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2015年02月14日(土) |
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君がいないことより |
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死んだ女の子の誕生日。 ロックグラスに満たしたウィスキーを黙々と煽る。
音を絞ったテレビではちょうどユーロを放送しており、エリザベータ・タクトゥミシュワが綺麗な3Lzを降りたところだ。 そのディスプレイの光を受け、ガラスの容器に入った赤いキャンデーの輪郭がうっすらと光りを帯びる。 彼女に渡しそびれたホワイトデーのキャンデーは、賞味期限を過ぎてからもう十年以上経つ。 泥酔し、夢で逢おうと願い、二日酔いの頭痛で顔をしかめ起きる。 そんな朝を十回以上過ごしていることになる。
ウィスキーのグラスを覗く。 溶けた氷がアルコールの中で、煙草の煙のような対流を見せる。 ぐにゃりと、一瞬視界自体が歪んだような錯覚を起こす。
すっかり。 君の声を忘れてしまった。 君が一枚だけ残した、あの音源は君が死んで以来聴いてないんだ。
ディスプレーに照らされたキャンデーの赤。 ウィスキーに溶ける氷の輪郭。 君の声も、姿も、想い出も、今は全て曖昧だ。
今は、君がいないことよりさ。 君がいないことに慣れたちゃったことが、淋しいんだ。
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