流れる水の中に...雨音

 

 

もうすぐ正期産。 - 2005年04月28日(木)



突然 お腹の右脇腹あたりに 小さな固い突起があらわれる。
私はその小さな突起が浮かび上がったときに
少し悪戯っぽく 指でコチョコチョとくすぐると
慌ててその突起を引っ込める お腹の中で動くものを
はっきりと確認する。
多分 それは 彼女の足に違い無い。

猫なで声で話し掛けると 静かなお腹が急激に波打つ。
寒い時 両手の平でお腹をあたためると
心地よさそうに動き出す。
背中かお尻の辺りを優しく指でなぞると
頭と足をつっぱって 思いきり伸びをする。

彼女には まだ会っていない。
もしかしたら
口が耳まで裂けていて 耳がとんがっていて
頭のてっぺんに角が生えているかもしれないけれど
それでも私は彼女をこの世界に生み出して
10ヶ月間 あたためて
そして産み落とすのだから
やっぱり可愛いに違い無い。

凄く不思議なのだけれど
早く お世話をしたくて仕方が無い。
綺麗に髪を洗ってあげたり オムツを替えてあげたり
指と指の間に握りこんだ汚れなんかを
隅々まで 綺麗に拭ってあげたり。

マタニティーブルーというけれど
産後鬱になんて かかるかな。
不安なことも沢山あるけれど
皆が皆 一様でないことは当然だし
自分が力不足なのは充分にわかっているし。
彼女と一緒に楽しめばいいし
彼女と一緒に成長すればいい。
私が育て上げる だなんて おこがましい。
多分きっと 彼女に助けられる事も
教えられる事も 励まされる事もあるだろう。
私が一方的に 偉くはないさ。
ただ 一方的なのは 
私が彼女を守らねばならないことだけ。
不思議だな 本当に 不思議だな。


子供なんて欲しくなかったのに。
いざ 生まれるとなると こんなに大切。
気持なんて変わりやすい。
事実が気持を引っ張るものなのかも。


彼女はきっと 幸せに違い無い。
少なくとも 私よりは。
そうしてあげたい という思いがあるから。


33週7日目。
もうすぐ正期産。





...

32週7日目 - 2005年04月21日(木)

最近自分でも 随分病んでいるのを感じる。

この時期 妊婦はホルモンバランスの関係で
情緒が不安定になるらしいけれど
ホルモンバランスというよりも 思い通りにならないからだと
些細な動きだけで すぐに張るお腹を持て余している。
それと あと もう一つあげるならば
自我と母性とのせめぎ合いとでもいうかな。


私は多分 子供を産んだって 「女」だな。
それが子供に 時折 淋しさや冷たさを感じさせるだろうことは
予測できる。
だけれども私は 多分 私である事をやめられない。
それがまた 哀しいんだな。


衣更えの途中で放ったらかしにされている夏物の衣服が
部屋に散乱している。
一度取り出して 順次お洗濯して アイロンをかけてから
クローゼットに収納する。
ただそれだけのことが 思うようにできなくて もう4日目になる。
夜遅く 疲れて帰る彼に当たってしまい 明け方に口論になる。
彼は何も強要しないけれど しなくてはならないと言う義務感が
私を追い立てる。


実家に一時避難したとしても 救われない。
問題は其処にはない。
きっとただ 時間が必要なだけだ。



ひとりになりたい。








...

声。 - 2005年04月13日(水)



朝 雲一つない青空がビルとビルの隙間に覗く空一面に
広がっていたのだけれど 正午を過ぎた今頃には
今にも雨が降り出しそうな 不機嫌な曇り空に変わっていた。

晴れた空をカーテンの隙間から眺めていたら
何だか不思議な違和感を感じて 手にしていた抱き枕を
ぎゅっと抱き締めた。
何かが違う周期で回転しているような そんな気分だった。

昨晩 言い争いをした。
それは どちらが悪いとも正しいともつかぬ内容で
結局明らかになったのは ただの「違い」だった。
そもそも そういうものの考え方をする人だとは
ある時から 知ってはいたから
怒りや悲しさよりも 諦めと疲労を感じていた。

お腹の中で彼女が窮屈そうに伸びや屈伸を繰り返している。
最近 急激に成長しているのとは裏腹に
私のお腹は思うように膨らまないようで
時折 激しい抵抗のような力を中から感じていたりする。
ここにもひとり 私とは違う考え方をするだろう人間が
いるのだと思うと複雑に感じる。
良識も 常識と同じく 均一ではなくて
それを否定された時 私は私の中心軸をへし折られた気分になる。
一体私に 何を望んでいるのだろう。

ふと 周りをみまわすと だけどやっぱり 
空虚な声だけが聞こえてきて実体がないモノがそこにあって
私はそれにすがりつこうとするけれど
握りしめた手のひらには やっぱり何も残っていなくて 結局
私は 此処に残っているように思う。


櫻は多分 いまから降り始めるだろう雨に
綺麗に流されてしまう。
トタン屋根の上で昼寝をしていた縞猫は 何処かに消えてしまった。
またひとつ 大切なものをなくしたような そんな気分。















...




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