忘れがちな方には是非手にとって欲しい作品である。

評価8点。    
2004年35冊目 (新作26冊目)




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『デッドエンドの思い出』 よしもとばなな 文藝春秋 - 2004年04月05日(月)

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よしもとばななの作品は2作目だが(『白河夜船』以来)、健気でひたむきに生きる主人公が登場する。
私が知ってるところの現代に生きる女性からははずれてるような気もするが、きっと女性の本質ってこんなものなのだろうなあと男性読者に理解を促してくれる点は感謝しなければいけないかな(笑)

5編からなる短篇集であるが、内容的にはどれもが“切ない話”である。
幸せすぎないシチュエーションが共感を呼び、幸せな読書を堪能出来ること請け合いである。
逆に“幸せ”って悲しみを乗り越えた時に到達するものなんだなあと実感出来るかな。

巻末のあとがきにもあるように、著者みずから表題作がこれまで書いた作品の中で一番のお気に入りらしい。
誰もが体験する“失恋”というか婚約解消の話であるが、痛々しさを通り過ぎて暖かい人間に成長して行く過程を見事に描いている。
人との触れ合いって本当に大切なんだなと痛感。

よしもと作品の特徴としては山本文緒さんのように強がった主人公も出てこないのであるが(笑)、女性の奥深い所に潜んでいる“等身大の気持ち”を上手く描写している。ありきたりな表現かもしれないが、繊細な心の動きの描写が彼女の最大の個性なんでしょうね。

本作は手に取ればかならずあなたをよしもとワールドに吸引してくれるはず。
きっとあなたの澱んだ気持ちを救済してくれる1冊となるでしょう。

評価8点。    
2004年34冊目 (旧作・再読作品8冊目)






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