lucky seventh
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ねぇ?
どうして?
言葉なんていらないね、だって 思いだけでキミに伝わる。
紅い蝶
「なんてコトだ…これは呪詛だ。」 幾人もの人に囲まれたその真ん中に、1人の年端もいかない女が寝かされている。 血の気の引いた顔に、ぎゅっと閉じられた瞳と荒い息が表情を作る。 女の手によって皺になった布団、その力の強さが恐ろしいほどの呪力によって なされた呪いだと物語る。 普通の者だったら命がなくなってもおかしくはない。 だが、女はまだ生きていた。 神気も持たぬ筈なのに。
「この状態は異常です。」 苦い顔をしたのは陰陽師見習いの男だった。 「この娘には何かありますね。」 確信を抱いて言う男に、周囲の者は息を呑んだ。
敵か見方か。
見方ならばいい、しかし敵ならば生かしておく訳にはいかない。 今は不安定な情勢だ。 いつどこから間者送られてくるかわからない。
生かすか、殺すか。
沈黙が辺りを支配した。 「見捨てると言うのか?」 ぼそりと男は言った。 「やむおえん」 静かな空間に女の荒い息だけが響く。 「しかし!」 「仕方ないじゃないですか」
はらり はらりと蝶が舞った。
「紅い蝶?」 女の周りに寄り添うように紅い蝶がいつのまにか居た。 するとどうだろう。 「 ?」 微かに目を開いた女が人の名を読んだではないか。 かなり意識が混濁していたはずなのに、確かに女は誰かの名をよんだ。 切なそうに笑いながら。 「 」
手を伸ばし、呼んだ。
守るから、キミだけを。
そう言って、キミはいつも傍に居るんだね。
あの日、アタシの目の中に映ったのはあの 青の色。
アオイハル
肩より長い、自慢の黒髪を三つ編みにして、 睫毛バサバサ、デカくて切れ長の瞳をメガネで隠した。 木の葉を隠すには森の中とはよく言ったもんだ。 とりあえず群集にまみれて、それでアタシは… アタシはただひたすら再来を待っていたのかもしれない。
アイツがこの町に帰ってくるのを。
ここで待っていようと思った。 そのために、日ごろの行いを改めみたりした。 だけど、アタシの作戦は思わぬところでは功を奏しすぐたらしく、 ちょっくらイジメにあったりなんかしている。 本音を言うと、 そろそろ地獄を見せてあげようか?と、言いたくなる。 もしもアタシの半身がここにいたら、二つ名が泣いていると たいそう嘆かれていたことだろう。
悪魔の如き女
それがアタシの二つ名。 この名がアタシの生き様。 悪魔の如き強さと、恐ろしいまでの嫌悪感によって形作られた。 その姿はまるで地獄の悪魔そのものだと。
「もう、ええよ。」
彼女はぽつりと言って、微笑をひとつおとした。
「もう、ええから。 おおきに ね。」
女の子なのにかさかさな手、唇。 病んでしまって細くなった腕と身体。 髪の毛なんてあんなに長く、美しかったのにばっさりと切られてしまった。 それでも彼女は、笑う。 自分は幸せだったよ言うように、もう終わってしまったかのように、 そうして彼女は、笑う。
助かったはずなのに、 助けられたはずなのに、
「かんにんしてな」
それは誰へに対しての謝罪だったのだろう? そう言われた時、最初は分からなかった。 けれど、彼女は分かっていた。 彼女は最初からあきらめていたのだ。 希望さえも抱けない。 願うことも、祈ることもとうに彼女はやめてしまっていた。
そんな彼女に何ができただろう? そんな彼女に何ができるだろう?
あの頃、大きな屋敷に使用人見習いとして弟たちと働いていた。 桜の季節だった。 その日は、屋敷の主人が急な用事で出かけけることになり たまたま午後から空いていたので、すぐ近くの公園を花見がてら散歩しようと思い、出かけた。 使用人見習いであるものの、使用人としては名のある血族の自分たちを 欲しがる家はたくさんあった。 この家も例に漏れない。 雇われることはあっても、仕える主は1人だけ。 それが家のしきたりで、どこの家も自分が主になろうと、 何かとゴマをすってきたりしたので比較的自由な身だった。 この自由がいつまで続くのだろうかと、考えながら歩いた。 仕えるべき主を見つけられるまで自分は半人前のままだから、 自分はいつか一人前になって、誰かに仕えたい思うのだろうか… 考え事をしながら歩いていると、いつのまにか見知らぬ場所に足を踏み入れていた。 そこは広場のような場所で、こんなところに公園があったかと首を傾げた。 平日の午後というだけあって、そこは静まりかえっていた。 ただ風に舞う桜の花々が、まるで薄紅色の炎のようで、まるで煉獄のようだった。 その風景に見とれるように立ち尽くすと、かすかな音が聞こえた。 目を向けると、いっそう色鮮やかに色づいた木の下に彼女はいた。 パジャマにカーディガン その出で立ちからすぐに、彼女がこの近くにある大きな病院の患者だと言う事が分かった。
「どなたさんでっしゃろ?」
目が合うと、彼女はふわりと笑った。 その時、なぜかその笑顔がこの舞い落ちる花弁と同じように見えた。
彼女は心無い人に手折られた、桜の枝。 散る前の刹那輝きをまとうた人だった。
「すいません。ここは私有地でしたか?」
慌てた。 いつのまにか人様敷地に足を踏み入れてしまったなんて。
「私はこの近くの家で使用人見習いをしているものです。」
あわてて謝罪をして、軽く礼をすると 彼女は少し驚いた顔して、それからニヤリと笑った。 その顔に、こっちが驚く番だった。
「おやまぁ、これはけったいなお客さんで…」
楽しそうに彼女は笑い、そっと近づき腕を取った。
「お時間があるんやったら、ちょい付きおうてくれまへん?」
それが、彼女との。 生涯唯一の主人との出会いだった。
「泣いてるん?」 彼女の声が聞こえた。 「なに、泣いてんよ。」 そっと目じりに触れた気配がした後、 苦笑したように、聞こえた。 夢の現の中にまで、彼女の声が聞こえる。 「心配たくさんかけてんよね。」 悲しそうな彼女の声に、 違う。 そう言いたかった。 自分たちが勝手に心配したいだけだから、 そんな悲しそうな声で言わないで。 「ありがとう」 そっと髪をすく感触、 「ほんに ありがとうね」 彼女が笑った気がした。 「ごくろうさん」 そっと暖かな毛布が掛けられて、暖かいその気配に意識がまた落ちていく。
何もできないけれど、 けれど、 その優しい手を離したくない。 いつまでも、 いつまでも、お傍に。
貴女が笑っていられるのなら、 それだけで、こんなにも幸せなのだから…
ナナナ
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