身体に受けるのは、浮遊感と―――この上ない、一瞬の喜び。
真っ逆さまに落ちる感覚と、重力に逆らい浮く感覚。
暗闇から抜け出し、光を求めて。
世界が『赤』を司り、様々な音が辺りに満ちた…柔らかくて優しくて、心地好い感覚。
その中で、彼女は様々な―――『音を司る者』と出会う。
彼女自身も、その『音を司る者』の…その一人である。
司る音に相応しく、優しく慈愛に満ちた美しい人であった。
自分自身を司る、その名は。
「慈愛を秘めし者」
自分たちが本来存在する世界とはまた違う、この『赤』の世界で…
「はじめまして…?ううん、違うわ。―――久し振り、ね?」
彼女は柔らかく微笑むと、目の前にいる者達を優しく抱きしめた。
「ねえ。」「お姉さん、お姉さんは、私達と」「ここに、いるの?」
三つの色彩を持つ三人の少女達は、そう言いながらそれぞれが彼女に甘えるように擦り寄る。
「ふふ、大丈夫。私は…この『世界』でも、一緒に居るわ」
『…本当?』
少女達の声が、見事な三重奏で聞き返した。
小柄だが、鋭い瞳を持ち…強大な力を秘めた少年が、首を傾げて尋ねる。
「アンタは、この『世界』では―――俺と同等の存在か?」
「どうなのでしょうねぇ。私は、あなたとは少し違うと思うけれど」
でも、と言葉を紡ぎながら、彼女は少年の帽子に手を伸ばして取ると…その髪を優しく撫でる。
「ううん、違わないわね。生まれ方が違っても、同じよね?この『世界』は、全てに等しいものね」
「…ああ、多分。そうだと思うよ、『慈愛』のお姉さん」
「……お姉さん。…怖い、怖いんだけど―――どうしたら、良い?」
赤い服を纏った長身の青年が、その外見に似合わず子供のように震えながら、彼女に縋る。
彼女は青年の頭を優しく抱きしめて、その震える手を握り締めた。
「あなたは…まだ、やっぱり子供なのね。大丈夫よ、この『世界』には怖いものなんてないわ」
「でも…僕は―――」
「ひとりだけじゃないの。みんな居るでしょ?さあ―――周りを、見てみるの」
彼女は、この『赤』の世界において。
姉のように、母のように―――無償の愛を注ぐ存在。