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2013年08月30日(金) セは読売、パは楽天で決まりかな

2013シーズン・日本プロ野球の順位の行方が見えてきた。セは読売、パは楽天でほぼ決まりだろう。読売は27日・28日・29日、2位阪神との3連戦に3連勝し首位を固めた。残り29試合、阪神とのゲーム差は8(M23)となった。パの楽天も残り32試合で2位ロッテと5.5ゲーム差(M26)。

8月29日(午前)現在の順位は以下のとおり。
(セリーグ)読売、阪神、広島、中日、DeNA、ヤクルト
(パリーグ)楽天、ロッテ、ソフトバンク、西武、日本ハム、オリックス

さて、今年3月26日付の当該コラムにおける筆者の順位予想は以下のとおり。
(セリーグ)読売、広島、ヤクルト、中日、阪神、DeNA
(パリーグ)ソフトバンク、日本ハム、楽天、オリックス、西武、ロッテ
あのときの予想の根拠を抜粋して書くと、以下のとおりであった。

(セリーグ)
(1)読売の戦力が群を抜いていること。
(2)その読売の弱点を敢えて挙げれば左投手不足。セットアッパー山口、中継ぎの高木康と高木京の力不足。先発では内海、杉内が下り坂。
(3)広島東洋、東京ヤクルトは投手陣が安定
(4)阪神は、元メジャーの西岡、福留に期待できない。とりわけ福留は、現役限界ラインに到達。深刻なのは抑え。藤川の代役が埋まらず。
(5)中日、横浜DeNAは投手陣が悪い。

(パリーグ)
(1)北海道日ハムは田中・糸井が抜けた大穴が埋まらず。
(2)新人大谷の「二刀流」は愚策
(3)パリーグは戦力が拮抗していて、どこが優勝するかわからない。筆者の予想順位は、ポストシーズンに残る可能性が高い3チームという意味。
(4)ダークホースとしてオリックス。糸井、坂口、T−岡田、イデホと並んだ重量打線は破壊力十分。

順位予想は大幅に間違った。その主因は、公式球の仕様変更すなわち「飛ぶボール」の使用にある。昨シーズンに比べて打が投より数段優位に立った。パワーヒッターを抱えるチームほど成績がいい。

なかで読売の戦力はやはり予想以上の充実ぶりだった。過剰ともいえる。野手陣は、長野、亀井、矢野、ボーカー、高橋、松本、村田、坂本、ロペス、阿部、寺内、藤村、二軍に谷、小笠原が控える豪華メンバー。2チーム分以上の戦力を保有していると言って過言でない。故障で戦線離脱したが、新戦力中井の台頭もあった。

読売の弱点として指摘した左投手だが、リリーフ陣では、まったくノーマークだった青木が活躍し、読売のピンチを幾度となく救った。不調の高木京の代役以上の働きをした。青木、マシソン、山口、西村のブルペンは豪華そのもの。他チームであれば切り札となれるクローザーを4枚もっているようなものだ。スターターでは筆者が不安視した内海が後半なんとか持ち直したし、杉内も故障しなかった。

5位とした阪神が2位と健闘しているが、やはり、クローザー不在が読売との差となって表れている。MLBに移籍した藤川の代役を務められる人材がいなかった。29日の読売との試合がそのことを最もよく象徴している。この試合、先発の能見がわずか1点のリードで9回まで続投。このことは、阪神に信頼できるクローザーが不在であることの表われだ。能見は9回無死一、三塁から坂本の犠打で同点に追いつかれ降板した。そればかりではない。阪神は延長10回、若手クローザーの松田を送り込んだが、読売・長野がその松田からサヨナラ本塁打を放ち阪神に3連勝。引導を渡した。

MLBに移籍した藤川は、故障でMLB一年目シーズンを棒に振った。なんとも皮肉な話だ。

阪神の元MLB西岡、福留の2選手については、西岡が打率286と、まあまあの成績。福留は2度の故障で43試合出場にとどまっている。打率は196の低率。筆者の現役「限界説」が実証されたシーズンとなりそう。

マスメディアは「巨人・阪神」伝統の優勝争いと騒いでいたが、戦力差は明らか。繰り返すが、打高投低の「飛ぶボール」の今シーズン、スターターの完投は至難のワザ。リリーフ陣の層の厚さが勝負を決めるケースが多い。読売は、メジャー通算233試合、13勝13敗、防御率3.99のパナマ代表のアコスタが一軍登録されないで二軍暮らし。マシソンがだめなら、アコスタというわけだ。ほかにも、高木康、久保、小山、越智、野間口、笠原、田原、江柄子といった他球団ならローテーション入りかクローザークラスの人材が、ゴロゴロと二軍に転がっている。豊富な資金力にものを言わせ、調子が悪くなったら控えはいくらでもいるよ、とレギュラークラスに圧力をかけ続けている。これで優勝できなければ、監督が悪いと言われて仕方がない状況だ。

さて、順位に戻ると、セの3位争いは広島、中日、DeNAが僅差でしのぎを削っている状態。どこが抜け出すかわからない。とはいえ、この3球団は勝率5割以下。クライマックスシリーズでリーグ戦5割以下のチームが阪神、読売をやぶって勝ち抜いたら、それこそ珍事だ。パは5位の日ハムまでチャンスがある。おそらく上位3チームは勝率5割を超えそうだから、まともなクライマックスシリーズになりそう。

筆者が首位と予想した日ハムが5位に低迷しているが、原因は言うまでもなく、大谷の「二刀流」起用にある。投に与えた影響は、ローテーションが確立せず、さらに、大谷の中継ぎ登板まであって、役割分担が明確化されなかった。打では、打順が一定せず、だれがレギュラーでだれが控えなのか混沌としてしまった。チームに落ち着きが戻らず、浮ついたシーズンで終始しそうだ。

打撃陣の田中、糸井の移籍は確かに戦力的にはマイナスだが、大谷という逸材を得たのだから、彼を、年間を通じて、ローテーションに入れるか中継ぎで使うかして、まずは守りを固めるべきだった。日ハムがクライマックスに進出できなかった場合の責任は、栗山監督の「大谷の起用法」にあったと総括できる。来シーズンは、投手大谷の能力を伸ばすことに注力することだ。そうすれば、投手力アップに確実につながるはず。

セ・パともこの先、奇跡が起きないとはもちろん言えない。だが、セもパも、このまま、読売、阪神、広島が、そして、楽天、ロッテ、ソフトバンクが、クライマックスに進出し、順位どおり日本シリーズ進出となる可能性が高そうだ。



2013年08月27日(火) 吉田麻也を潰したザッケローニ

サッカー日本代表の守備崩壊について、もう一度、整理をしておこう。繰り返し当コラムで書いたことだが、日本代表がW杯ブラジル大会行きを決定した後、コンフェデ杯、東アジア杯、親善試合のウルグアイ戦まで、信じられないような大量失点の試合が続いた。そこで重要なことは、守備崩壊の原因究明だ。考え方として、次のような整理が可能だろう。

(1)ザッケローニ代表監督の守備に関するロジックが間違っているのかどうか、
(2)守備の選手の選考が間違っているのかどうか、(換言すれば、監督の選手の起用法の是非)
(3)ザッケローニ監督がW杯本番を前にして、勝敗を度外視して、チームをテストしているのかどうか。

結論を先に言えば、このような一般的原因究明のための複数のアプローチは不用だった。守備崩壊の原因が簡単明快に明らかになった。CB吉田麻也のコンディション問題だ。

先日、イングランドプレミアリーグが開幕したにもかかわらず、吉田は所属するサウサンプトンの試合に出ていない。2試合目も不出場。報道によると、「(吉田欠場は)昨季終盤の股関節負傷の影響か」との質問に、サウサンプトンのポチェッティーノ監督は「彼は(その状態で)コンフェデ杯に望んで出場した。そして開幕前キャンプの開始に遅れた」と返答。負傷の治療よりコンフェデ杯参加を優先した決断に疑問を呈したという。

コンフェデ、ウルグアイ戦において、DF吉田麻也の状態が普通でないのは、素人にも明らかだったが、ザッケローニは吉田を使い続けた。そして彼の選択は最悪の結果を招いた。ザッケローニは、吉田を潰す覚悟で日本の勝利を目指したにもかかわらず、その吉田の動きの鈍さのため日本は惨敗を重ねた。それだけではない。案の定、吉田はプレミアリーグの開幕に間に合わなかった。吉田のサウサンプトンにおけるレギュラーの座も危うくなった。

結果論と言われようと、筆者の考えとしては、吉田に配慮して、コンフェデ杯、ウルグアイ戦は代表に呼ばず休養させ、早くにクラブ(サウサンプトン)に戻すべきだった。しかし、ザッケローニはそうしなかった。

海外でこのようなことが起きれば、海外メディアはすぐ反応し、ザッケローニ批判が起きただろう。だが、日本のメディアは、管見の限りだが、吉田の故障に触れず、ザッケローニ批判もしなかった。日本では、選手は所属するクラブのものだという認識が薄く、代表がすべてに優先するような風土がある。コンフェデで強豪を相手になんとか1勝を――というのがザッケローニの思いだったのか。

筆者は、「吉田問題」の本質として、代表監督の危機管理という視点を重視したい。ザッケローニの「故障者吉田の起用」は愚行であり、代表監督失格である。サッカーは人間がするスポーツなのだから、怪我や故障はつきもの。いつでもベストメンバーで戦えるわけではない。バックアップメンバーでもクオリティーが落ちないような備えをすべきだ。

日本代表のDFの選手起用について、たとえば、吉田・今野のCBコンビがベストだとするならば、それはそれでいい。しかし、控えにどういう備えをするかがさらに重要な事項となる。たとえば、ベテランの闘莉王・中澤佑二を入れておくという手もある。もしくは、中澤だけ入れておいて、栗原勇蔵とのマリノス・コンビでCBを形成するという選択肢もあるのではないか。前任者が選んだ選手は起用したくない、という意地のようなものは必要ない。海外組の吉田に比重をかけすぎた結果が、最悪の事態を招いたのだから。

ならば、もう一人のレギュラーのCB今野泰幸はどうなのかだが、筆者は今野の才能をユーティリティーに見出す。彼は本来、CBの選手ではない。だが、CBもできる選手。3バックのリベロが最適役だろう。3バックがなじまないいまの日本代表の場合、今野はその器用さゆえ、守備の控えとして、代表選手に選出させておきたい。CBはもちろん、ボランチ、SBも可能だ。今野がベンチに入るだけで、4つのポジションの控えが可能となる。

守備崩壊はCBだけの問題だけではない。守備的ミッドフィルダー(ボランチ)の選考にも頑なさがみられる。「日本の心臓部」といわれるボランチは、遠藤保仁と長谷部誠で鉄板とされてきた。遠藤はドイツ大会、南アフリカ大会と、2度のW杯を経験(ドイツ大会は試合出場なし)した超ベテラン。長谷部は日本代表のゲームキャプテンを務めている。彼らの功績によって、アジア予選を勝ち抜けたと言って過言でないかもしれない。ところが、アジアレベルでは有能な彼らが、格上を相手にしたとき、必ずしもその有能ぶりが機能するとは限らない部分もなくはない。

遠藤・長谷部の2人のボランチ・コンビをどう考えるか――は、日本が世界のトップレベルと戦う場合のゲームプランのたて方に直結する。どんな相手であっても、攻めて勝つのだ、という玉砕戦法をとるならば、遠藤・長谷部で構わない。しかし、少ない確率だがあくまでも、勝利もしくは勝ち点を目指すのならば、ハードワークのできるボランチに差し替える手もある。その場合、大雑把に言えば、ボランチに、相手の攻撃の芽を摘むという役割を担わせることになる。では6人で守るのかと反論されるが、そうではなく、攻守の早い切り替えが可能となる選手を起用する、という意味だ。

日本はW杯アジア予選を通じて、固定メンバーによる組織性を重視したことは理解できる。しかし、W杯本番に限らず、世界の強豪相手に試合をするという前提で代表チームを点検するならば、より広い視野が必要となる。90分間、走れるフィジカルをもつ選手を中心にチームを再構築してほしい。



2013年08月20日(火) もはや本田を切るしかないな

日本代表再建策について、より具体的な提案をしておく。内容が前回と重複する部分もあるが、それは改めて強調したいがためだ。

●危機意識が見られないザックジャパン

サッカー日本代表が危機にある。W杯ブラジル大会の出場を決めた後、すなわち本年6月中旬以降の国際試合――コンフェデ杯、東アジア杯、親善試合のウルグアイ戦まで、日本代表が喫した失点は、以下のとおり。ブラジル0−3、イタリア3−4、メキシコ1−2、中国3−3、オーストラリア3−2、韓国2−1、ウルグアイ2−4。この結果を見れば、日本の守備が崩壊していることは一目瞭然だ。

守備陣が崩壊した要因としては、試合をした相手がこれまでよりも強かったという面もあるが、筆者が当コラムでしばしば書いてきたように、CBのミスによるところが大きい。DFレギュラーでは、今野、吉田のできがきわめて悪い。さらに、東アジア杯では、守備陣については、新たに招集された選手で構成されたにもかかわらず、失点が止まらなかった。ということは、代表監督であるザッケローニの守備に対する戦略、戦術、指示が間違っていると考えたほうが自然だ。つまり、ザックジャパンは、守備に関して間違った意識で練習をし、試合に臨んでいるとしか言いようがない。

ザックジャパンは、監督、選手を問わず、危機意識が見られない。プロスポーツの監督という職業においては、自からの力量を自ら否定しまったならば、その職にとどまることは難しいから、ザッケローニが守備崩壊を認めるはずがない。それは了解できるのだが、選手もそれに同調しているところが誠に気がかりだ。

●ザックジャパンの癌は本田

いまの日本代表のあり方に最も肯定的な選手の一人が本田だ。そして、そのメダルの裏側として、ザッケローニ体制で、本田は「絶対的」存在になっている現実を見なければならない。W杯アジア予選を戦いぬいている間、日本代表は本田がいないと勝てない、という状況になってしまった。それを本田本人が自覚しているかどうか不明だが、最近の本田のコメントを、報道を通じて知る限り、彼を制御できる者が、いまの日本のサッカー業界には存在しないのだな、と筆者は不安を覚える。

本田は、W杯出場決定後、コンフェデ杯(ブラジル)に臨んで、「自分たちは、優勝するつもりでブラジルに行く」と発言した。テレビ画面のそのシーンを見たとき、筆者は本田の真意を計りかねた。本気なのか、それとものぼせ上ったのか、景気づけなのか――まあ、どちらでも構わない。筆者はブラジルでの試合の結果が、本田に日本代表の現状を認識させるだろう、と半ばあきれながらも、見過ごしていた。

そして、コンフェデ杯で日本は案の定、惨敗した。しかしそれでも、本田の高姿勢は是正されなかった。2戦目・イタリア戦の「善戦」が本田の意識を変えることを難しくした。本田は、コンフェデ杯後に至っても、ザックジャパンを肯定し続けた。そして、ホームの親善試合・ウルグアイ戦の惨敗後も、本田の口から反省の弁はもちろん、日本代表に対する危機意識を感じさせるような発言は聞かれなかった。むしろ、この期に及んで、日本の守備を「称賛」したくらいだ。

●本田の錯誤――サッカーは「個の力」という思い込み

本田の一番の勘違いは、サッカーは「個の力」だというところにある。もちろん、「個の力」に負うところは大きいのだが、日本代表の中には、メッシ(アルゼンチン)、ファン・ぺルシー(オランダ)、ネイマール(ブラジル)はもちろん、親善試合で惨敗した相手のウルグアイのスアレス、フォルラン、カバーニ(今回は来日せず)に匹敵する「個の力」を有する選手はないな。「個の力」を力説する本田といえども、スアレス、フォルラン、カバー二の力量に比べれば、本人がどう思っているかは別として、劣ることは明白だ。日本は、ウルグアイに、その主力の一人であるカバー二を欠いて惨敗した。それが日本の「個の力」に頼るサッカーの限界でなくてなんであろう。

本田の錯誤をもっとも鮮明に象徴する最近のコメントを報道のとおり紹介すると、「日本でプレーしている選手は、はやいとこ、海外に出たほうがいい」であろう。海外組を偏重するザッケローニと本田の価値観は、彼のこのコメントからシンクロしていることがよくわかる。

海外でプレーをする経験からだけでは、サッカーがチームプレーを本質とする実体が理解されない。本田のサッカー哲学から導き出された姿勢からでは、格下の日本が強豪を相手にした場合、前線から守備の意識を高めなければ勝ち目はないことが認識されない。前線で守備の意識が高いのは岡崎ただ一人。本田の哲学が浸透した日本代表のレギュラークラス、とりわけ前線の選手(岡崎を除く)たちからは、守備の意識が抜け落ちた。本田が「王様」として日本代表に君臨する限り、日本代表には、チーム一体化した守備意識は醸成されることがない。

●本田は自分を欧州で高く売ろうとしているだけ

本田はなにを狙っているのか――といえば、チームの勝利よりも本田自身の、個人としての結果だろう。彼は欧州のビッグクラブに移籍をしたがっている。欧州のビッグクラブが本田に注目する機会は、彼の現籍であるCSKAモスクワにおける活躍よりも、日本代表でのそれのほうだ。本田は、日本代表が勝利するよりも、自身の活躍のチャンスを優先させている。そして、先述したように、本田をだれも制御できないでいる。ザッケローニ監督ですら、「本田頼み」になってしまっている。

本田の意識を変えることは難しい。それが彼の日本代表における絶対唯一のモチベーションになっているからだ。だから、本田を「王様の座」から引きずり下ろせばいい。本田を控えにまわすか、代表から外すことだ。そして、守備意識を高めたチームに向けて、残り10カ月をかけて、日本代表を改造することだ。このミッションは、ザッケローニに託すべきではない。

●日本が掲げた「攻撃重視」の呪縛

遡って2010年、日本サッカー協会の幹部たちは、日本がW杯南アフリカ大会でベスト8入りを果たせなかった総括として、「攻撃型」へのチーム改造を選択した。守備重視の岡田ジャパンでは、ベスト16が限界だ、だから、攻撃型に代表チームを改造しなければならない――そのようなテーゼに基づき、代表監督選考を開始した。当初は、スペイン人監督を中心に交渉が始められたようだが、難航した。日本代表監督に魅力を感じる第一線級の人材は、欧州ではなかなか見つからなかった。その挙句にようやくたどり着いたのが、イタリア人のザッケローニだった。ザッケローニはその経歴からして、過去の日本代表監督を凌ぐレベルだった。欧州では無名のオフト、アフリカしか実績のないトルシエ、監督素人のジーコに比べれば、代表監督歴はないものの、セリエA、しかもACミラン、インテル、ユヴェントスの「ビッグスリー」を率いたことのあるザッケローニは、その経歴において、それまでの外国人監督を圧倒していた。しかも彼は、日本サッカー協会の意向をよく理解した。

そこから開始されたのが、本田を中心とした日本代表のチームづくりだった。そのときを前後して、GK川島、DF長友、DF吉田、MF長谷部、MF細貝、MF清武、MF香川、FW岡崎、FWハーフナー…と、欧州クラブに移籍を果たした選手たちが、代表入りを果たした。それは大変結構な傾向で、日本よりレベルの高いリーグで試合の経験を積めば、本田が言うように、「個のレベル」はアップする。そうなれば必然的に代表チームのレベルも上がる。このような流れを自然だと考えない人は皆無だろう。

ところが、それがそうではない。海外一流リーグに人材を送り込んでいるのは、むろん、日本だけではない。どころか、W杯ベスト8を常連とする中南米、アフリカ等の国では、ほぼ代表全員が日本で言う「海外組」だ。アジアでは、オーストラリアが日本より多くの選手を欧州各国に送り込んでいる。だから、日本はオーストラリアに公式戦で勝てない。欧州では、自国の代表選手でも、自国のクラブのレギュラーになれないケースもある。つまり、日本選手がいま実践できている程度の海外移籍はグローバルに見れば、たいしたことはない。世界も進歩している、しかも、そのテンポは日本よりも早い。

●ジーコジャパンに酷似してきたザックジャパン

このような錯誤は、ジーコジャパンでも見られた。2002年W杯日韓大会でベスト16入りを果たした日本(トルシエ代表監督)は、その後、多くの選手が海外移籍を果たすようになった。ところが、トルシエの遺産をうまく使いこなせなかったのが、ジーコだった。

2006年W杯ドイツ大会の日本代表登録メンバーのうち海外組は、DF;中田浩二(スイス/FCバーゼル)、MF;中田英寿(イングランド/ボルトン)、中村俊輔(スコットランド/セルティック)、稲本潤一(イングランド/ウェスト・ブロムウィッチ)、FW;高原直泰(ドイツ/ハンブルガーSV)、大黒将志(フランス/グルノーブル)だった。なお、小野伸二は日本の浦和レッズ所属だが、直前までオランダのフェイエノールトにいた。 小野を含めて実に7選手が海外組だった。これは当時としては驚異的な出来事だった。ジーコ(当時代表監督)は海外移籍組に全幅の信頼を寄せ、彼らを使い続け、W杯ドイツ大会で予選敗退した。

コンフェデ杯ブラジル大会ではどうだっただろうか。GK;川島永嗣(ベルギー/スタンダール・リエージュ)、DF;長友佑都(イタリア/インテル・ミラノ)、内田篤人(ドイツ/シャルケ)、吉田麻也(イングランド/サウサンプトン)、酒井宏樹(ドイツ/ハノーファー)、酒井高徳(ドイツ/シュツットガルト)、MF:長谷部誠(ドイツ/ウォルフスブルク)、細貝萌(ドイツ/ヘルタ)、本田圭佑(ロシア/CSKAモスクワ)、FW;岡崎慎司(ドイツ/シュツットガルト)、ハーフナー・マイク(オランダ/フィテッセ)、乾貴士(ドイツ/アイントラハト・フランクフルト)、香川真司(イングランド/マンチェスター・ユナイテッド)、清武弘嗣(ドイツ/ニュルンベルク)と、海外組は実に14人に上り、ドイツW杯時の2倍、日本代表史上、空前の海外組日本代表チームだった。

●走力を生かし、チームに献身する姿勢を全員が取り戻せ

海外移籍選手が増えれば増えるほど、日本代表は強くなる――はずなのだが、実際はそうではない。むしろ、サッカーの質は、ザッケローニが日本代表監督に就任した当時よりも悪くなっているように思える。就任当初、ザックジャパンは相手を完封して勝つ試合が多かったように記録上は見えるのだが、この結果は、相手が弱かっただけ。結果よりも、内容としての最近のザックジャパンの欠陥は、運動量、走力が落ちていることだ。その主因は、W杯ブラジル大会予選を勝ち抜いて、気が緩んでいるためだ。そして、先述のとおり、本田を筆頭とする「個の力」崇拝がチームに浸透した結果、守備によるチームへの献身の意識を、チーム全員が失ったためだ。意識のないところに、行動が起こることはあり得ない。

だから繰り返す、ザックジャパンは本田を代表から外し、「本田イズム」を一掃し、走力をもった、体力の強い、献身的な選手を選考し直し、チーム再構築を果たさなければならない。そうしないで、代表メンバーを多少入れ替えたくらいでは、泥沼状態はW杯本番まで続くことになる。

そして、このミッションを託せる代表監督は○×▽しかいない。



2013年08月15日(木) ザックジャパン再建策

<国際親善試合:日本2−4ウルグアイ>◇14日◇宮城スタジアム

サッカー日本代表が実力どおり、南米の強豪ウルグアイに完敗した。スコアをみると2−4で日本が善戦したようにも見受けられるが、内容的には大敗に近い。日本の2得点は試合の趨勢が決定したのちに上げたもの。ウルグアイとの実力差は明らかだった。

日本はコンフェデ杯から、ブラジル(0−3)、イタリア(3−4)、メキシコ(1−2)と連敗し、東アジア杯では中国(3−3)、オーストラリア(3−2)、韓国(2−1)に負けなかったものの、親善試合のホームで、この惨敗である。日本と世界のトップクラスとの間には、大きな実力差があることが大衆レベルで明らかになった。

思えば、W杯アジア予選を突破した直後、すなわち、コンフェデ杯ブラジル大会に臨む直前、「この大会は優勝するつもりだ」と豪語した日本代表の主力選手がいたような気がする。日本のマスメディアのヨイショ記事に判断力を失って思い上がった結果だとは思うが、この選手のセリフと結果とのギャップに哀れさだけが漂う。

筆者は当該コラムにおいて、日本の実力はアジアのベスト4にすぎず、「W杯ベスト8」常連国の実力はまだついていない、と、しばしば書いてきたので、このような結果に驚いていない。むしろ、日本のメッキが剥げてよかったと思っている。

アジアでは通用するが、中南米、欧州のトップクラスに通じない日本は、ではどうしたらいいのか。W杯開催まで10カ月というこの期に及んで即効薬があるはずもない。新戦力の投入といっても、レギュラークラスと彼らの実力に大差はない。ならば、引いて守ってカウンターに賭ける作戦もないとはいえないが、それでは前回南アフリカ大会と変わらない。グループリーグの相手次第で予選を突破する可能性がないとは言わないが、ベスト8入りは相当厳しい。

日本の弱点はCBである。ウルグアイ戦でも、CB吉田麻也(サウサンプトン)が失点につながるミスを連発した。前半27分に縦パス1本でFWスアレスに裏を取られ、それがFWフォルランの先制点につながった。後半7分には中途半端なクリアをまたもや失点につなげられた(その直後にDF伊野波と交代)。

吉田のできはコンフェデ大会から一貫して悪い。もう一人のCB、今野泰幸(ガンバ大阪)も不安定である。そもそも、この2人のうちのどちらかにDFラインを統率する力量があるのかどうかが疑問である。攻撃を重視するあまり、DFラインを無理やり上げると簡単に裏を取られる、それを恐れてラインを下げると、相手にバイタルエリアを使われて、決定的な場面をつくられる。マンツーマンなのかゾーンなのかも曖昧である。とにかくDFに規律がみられない。行き当たりばったり、成り行きまかせで守っているとしか思えない。ラインコントロールが失われているから、SBの上がり下がりにも不安気だ。ボランチ(遠藤・長谷部)との連携も不安定なまま。

DF、とりわけCBの力量からすれば、フィジカル、判断力、統率力、運動量において、南アフリカ大会のレギュラー闘莉王、中澤に劣っている。吉田は若い。明らかに経験不足。さらに、コンディションも悪いように見える。故障があるのではないか。それだけではない。そもそも、今野はCBの選手なのか。彼がG大阪に移籍した2012シーズン、G大阪の守備は崩壊したではないか(その結果、G大阪はJ2に降格)。

攻撃陣も悪い。いまのレギュラークラスに絶対的に不足しているのが運動量、走力だ。実力において劣っている日本代表選手が、格上の相手に勝つためには、相手より運動量(走力)で勝るしかない。相手DFの穴、空いているスペースを巡る戦いにおいて、走力で相手に勝てれば、決定機となるようなパスやクロスを上げることができる。アジアのDF相手ならば、マークを外せるたような場面でも、強豪国では無理。だから、いま以上のスピードと動きの質で相手を上回るしかない。そういう意味で、フィジカルの強い選手を代表に送り込むべきなのである。

日本代表は、記録を確かめてはいないが、南米の代表チームに勝てないような気がする。南米の守備は伝統的に厳しくて強い。その理由は、彼らが生活を賭けて守備に専念してきたからだろう。日本のサッカー選手にはその厳しさが不足している。いまさら厳しさを身につけろと叱咤しても、そう簡単にはいかない。日本のプロサッカーの歴史は20年足らず、向こうは100年を超えているのである。だから、その厳しさを潜り抜けるためにも、走力で相手を凌駕することだ。そういう判断に基づいて代表選手の選考をやり直せば、日本にも活路は見いだせる。もちろん、ザッケローニが代表監督を続ける限り、それは無理というものだが...。


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